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国税不服審判所の役割とその存在意義 その4

2021/05/06

いつものことながら、こうしてパソコンに向かってキーボードを叩きながら、果たして自分の書いている文章が、そして内容がコラムに値するか否かを考えあぐねています。というのも、職業柄、取り扱うモノが無味乾燥な「税」を対象としているからです。然りながら、最近時は、「もう、いい加減、税務行政庁の悪口は止めたらどうだ!」と言われる程、ないしは言われているのではないかと思えば思う程に、内心に秘めた租税正義(感)のようなものが疼き出すのです。大学教員を定年後、自らを取り巻く租税に関わる環境の中で、人として正直にあろうと必死に藻掻く一方で、その人の集団である租税行政庁という社会もまた正直であって欲しいと願うからなのでしょうか。でも、そうでなければ、残り少ない人生に、仮令幾分かの妥協はあったとしても、自分なりのケジメをつけることができないような気がしているのです。それは、ドンキ・ホーテが風車に立ち向かった姿に似ているのかもしれません。

 

前回までにも述べているように、札幌国税不服審判所は、どうすれば租税行政庁が傷付かずに、そして、如何にして自らの組織が課税の現場からは一応、距離を置く、独立した組織であるかのように振舞い、威厳を保つかということに腐心する当該組織の行動、言動に辟易しています。裁決書の前回からの続きの()においても、札幌国税不服審判所は、原処分庁を庇うかの如く、筆者が原処分庁の竹田洋介統括官と二木統括官らに手交した質問書面の内容を、「当時の関与税理士の関与の度合いや札幌地方検察庁の取調べの状況等を踏まえた事項など、主として本件査察調査に関する質問事項及び意見」だとしています。しかし、その認識は如何なものでしょうか、税務代理人として原処分庁から調査の説明が聞きたくて態々、税務署に赴いていて、それがなされないとき、それに係る事項を措いて、査察調査を主たる内容とする質問をしたとでも言いたいのでしょうか。全く、「札幌国税不服審判所よ、イイ加減にしてくれ!」って叫びたい衝動に駆られます。

 

当該裁決書ハ「当てはめ及び請求人の主張に係る検討」において、札幌国税不服審判所は、真に検討したような素振りをしながらも、その実、そのこと深く切り込んで検討したようには全く思われません。因みに、請求人(税務代理人)は、原処分庁の曖昧な認定、適切性を欠く調査、さらには明らかな違法な調査等から得られた資料等に基づく、事実の基礎を欠く原処分庁側の主張に対して①任意性及び信用性に疑義のある質問てん末書は絶対的なものではなく、本件争訟のような場合、刑事訴訟法を参考とすべきところ、対立当事者による反対質問を受けていない上記質問てん末書は(絶対的)証拠能力を欠くと評価されるものである旨、②原処分庁は、平成273期の法人税の更正処分等において、訂正された当時の関与税理士の申述を考慮することなく処分しているところ、当該処分は誤った事実認定に基づくものである旨、③本件査察担当官による、肺癌が脳に転移し、正常な判断ができない程病状が進行している審査請求人の関係法人の元代表取締役OT氏への質問調査の強行など、④筆者(税務代理人)は、本件調査の終了の際に本件調査担当職員から調査内容及び経過等の説明を受けていない旨、及び⑤本件交付書面の日付欄は本人外の人物が記入するなど、本件交付書面は捏造されたものであり、調査内容及び経過等の説明を受けた証拠とはならないことから、調査手続には違法があるとして、本件各更正処分等は取り消されるべきである旨を主張しています。

 

これらの①から⑤を含むそれ以外についても、請求人(税務代理人)は、逐一(反論)証拠を示した上で主張をしていますが、札幌国税不服審判所は、それらの証拠には目もくれず、自らにとって判断し易い、また、原処分庁の主張のうち、請求人に反論されてもそれに反論できそうな事項のみを摘んで、上記「当てはめ及び請求人の主張に係る検討」としています。少し、長いですが、以下に当該裁決を引用してみます。「本件質問調査対象者は、質問調査における申述内容を記載した質問てん末書の内容に誤りがないことを確認した上で、署名、押印又は指印するとともに、質問てん末書の中には本件質問調査対象者からの申出に基づき、その末尾において訂正等が行われたもの及び質問てん末書の記載事項について、後日、訂正等が行われたものが存在するなど、上記質問てん末書の任意性及び信頼性に疑義は認められず、また、本件査察担当官が作成した上記ロの()の本件工程表の予定日(実施日)及び結果欄には、本件質問調査対象者との日程調整を含めた接触状況が記載されるなど、本件査察担当官による質問調査が任意のものであったことがうかがえるほか、請求人の主張する半強制的な言い回し及び質問調査の強行などの事実は認められないことから、本件査察調査に係る証拠収集手続において、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上の限度を超えるような重大な違法があったとはいえない。」

 

「さらには、上記ロの()の本件調査経過記録書における各記載は、本件手続チェックシートに記載された内容と一致するなど、他の証拠と整合するものである上、本件調査担当職員と代理人税理士とのやり取りや代理人税理士の発言に関する記載は、具体的かつ詳細であり、内容自体や内容相互に不自然な点も見当たらない。これらのことからすると、本件調査経過記録書には信用性が認められ、本件調査経過記録書における各記載は、平成291110日の税務代理人に対する調査結果の内容の説明の際の状況を正確に記録したものと認めるのが相当である。なお、請求人は、別紙3の1の(2)のロのとおり、本件調査の内容について理解・納得できないことから本件質問書面を提出した旨主張するが、上記ロの()のとおり、本件質問書面の内容は、主として本件査察調査に関する質問事項及び意見であるところから、本件質問書面の存在が本件調査に係る調査結果の内容の説明が行われていないことの証明にはなり得ず、また、請求人は本件交付書面はねつ造されたものである旨主張するが、本件交付書面の控えの氏名欄には税務代理人の筆跡による署名があることから、請求人の主張には理由がない。以上のとおり、本件査察調査によって収集された資料等を基に行った本件調査の調査手続には違法がないから、請求人の主張にはいずれも理由がない。」とする裁決をしています。しかし、札幌国税不服審判所による本裁決に至る過程の事実認定には少なからぬ誤りがあります。

 

以下に、当該裁決について請求人(税務代理人)の視点から検討してみたいと思います。先ずは、全体を通じて、札幌国税不服審判所は、請求人の資料等の証拠に基づく主張を、何も考慮することなく、「はじめに結論ありき」の方針の下、原処分庁の恣意的な判断、認定をそのまま写し取り、それを自らの認定として最終的な判断、裁決をしており、独立した第三者的立場の納税者の権利・利益の救済機関の判断と評価されないのが実態です。札幌国税局査察部が作成した質問てん末書の問題点については、質問てん末書の中にはその末尾において、訂正等が行われたもの及び後日、訂正等が行われたものが存在する」ことが、質問てん末書の任意性及び信頼性に疑義が認められないことの理由だとしています。しかし、これについては以前に請求人が触れていたように、査察担当官らが如何に強引に誘導・誤導し、調査対象者に虚偽の情報を与えてまで原処分庁側に都合のよい資料を入手、事実以外の申述を強要したかの一端を如実に示していると思われます。すなわち、本件質問調査対象者らは、査察調査の場の雰囲気に吞まれ、自らの記憶ないし思いとは違うことを申述させようとする本件査察担当官の強い意思に、一旦は同意しつつも、熟考・熟慮の結果、その場で又は後日訂正したものと考えられます。事実、本件質問調査対象者に再度、筆者が個別に面談して聞き取りした結果、全員から同旨の答えが得られています。

 

また、本件査察担当官が作成したとする本件工程表の予定日(実施日)及び結果欄には、本件質問調査対象者との日程調整を含めた接触状況が記載されていることが、本件査察担当官による質問調査が任意のものであったことを窺わせ、半強制的な言い回し及び質問調査の強行などの事実がなかったことを認める根拠であるとし、本件査察調査に係る証拠収集手続において、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上の限度を超えるような重大な違法があったとはいえないとの結論を導いています。しかし、近時最も信用性、信頼性を欠くものの一つに挙げられるのが、森友学園に係る財務省の公文書改ざん問題であり、如何なるレトリックを用いようとそれらの全ては、最も信用性、信頼性を欠く租税行政庁の内部調査の域を脱せず、また、それらの結論に至る要素のどれ一つの結び付きを取り上げたとしても、論理の飛躍があり、結論(裁決)を導くには無理があると言えます。(つづく)

           文責(G.K


 

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