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国税不服審判所の役割とその存在意義 その10

2021/07/04

しかも、本件給与手当の過大計上額の件については、原処分庁に金額を含めてその明細を明示するよう幾度となく申入れしても、頑なに拒むばかりか、請求人の情報公開法を利用した開示請求をも、理由にならない理由を付けて、却下していたものです。已む無く、請求人は、札幌国税局査察部が押収して検察庁への告発時に証拠資料等として提出した膨大な量の書類の中から、当該部分を特定し、検察庁に開示請求をしていました。この余分とも言える手続きを経て、漸く、本件給与手当の過大計上額の全容解明に繋がりました。その内容と金額が、前回にも触れた、札幌国税局査察第3部門総括主査Y氏及び主査A氏らの指導に従って、当時の代表取締役に対する認定給与とされる虞がるとする指摘であり、関係法人の決算期の中で(強制的に)清算させられていた以下の内容(内訳)と金額です。

 

すなわち、当該過大計上認定額の内訳は、平成265231,600,000円、同年6251,589,670円(審判所認定額1,488,620円)、同年7251,523,830円、同年8251,500,000円、同年9251,500,000円、同年10241,500,000円、同年11254,038,899円、同年12253,000,000円、平成271233,000,000円、同年2258,817,070円、同年3253,000,000円及び同年3314,466,813円であり、合計35,536,282円(審判所認定額35,435,232円)です。審判所には、令和2727日付「審査請求人の意見書」において、本件の内容、その金額について指摘、主張しているところから、当然把握しているものと思われますが、本件更正処分等の時点では、既に清算、決着済みで、本来は存在しない給与手当の過大計上額を認定した原処分庁の虚偽認定を、そのまま、審判所は認定していることになります。

 

これまでに審判所宛てに、10通を超える請求人の「意見書」を提出してきましたが、令和2年の11月になって、工藤審判官からそれらについて目を通していない旨を請求人(代理人)に告げられ、空虚感に苛まれていましたが、その真意が、どうやら分かるような気分になりました。と言うのも、裁決書のボリュームからして、「結論ありき」の下、令和2年の早い段階から既に当該裁決書の骨格は決定されており、請求人(代理人ら)は、そのことに気付かず、無駄な努力をしていました。3名の代理人は、何とも、表現のしようのない後味の悪さを覚えたものでした。

 

続いて、裁決書においては、本件消費税等各更正処分に関する請求人の反論として、「本件消費税等各更正処分に係る通知書には、課税仕入れを否認する根拠法令が記載されていない旨主張する。」、「確かに本件消費税等各更正処分に係る通知書には課税仕入れを否認する根拠法令の記載はないものの、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、課税標準額、控除対象仕入税額及び納付すべき税額の異動額について、本件各関係法人は法人としての事業の実体を有していないと原処分庁が認定した理由を列挙した上で、当該異動額の計算過程及び取引ごとの内訳等が記載されており、このことは、原処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨を充足する程度に具体的に明示しているものと認められ、行政手続法第14条第1項本文の要求する理由の提示として欠けるものではない」とし、「請求人の主張は採用できない」と結論付けています。

 

消費税に関しては、本件更正処分等に係る事案の、言わば二大問題のうちの一つであるにも拘らず、本裁決書においては、呆気に取られる程、大きな問題を内包するテーマを、あっさり、簡単に触れて済まそうとしています。しかし、僅か5行程度でその理由(言い訳)を書き尽くせる筈はありません。本件消費税等更正処分等の本質は、原処分庁は、新設法人の基準期間のない事業年度内の解散に伴う事実上の免税期間という制度上の欠陥に由来する問題を、強引に本件各関係法人の根拠のない実体面の問題に置き換え、更に、本来、本件各関係法人に係るべき問題を請求人の問題へと論点のすり替えるものです。すなわち、原処分庁は、合法的免税期間の利用憎しとばかりに、「はじめに結論ありき」で基準期間のない事業年度の免税制度を悪用したと決め付けています。

 

原処分庁は、消費税については、その制度設計上の必要性から新設法人については基準期間(納税義務を判定する基準となる期間を指し、個人事業者であれば前々年、法人であれば前々事業年度を指す)のない事業者として納税義務を免除しているにも拘らず、新設法人である本件各関係法人には実体がないとして、更正処分をもって納税免除期間の消費税相当額をその取引の相手方である請求人の計算に置き換えています。しかしながら、本件各関係法人は当然に新設法人に係る納税義務免除制度の適用を受けるべきですが、それに対し何らの法的根拠も示さず、納税が免除されるという消費税の法制度上の欠陥に由来する問題を、強引に本件各関係法人の根拠のない実体論に結び付け、事業実体がないとする問題にすり替え、その特例期間の消費税相当額を請求人の計算に引き直しています。

 

基準期間は、主として、免税対象の小規模事業者か否かを判別するための、わが国の消費税の制度上の必要性に由来する宿命であり、欠陥でもあり、いわゆる「法の缺欠」ないしは「法の不備」と言われるものです。わが国への消費税の導入を急ぎたいあまり、政治主導で、消費税導入時の国民の反発を和らげ、小規模事業者の納税事務負担の軽減目的として設けられた、政治的妥協の産物であり、仮に、当該免税期間を利用することがいけないと言うのであれば、立法をもって手当てするのが「租税法律主義」の考え方と言うことになります。現に、そうしてこれまでに、法制度改正が行われてきてもいますが、ただ、当該部分を大きく変更することは、現行消費税法を否定することにもなります。しかしながら、請求人は悪意で「法の欠缺」ないしは「法の不備」を突き、法を潜脱して租税回避及び租税逋脱を企図したことはありません。ともあれ、法(制度)に由来する責任を、(強引に)納税者の責任にすり替えるのは誤りであると思われます。

 

因みに、原処分庁による消費税の更正処分に先立つ税務調査において、以下の事実を記した資料が存在します。平成252月の原処分庁による税務調査において、調査官は請求人の専務取締役であったC氏に対し、34社くらいの関係法人の名前を挙げて、「これらの会社は何ですか」と質問し、その質問にC氏は、「請求人の社員にすると社会保険に入らなきゃいけないから違う会社にしているんです。」と答えたところ、「調査官2人は『ふ~ん』という態度を示し、その件に関しそれ以上、T税理士(当時の関与税理士)やC氏に質問することなく、別の話題に移りました。」とする記録です。また、C氏の質問てん末書及び本人のメモ、並びに別の場所で供述した内容を総合すれば、平成25年の原処分庁による税務調査の冒頭部分で、請求人の本件各関係法人について、社会保険の都合上、別法人が必要である旨を述べたところ、それについて調査官らは「そうなんですね」とか「なるほどね」と言っています。

 

そこでC氏は、「今後こ(れら)の会社はどうしたらいいんでしょうか、教えてください」と質問したところ、札幌南税務署のS調査官は、「だって、この会社がなかったら困るんでしょう、だったら、続けるしかないでしょ」と答え、当該調査に同行していた同税務署U調査官からも「そうだね、仕方ないよね」との回答が得られた旨がC氏のメモには残されています。このことについて、平成27917日の税務調査において知里氏が、(前回調査時の同税務署の対応及び回答を)確認して欲しい旨を申し出たところ、札幌南税務署調査官のO氏は「前回の記録はない」と回答していますが、札幌南税務署の調査官の回答は、「桜を見る会」の国会における政府側の答弁と同様、既視感のある、欺瞞に満ちた、納税者としては納得できない答弁ではないでしょうか。

 

原処分庁を含む税務行政庁は、本件各関係法人には事業の実体がないとして新設法人に係る基準期間の納税義務の免除制度を適用することなく、調査等において、請求人の利害関係者等の被質問者に供述、申述を強要したり誘導、誤導したりして、それによって得られた、事実の基礎となる枢要な部分に誤りのある申述(証言)を基に隠ぺい・仮装があったと事実認定し、結果として、誤った法律の適用をしているように思われます。これまでにも幾度となく述べてきたように、本件各関係法人は、いずれも適法に設立され、独立して企業活動を行う実体を有しており、一次下請業者である請求人からの鉄筋工事を二次下請として受注し、実際の工事施工を行ってきています。原処分庁は、消費税法に行為計算否認規定がないにも拘らず、根拠規定を示すことなく、請求人から本件各関係法人への正常な外注費を否認して請求人の計算に引き戻し、人件費として計算し直しており、審判所はそれを認めています。(つづく)

文責(G.K

 

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