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国税不服審判所の役割とその存在意義 その11

2021/07/15

原処分庁は、本件各関係法人には事業の実体がないとして新設法人に係る基準期間の納税義務の免除制度を適用していませんが、これに関連する裁判例として、「租税法律主義の下においては、法律の根拠なしに、当事者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引き直し、それに対応する課税要件が充足されたものとして取り扱う権限が課税庁に認められているものではない」としたものがあります。また、本件更正処分等においては、原処分庁による税務調査等に、請求人の利害関係者等の被質問者に原処分庁に有利な申述を強要したり、誘導、誤導したりして、それによって得られた、事実の基礎となる部分に誤りのある申述(証言)を事実認定し、結果として、誤った法律の適用をしているものも存在しています。

 

これまでにも繰り返し述べているように、本件各関係法人は、いずれも適法に設立され、独立して企業活動を行う実体を有しており、請求人が受注工事積算、安全管理、進捗状況の管理、人工(にんく)の管理等を担当し、二次下請けである関係法人は、実際の現場で工事施工を担当しており、業務内容は密接な関係を維持しながらも独立して業務を遂行しています。また、消費税法には行為計算否認規定がないにも拘らず、「偽りその他不正の行為により税額を免れた」とし、その直接証拠を示すことなく、また、本件更正処分等に至らしめる根拠規定を明らかにすることなく、請求人から関係法人への正常な外注費を否認して請求人の計算に引き戻し、人件費として計算し直しているのです。

 

そして、さもさも、原処分庁(審判所を含む)の認定が正しいかのように、「上記(ロ)及び(ハ)のとおり、課税標準額、控除対象仕入税額及び納付すべき税額の異動額について、本件各関係法人は法人としての事業の実体を有していないと原処分庁が認定した理由を列挙した上で、当該異動額の計算過程及び取引ごとの内訳等が記載」してあり」、そのことが、「原処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨を充足する程度に具体的に明示している」と結論付けていますが、結論に至る立論には、ここまでみてきたように、数多くの問題が存在します。

 

すなわち、当該立論は、「本件各関係法人に法人の事業の実体」がないことを前提とするものであり、その前提は、決して客観的事実を前提とするものではない、信頼性の低い、課税行政庁内部における主観を「事実」の基礎に置くものであるからです。よって、前提が崩れれば、一挙に、立論も崩壊します。上記に請求人が述べたような情況にあって、審判所は、その主体的判断として、「行政手続法第14条第1項本文の要求する理由の提示として欠けるものではない」とし、「請求人の主張は採用できない」と裁決(結論)することが可能であると考えているのでしょうか?

 

続いて、裁決書ロの「本件当初各更正処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件各更正処分をしたことについて」検討したいと思います。裁決書においては、「請求人は、理由の差し替えを目的とした処分は、法の趣旨を無視した違法な処分であり、再調査の請求に対する処分に先立って本各更正処分を行ったことは通則法第83条第3項に違反した違法な処分である旨主張する。」と記載しています。そして、自らの判断として、「しかしながら、原処分庁が更正処分を取り消し、再度更正処分をすることができないとする法令の規定はなく、原処分庁は、適正な課税の確保の実現を図るため、更正処分等の瑕疵を発見したときは、課税の公平の見地から当然の権限の行使としてこれを取り消して新たに更正処分をすることができるものと解すべきである。」としています。

 

「本件の場合、原処分庁が、本件当初各更正処分に係る通知書に付記された更正の理由に不備を発見し、再調査決定に先立つ令和元年107日付で本件当初各更正処分を取り消して、本件当初各更正処分の理由付記を是正し、本件各更正処分をしたことは、瑕疵ある処分を是正したものであり、法の趣旨を無視した違法な処分とは認められない。なお、通則法第83条第3項は、再調査審理庁の決定に関する制限規定であり、税務署長が行う再更正又は決定に適用されるものではない。したがって、請求人の主張には理由がない。」としています。

 

上記の裁決のうち、処分理由の差し替えにつき、「原処分庁が更正処分を取り消し、再度更正処分をすることができないとする法令の規定はな」い、としています。確かに、更正処分を、一旦、取り消し、再度更正処分をすることができないとする法令の規定は見当たりませんが、しかし、理由附記の不備を理由附記に不備のない再更正でやり直すことができるかについては、学説、判例ともに理由附記の追完は認められないとすることに異論はなく、それは、以下に示す通り、最高裁が判示するところでもあります。最高裁判例には、既判力及び先例の拘束力が認められていること、また、更正処分に係る制度趣旨の観点からも、原処分庁及び審判所は、法治国家の中枢を構成するとも言うべき租税行政庁の一員として、当該判例法理及びその趣旨を尊重すべきことは言うまでもありませんが、裁判司法の判断に異を唱えてまでも、猶、「再更正処分をすることができないとする法令の規定はない」と言うつもりなのでしょうか?

 

因みに、理由附記の追完を認めないとする最高裁判決としては、①「…仮に本件再更正処分の理由附記に不備があるとしても、その瑕疵は再調査決定の附記理由によつて治癒されたというが、…再調査決定の附記理由が仮に不備でなかつたとしても、これにより遡つて更正処分の附記理由の不備が治癒されると解することはできないとするもの(最判昭和47331日民集262319頁)。また、②「…かりに本件更正の附記理由に不備があるとしても、その瑕疵は、本件審査裁決に理由が附記されたことによつて治癒されたものと解すべきであるというのである。しかし、更正に理由附記を命じた規定の趣旨…処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的として更正に附記理由の記載を命じた法人税法の規定の趣旨にかんがみ、本件更正の附記理由には不備の違法があるものというべきである。」(最判昭和47125日民集26101795頁)。等があります。

 

上記の裁判例は、単なる訓示規定に止まるものではなく、更正の理由附記の不備(理由附記の不備の治癒目的での追完)があれば、更正処分は取消されるべきであることを確定させたものです。というのも、更正処分の理由附記が不備である場合に、その追完が認められるのであれば、課税庁は更正処分では抽象的な理由を附記するに止め、納税者が再調査の請求等の不服申立や取消訴訟を提起した後に追完すればよいとの安易な態度に出ることが考えられ、また、処分時に完全な理由が示されないことにより、納税者に無用な負担を強いることにもなるからです。

 

また、同裁決書のなお書き部分の、「通則法第83条第3項は、再調査審理庁の決定に関する制限規定であり、税務署長が行う再更正又は決定に適用されるものではない」との記載は、通則法第81条第3項に規定するとおり、「再調査審理庁」とは、再調査の請求がされている税務署長その他の行政機関の長を指し、同法第83条第3項は、「再調査の請求が理由がある場合には、再調査審理庁は、決定で、当該再調査の請求に係る処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更する。」と規定されていることから、札幌南税務署長が決定で、当該再調査の請求に係る処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更しなければならないことになります。このような情況にあっても、猶、審判所は、「通則法第83条第3項は、再調査審理庁の決定に関する制限規定であり、税務署長が行う再更正又は決定に適用されるものではない。したがって、請求人の主張には理由がない」との言い逃れを主張するつもりなのでしょうか?(つづく)

文責(G.K

 

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