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国税不服審判所の役割とその存在意義 その6

2021/05/25

裁決書(謄本)の記述に沿って、今回は、4(2)争点2(本件各更正処分の理由付記に不備があるか否か。また、本件当初各更正処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件各更正処分をしたことは、違法か否か。)について述べたいと思います。これについては、裁決書に謂う争点1と2は、本来、1つの争点に集約した上で、改めて争点1とすべきであるとし、ここまでにその理由及び内容等につき述べてきたところでもあり、重複する部分、個所についてはご容赦を頂きたいと思います。

 

裁決書は、イ「本件各更正処分の理由付記について」の()法令解釈と題して、札幌国税不服審判所は、最高裁判決のうち、自らの判断(裁決)を示すのに都合のいい部分だけを摘まんで、「行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合は、同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される(最高裁平成2367日第三小法廷判決・民集6542081頁)」のみを判決から部分引用し、それに続く判示部分及び補足意見を省略して論理を飛躍させ、「当該処分の理由が、上記趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由の提示として不備はないものと解するのが相当である。」との我田引水的結論を導いています。

 

しかしながら、先ず、本件事案については、札幌国税不服審判所が、わざとがましく争点として取り上げるまでもなく「理由付記に不備があった」からこそ、原処分庁は、禁じ手の「当初更正処分を取り消し、処分理由を差し替えて処分理由を追完」した再処分を「原処分」としているのであって、当該争点は背理を内包し、その取り上げ方自体に問題があり、理由付記に不備があったことは明らかで、疑いようのない明白な事実です。また、当初各更正処分を取り消し、「処分理由を差し替えて本件各更正処分をしたことは、違法か否か」についても、これに関する判例法理は、累度の最高裁判決により既に確立しており、上記最高裁平成2367日判決は、それを確認するとともに、最高裁としての最初の判断を示し、併せて以下のような行政手続法14条の解釈等についての補足意見を明らかにしています。

 

すなわち、「不利益処分をなすに当たり、理由の付記を必要とする旨の判例法理が形成されているといえる。そして、学説は、この判例法理を一般に以下のとおり整理し、多数説はそれを支持している。その法理は、平成5年に行政手続法が制定された後も基本的には妥当すると解されている。① 不利益処分に理由付記を要するのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせることにより、相手方の不服申立てに便宜を与えることにある。その理由の記載を欠く場合には、実体法上その処分の適法性が肯定されると否とにかかわらず、当該処分自体が違法となり、原則としてその取消事由となる(仮に、取り消した後に、再度、適正手続を経た上で、同様の処分がなされると見込まれる場合であっても同様である。)。」

 

「② 理由付記の程度は、処分の性質、理由付記を命じた法律の趣旨・目的に照らして決せられる。③処分理由は、その記載自体から明らかでなければならず、単なる根拠法規の摘記は、理由記載に当たらない。④ 理由付記は、相手方に処分の理由を示すことにとどまらず、処分の公正さを担保するものであるから、相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず、第三者においてもその記載自体からその処分理由が明らかとなるものでなければならない。」としています。この点につき請求人は、本件の審査請求において、原処分庁の本件処分に係る更正通知書における根拠法条の提示の曖昧性(直接証拠の不存在、調査時における違法証拠収集、根拠法条の無提示及び根拠法条提示の再三の変遷等)、随所に存在する課税標準の抽象的ないし曖昧な計算過程及び当該計算の誤り、事実認定及び適用法令の曖昧性による、請求人における非推知性を主張しています。

 

しかし、札幌国税不服審判所は、それらの請求人の意見書による主張、指摘に対し、意図的な無関心を貫き、無視して耳を塞ぎ、目を閉じ、それらの重要な客観的事実が存在していないことを前提とした法令解釈をしています。上にみるように、最高裁平成23年判決は、従来の判例法理が、理由附記に関する瑕疵は処分の内容的適否とは無関係に独立の取消原因となるとし、また、従来の判例法理同様、理由附記の追完は取消原因となることを確認しています。因みに、最高裁昭和47331日判決は、「再調査決定の附記理由が仮に不備でなかったとしても、これにより遡って更正処分の附記理由の不備が治癒されると解することはできない」と判示して理由附記の追完は認めないとしています。

 

また、札幌国税不服審判所が引用する最高裁平成23年判決は、「理由提示の要件を欠いた違法な処分は」、取消しを免れない旨を確認しています。然るに、原処分庁は、法人税等更正当初処分の理由附記の不備を治癒すべく、当該更正処分を一旦取消した上で、理由を差し替え、同日行った本件法人税等更正処分が原処分だとしています。これは、多分に上記最高裁昭和47331日判決を意識した(当初処分がなかったものとしたかった)ものとも思われますが、いずれにしても、最高裁平成2367日判決で、上記①の括弧書きで確認しているように、更正処分の取消後、再度、適正手続を経た上で、同様の処分がなされる場合であっても、取消事由となることを明らかにしています。

 

このように、札幌国税不服審判所の裁決は、確立している判例法理を蔑ろにし、最高裁判決に抗うものであるところから、少なくとも、この点(原処分庁が当初更正処分を取消し、理由を差し替えて同日付で再更正処分を行ったことの可否及び理由附記の程度の判断)につき、同審判所の独自で、納税(義務)者に納得のいく説明ないし見解を明らかにすべきです。その上で、同審判所は、本件判断と従来の判例法理及び最高裁判決との法的観点からの具体的な相違を明らかにする必要があります。

 

そのほか、札幌国税不服審判所は、その作成した争点の確認表において、対外的、表面上は、「審理に当たっては、双方の主張を十分に聞いた上で、公正妥当な結論を得るよう努めている」としながらも、その実、審査請求書、その後に提出した意見書等の書面及び口頭意見陳述並びに面談等における請求人の主張を一切考慮することなく、恣意的に争点を確定させ、原処分庁(国側)と一体となって、有利に作用する事項のみを(国側が勝利するような)争点設定したことについても、その理由及び経緯等についての明確な説明が求められます。

 

前回のコラムで札幌国税不服審判所は、「最も信用できない、いわば国税行政当局の内部報告を、検証することなく」そのまま認定していると述べましたが、国税行政当局の内部報告は、原処分庁による責任を回避する「言い訳」、「言い逃れ」及び「嘘」を指し、それについては後に詳述しますが、ここではその事実の一端を述べたいと思います。原処分庁は、納税者に対する税務調査において、臨場した調査官が認容した事項及びその他の指導や発言等を、後に、「税務署(原処分庁)の公式見解の表示ではない」として、平然とそれらを覆して更正処分の対象としており、札幌国税不服審判所は、それを吟味することなく、そのまま無批判に受け容れ、その認定を前提とした裁決をしていると思われます。

 

これは、国税通則法74条の2から74条の6条までに規定する国税職員の質問検査権を課税庁自らが否定、放棄するもので、これを札幌国税不服審判所は容認することになりますが、このような矛盾を同審判所は、請求人を含む納税者(国民)にどう説明するつもりなのでしょうか。(つづく)

文責(G.K

 

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