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国税不服審判所の役割とその存在意義 その9

2021/06/25

続いて、裁決書は「請求人の主張について」のAとして、原処分庁がした本件各更正処分のうち、法人税に関する請求人の反論として、「原処分庁は、本件各関係法人は事業実体がないとして、法人税法第22条各項の規定を根拠に本件各更正処分をしているが、本件各関係法人は適法に設立された法人であるなど否定される理由はなく、また、同条第2項は、いわゆる計算規定であり、当該規定に否認規定の役割を担わせ、独立した法人間の取引の一方を否認し、他方の計算として引き直すことまでは当該条文の文言から読み取ることはできず、本件各更正処分には理由付記に不備がある旨主張する。」と記載しています。そして、当該裁決書は、「本件各更正処分に係る通知書には、原処分庁が認定した事実に基づき生じた課税標準等の具体的内容及びその根拠となる法令を記載したものであり、行政手続法第14条第1項本文の要求する理由の提示として欠けるものではない」とし、「請求人の主張は採用できない」と結論付けています。

 

しかし、前回までに述べてきたように、原処分庁が認定した「事実」の基礎となる重要な部分に、誤りがあり、法令違反があり、計算ミスがあり、虚偽も存在していたりし、また、審判所は、請求人からそれらの存在についての指摘を受け、原処分庁の事実認定は不適正・不適法とのコロラリーになることを十分認識していたにも拘らず、それらの指摘(主張)に目を瞑り、耳を塞ぎ、それらの事実(主張)について検討することなく、原処分庁の主張を追認しています。例えば、法人の実体論と租税法違反についても、状況証拠を徒に誇張、その悪性を強調するのみで、明確な証拠が示されていません。

 

因みに、「法人」は元々、法律によって擬制された組織体であり、実体があるわけではなく、法人税法も「法人擬制説」を採っていることから、原処分庁及び審判所の「法人に実体がない」との主張は背理と言うべきです。本件各関係法人と取引に係る否認の根拠規定については、原処分庁は、当初、法人税法第22条各項の規定としていましたが、請求人からの「同条第2項は計算規定であり、当該規定に否認規定の役割を担わせ、独立した法人間の取引の一方を否認し、他方の計算として引き直すことまでは当該条文の文言から読み取ることはできない」旨の指摘に、原処分庁は主張を変更しました。

 

すなわち、原処分庁は、請求人からの審査請求書に対する答弁書において、法人税法第22条第2とし、更正通知書にはなかった「等」の一文字をこっそりと忍ばせ、その内容を、法人税法第22条ではなく、法人税法第11条及び消費税法第13条第1項であると主張を変更しました。請求人は当該答弁書に対して、法人税法第11条は、法人所得の帰属に関する規定であり、本件各関係法人が実際に収益を享受していることから、当該規定は適用できない旨の更なる反論をすると、原処分庁は「…法人税法11条及び消費税法13条の観点から検討はしているものの、これらの規定に基づき判断したものではなく、総合的に勘案した上で…、222項に基づき、7つの基準に照らして判断した」と更に主張を変遷させています。

 

しかも、それら7つの基準は、「一般に認められている基準」ではなく、このケースで、原処分庁が課税をするために「恣意的に定めた7つの基準」を持ち出して、それらを法人税法第22条第2項に照らして判断したとしました。そこで請求人は、法人税法第22条第2項は計算規定であり、これに否認規定の役割を担わせ、独立した2法人間の取引の一方を否認し、他の法人の計算として引き直してよいとまでは、当該条文の文言からは読み取ることはできない上、原処分庁にそのような権限が与えられていると読み取ることは不可能である旨を主張しています。

 

このように、原処分庁の本件各更正処分に係る根拠法令についての主張には一貫性がなく、常に変遷しており、また、本件更正処分等に係る根拠法令に関する説明自体も曖昧、不明確であり、本件更正処分等についての審判所の判断(裁決)「原処分庁が認定した事実に基づき生じた課税標準等の具体的内容及びその根拠となる法令を記載したものであり、行政手続法第14条第1項本文の要求する理由の提示として欠けるものではない」は、憲法に規定を置く租税法律主義及びそれの要素を構成する課税要件明確主義の観点からも、決して、容認できるものではなく、最高裁も、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな」い、と判示しています(最高裁平成2232 日判決、民集642420頁)。

 

次に、裁決書「請求人の主張について」のBにおいて、原処分庁がした本件各更正処分のうち、売上計上漏れに関する請求人の反論として、「原処分庁は、請求人の総勘定元帳の問題点を何ら指摘することなく原処分庁が請求書控等から計算した売上と総勘定元帳の売上との差額を売上計上漏れとして認定しているとともに、平成273月期において給与手当の過大計上額を認定し、処分しているが、計算過程が何ら記載されていない根拠不明な処分である旨主張する。」と記載しています。そして、「上記売上計算漏れについて原処分庁は、本件法人税各更正処分に係る通知書に、売上として認定した取引の日付、金額(消費税込)及び取引の内容を記載した売上明細書を添付した上で、総勘定元帳との差額を売上計上洩れとして記載しているとともに、平成273月期の給与手当の過大計上額については、給与手当に係る総勘定元帳の計上額、給与明細一覧表の支給額及び総勘定元帳の計上額と給与明細一覧表の支給額との差額を記載した表を添付しており、このことは、行政手続法第14条第1項本文の要求する理由の提示として欠けるものではない」とし、請求人の主張は採用できないと結論付けています。

 

しかし、これにつき請求人は、原処分庁に当該差額の内訳を質問していましたが、その回答は出される度に変遷している[1]上に、当時の担当者が異動しており、記録がなく、特定できない旨を回答しています。このため、一義的な挙証責任は原処分庁側に存在するものの、已む無く当方で検証した結果、当該差額は、「売上計上漏れ」や「売上除外」といった単一の要素からだけではなく、大別して二つの要素から構成されていることが判明しました。すなわち、その一つは、原処分庁の恣意的、曖昧な計算によるもので、「記録がなく、特定できない」とするもので、その中には以下の事実をも内包しています。審判所からの求釈明に対して、原処分庁は、初めてT社、M社からの売上については、「税抜工事請負総額に対する消費税相当額が売上計上漏れとなっている」旨を回答しました。

 

しかし、請求人においては、両社から指示された金額で毎月の請求書を作成するとともに、消費税相当額は最終支払時に加算するという商慣習に基づく経理処理を継続的に行っており、当時、税込経理を採用していた請求人において、その金額に消費税が含まれているものとして経理処理していたことに何ら問題はありません。そうでなければ、売掛金の回収精算時まで、常に消費税分を先払いすることになります。仮に、元請先から示された月々の請求すべき額に、「税抜価格に出来高割合を乗じた金額」という算定方法であったとしても、それは単に両社間の毎月の請求金額算定ルールに基づいた金額決定に過ぎないものです。換言すれば、業者間で取り決められた商慣習・取引金額に、原処分庁が介入し、一方的、恣意的に「消費税相当額の加算漏れである」と認定しているものであり、原処分庁の事実誤認に基づく誤った課税処理の強制であることから、売上計上漏れにはならないこととなります。

 

平成273月期の給与手当の過大計上額については、驚く程、あっさりした記載表現となっていますが、これには重大な欺瞞と大変な問題が内在しています。すなわち、平成2711月札幌国税局査察第3部門総括主査Y氏及び主査A氏らの税務調査に伴うその後の指導に従って、当時の関係法人の代表取締役に対する認定給与とされる虞がるとの指摘を受けて、同代表取締役の個人の金員により、強制的に清算させられており、既に決着済みの35,536,282円が当該事業年度の所得金額に再び加算(後に審判所が35,435,232円と認定している。)されています。(つづく)

 文責(G.K



[1]審査請求書に対する原処分庁の令和2117日付答弁書によれば、「C氏及びT税理士が申述する計算方法によらず、本件利益調整額の算出に当たっては、総勘定元帳、売上に係る請求書控え、支払通知書等を基に売上額を算定し、当初売上計上額との差額を本件利益調整額(繰り延べ分)として算出した」とし、また、令和2313日付意見書では、「請求人が発行する請求書控え、売上先が発行した支払通知書、請求人の取引先から請求人の金融機関の口座に入金された金額・・・を根拠として」、請求人の各期の売上高として加算する金額を計算したとし、そして、札幌国税不服審判所を経由して質した(同審判所から原処分庁への求釈明)のに対しては、令和2630日付回答書で、「取引先(売上先)の売上高の認定に当たって、入金額により算定したもの、あるいは消費税額を加算して認定したものもある」と主張を変遷させ、その回答自体が二転三転している。

 

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