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国税不服審判所の役割とその存在意義 その8

2021/06/15

前回のコラムで、平成253月期の消費税を計算する上では、外注費を1,000万円減少させ、同時に、売上も1,000万円減少させなければならないと述べましたが、これに伴って、(仕入税額が減少するので)課税売上に係る消費税額も約476千円減少することになります。このように、原処分庁の更正処分のこの部分だけに着目しても、その理由付記は曖昧、不正確、不適正であり、審判所は何処の何を見て「具体的に記載されている」と評価しているのでしょうか。また、以下は(D)にも関わりますが、「給与手当の過大計上とされている35,536,282円」について、請求人は、「関係法人の給与明細一覧表(合計168,464,642円)の内訳明細を把握しなければ、再調査請求人として具体的反論ができない」旨を、審判所を経由して原処分庁に、累度に渡り求めました。

 

しかし、原処分庁は請求人の質問、反論を「当初処分を取消し、処分理由を差し替えて再更正処分を行うとともに、再調査の請求を却下する」ことで応答してきました。そして当該再更正処分においては、「給与明細一覧表の支給額」と名称を変更しており、その合計額が168,464,642円であったことから、答弁書においては給与明細集計額が177,846,130円となっているとして、請求人は、反論書で、「何をもって『再計算を行った』のか理解不能である」旨を主張しました。これに関し、審判所が原処分庁に求釈明したところ、原処分庁は「再計算」の根拠を見直したとしながらも、再計算したとはとても思えない曖昧な回答をしてきましたが、ともあれ、自らの誤りを認めています。

 

また、給与手当の過大計上額として認定されていた35,536,282円は、平成2711月札幌国税局査察第3部門総括主査Y氏及び主査A氏らの調査及びその後の指導に従って、当時の関与税理士を含めた三者間で調整、計算されて請求人の代表取締役に対する認定給与に当たる虞があるとして、関係法人への返却が求められていて、言わば精算済みの金額分が当該事業年度の請求人の所得金額に加算されていることが判明しました(後に審判所は35,435,232円と認定)。その結果、請求人の代表取締役は、その調整に基づく指示に従って、同人の金員を平成271214800万円、同月16800万円、同月18400万円、同月24200万円、平成28113500万円及び同月20400万円、合計3,100万円を返還し、残額については、同人の請求人(法人)に対する貸付金を減額する形で決着が図られていたものです。

 

給与手当の過大計上額として認定されていた35,536,282円については、元々は、請求人の関係法人のうちの1社に帰属するもので、本来、給与とは異なる趣旨の給付(名義人とされた者が受け取っていない)でしたが、その後、平成291122日付で原処分庁による当該関係法人の平成271月期及び平成281月期の法人税額等及び消費税額等の更正処分が行われ、これにより、当該期の収益及び費用等(35,435,232円については、全額交際費に振替)の帰属はすべて請求人とされ、審判所もこれを認定しています。

審判所は、上記の状況については、請求人の主張を通して十分に把握しておきながらも、自ら確認することを怠っていたと思われますが、この状況で、猶、更正の理由付記は「具体的に記載されている」と胸を張って言えるのでしょうか。

 

(D)の給与手当の過大計上額については、上に触れたとおり、当時の請求人の代表取締役が既に現金で弁償済みのものを、原処分庁は、更に更正処分の対象額に入れて計算しています。金額も大きいことから、許されるべきうっかりミスの範疇を越えています。また、審判所は、裁決書の中で、過大計上額、日付、内容、計算過程及び根拠法令が具体的に記載されていると述べていますが、この中のどれを取りあげても具体的に記載されているものはありません。35,536,282円の内容が不明であり、それにつき、原処分庁に質問しても答えないことから、筆者以外の他の代理人が、原処分庁に情報公開法を利用して計算過程等の開示請求をしましたが却下されています。

 

(E)の通則法704項について、改正前は、「偽りその他不正の行為により、国税を免れた場合の」課税庁がする更正決定等の期間制限を7年までとする旨の規定でした。しかし、本件更正処分等については、当該処分の対象期間が平成253月期~平成273月期とされていること及びそれと本件処分との関係、並びに法を適用する前提としての「偽りその他不正の行為」との認定等に疑問があることから、決して、裁決書に記載されているように「具体的に記載されている」ものではありません。むしろ、審判所自体での検討をせず、当該部分の原処分庁の主張をそのまま転載したものと思われます。続いて裁決書10B 本件復興特別法人税各更正処分の(A)の課税標準法人税額の異動額及び理由についてはそれが独立して決定されるものではなく、法人税の更正処分に伴うものであるところから、そして(B)の通則法704項の適用理由については、上に述べた内容とほぼ同一なので、それぞれ割愛します。

 

続くC 本件消費税等各更正処分の(A)本件各関係法人は、法人としての実体を有していないと原処分庁が認定した理由、(B)本件各課税期間における課税標準額、控除対象仕入税額、納付すべき税額の異動額及び計算過程並びに理由、(C)上記(B)の課税標準額の明細、(C) 通則法704項の適用理由及び(ㇵ)の当てはめについて述べたいと思います。裁決書には、「原処分庁による判断結果とその基礎とされた事実関係が具体的に明示され、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという趣旨目的を充足する程度に具体的に記載されている」として、「行政手続法141項本文の要求する理由の提示として欠けるものではない」と記載されています。

 

先ず、上記C(A)については、前回も触れたとおり、 原処分庁は、「法人の事業の実体性」と「法人自体の実体性」を混同しています。前回も述べているように、各関係法人は、それらの双方に実体性を備えています。上記(A)の記載振りからすれば、法人の実体性がないと主張しているように思えますが、そうだとすれば、「法人」は元々、法律によって擬制された組織体であることから、原処分庁の主張には背理があることになります。少なくとも、本件更正処分等において、実体論と租税法違反とを直接的に結び付ける主張を展開する原処分庁、更にはそれを是とする審判所の判断に、請求人が推知、納得する理由附記に関する具体性を見出すのは、到底、不可能と言うべきです。

 

上記の(B)について言えば、全く何一つクリアーになっているものはありません。そこには、次のような疑問が明らかにされていないからです。原処分庁は、請求人らは偽りその他不正の手段を用いたと主張するところ、基準期間のない事業年度という制度上の欠陥に由来する問題を、強引に本件各関係法人の根拠のない実体面の問題にすり替え、さらに、本来、本件各関係法人に係るべき問題を請求人の問題へと論点のすり替えを行っています。何故なら、消費税法307項は、帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該事業者の仕入税額控除を認めないとするものですが、その効果として、取引の相手方事業者の仕入税額控除を認めないとする規定ではなく、あくまでもそれは当該事業者である筈だからです。

 

もとより、請求人らは悪意で「法の欠缺」ないしは「法の不備」を突き、法を潜脱し租税回避を企図したことはありません。基準期間のない事業年度に係る免税期間の善意・合法的利用については、「法の欠缺」、「法の不備」であり、納税義務者がその法的責任を負うべきものではなく、立法によって当該法の不備は解消されるべきものであり、原処分庁の主張は、わが国の消費税制度自体を否定することにも繋がります。この点につき、審判所はどのように判断したのでしょうか。審判所も職権による調査を行い、それにより把握した事実を根拠として判断を行うべきであり、原処分庁から、文字通りの独立した裁決を出すべきであり、その判断の基礎とした事実を明示することが、審判所としての必要最低限の義務であるように思われます。(つづく)

 文責(G.K

 

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