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国税不服審判所の役割とその存在意義 その12

2021/07/25

次に、裁決書の(3)争点3(本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引は、請求人が行ったものであるか否か。)について述べたいと思います。裁決書は、イ 認定事実として、「請求人提出資料、原処分庁関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。」として表示していますが、これまでも触れてきたように、審判所は、事実上、何らの調査及び審理をしておらず、ひたすら原処分庁の誇張表現、虚偽主張を無批判、無検討のまま認定しているように思われ、以下の認定についても、そのことが妥当すると考えられるところから、列挙されている各々について検討したいと思います。

 

()の本件各関係法人の設立等の状況についてのAとして、「本件各関係法人の設立、解散、事業目的及び本店所在地を決定していたのは専らA氏であり、司法書士に対し登記手続など所要の手続を依頼していたのは、C氏であった」、Bとして、「OS氏は、SS氏及びC氏から印鑑を貸してほしいと依頼され貸した以外は、K関係法人の設立に関与していなかった。」、Cとして、「SM氏は、A氏からH関係法人の名義上の代表取締役就任を依頼され、了承したほか、H関係法人名義の口座の開設をした以外は、同関係法人の設立に関与していなかった。」、Dとして、「O氏は、A氏からS関係法人の代表取締役就任を依頼され了承したほか、設立関係書類に押印した以外は、同関係法人の設立に関与していなかった。」、Eとして、「本件各関係法人の出資金の原資は、いずれもA氏、C氏夫妻の資金から拠出された。」と認定しています。

 

Aについては、一次下請け受注企業の経営者の判断として、手となり足となる二次下請である施工会社(関係法人)の立地の選定は当然であり、その設立に係る登記手続き等を司法書士に依頼するのも、これまた当然であり、取り立てて問題視する必要もなく、況してや、そのことと後述の本件各関係法人の事業実体がないこととを無理矢理結び付けて議論すべきではありません。また、なお書きにおいて、原処分庁は、はじめに結論ありきの方針の下、A氏、C氏夫妻を含めて請求人の悪性を強調すべく、本件更正処分等の対象期間外の関係法人の設立、解散に触れていますが、法令等にそれを禁止する規定は見当たらず、消費税については、平成264月までは税率が5%であり、しかも、預り金的性質を持っており、繰り返し述べてきているように、これを免れる動機はなく、給与支給額の2729%にも上る労使に共通する社会保険料負担の節減、回避(当時、事業所設立3年目で社保未加入事業所の調査が入ると言われていた。)が目的の関係会社等の設立、解散であったことは論を俟ちません。すなわち、当時の使用者側の事情として、ゼネコン他の大手事業者との受注契約の場合、現場の労働者の社保加入(健康保険、厚生年金、労働保険等)が義務化される一方、当時の元請事業者はその負担をしないため、一次下請事業者が粗利20%程度の中から労使で負担しなければならない状況にあったのです。

 

このため、労働者に手取りの減少をさせないよう、社会保険加入を避けたい強い動機が生まれ、それら保険未加入者の受け皿としての組織体(関係法人)を必要としていた現実がありました。原処分庁等の認定をそのままに、審判所は、本件更正処分の対象期間外の関係法人の設立、解散を取り上げて、それらに調査対象の2社、及び現在も存続している(関係)法人を加えて一括りにし、「請求人に係る関係法人の設立、解散をおおむね2年ごとに繰り返してきた」と、それ自体は違法行為ではないにも拘らず、違法行為を印象付けるべく、悪質性への印象操作をしているのです。既に述べているように、子会社等を設立して、2年で解散することを禁止する法規定は、特に存在しておらず、何らの問題もありません。ただ、税制、税務の分野においても何らの問題もないかと言えば、課税の公平性の観点からの異論があるのは間違いないところですが。しかし、法の不備に係る問題は、最高裁が武富士事件で示しているように、立法によって解決すべきであり、租税法律主義が支配する税法の分野においては法律の存在なくして、法的処罰等はあり得ません。

 

Bについても、取り立てて、問題視されることはないように思われます。代表取締役が直接、設立登記事務をするわけではなく、また、勝手にOS氏の印鑑を使用したわけでもなく、その事務手続きの実務は司法書士が担当するものであることから、代表取締役のOS氏がK関係法人の設立に関与していなかったとしても、無理からぬことです。しかし、そのことと、後述の本件各関係法人の事業実体とを強引に結び付け、印象操作し、議論すべきものではありません。Cについても、上記と概ね同様ですが、O氏が、H関係法人名義の口座の開設をしたことは、H関係法人の設立に、立派に関与していることになるでしょう。いずれにしても、そのことと、後述の本件各関係法人の事業実体とを無理に結び付けて議論すべきではありません。

 

Dについては、O氏がH関係法人の設立関係書類に押印している以上、同氏は、H関係法人の設立に関与していることになります。しかも、現在もS関係法人は、請求人の子会社(関係法人という呼称は、原処分庁が印象操作の一環として名付けた差別的な呼称ですが、一般には子会社、関連会社と言われる組織体である。)として存続しており、既に解散登記がなされている法人と関係法人とを一括りにして議論すべきではありません。いずれにしても、それらのことと、後述の本件各関係法人の事業実体とを強引かつ恣意的に結び付けて議論すべきではありません。

 

Eについて、原処分庁及び審判所は認定を誤っています。本件各関係法人の出資金は、それぞれの法人の代表者名義であり、A氏、C氏夫妻の資金から拠出されたものではありません。本件各関係法人の設立時、その出資のための資金が不足していた者に、一時的に同夫妻らが融資したことはあっても、その後に当該融通資金(貸付金)の返済は履行されています。このこと自体が、後述の本件各関係法人に事業実体がないとの判断に結び付くものではない上に、原処分庁及び審判所は事実認定の基礎をなす重大な要素を誤って認識しています。

 

続いて、裁決書記載の()本件各関係法人に係る代表取締役の業務執行等の状況について検討したいと思います。原処分庁及び審判所は、Aとして、「OS氏がK関係法人を設立してから解散するまでの期間「OY組」の屋号で建設業を営んでおり、K関係法人の事業の内容について認識がなかった」としていますが、それは、原処分庁及び審判所の主観的、恣意的な見方をしたものに過ぎません。「建設業を営んで」いると言っても、いわゆる二次下請け以下の一人親方であり、K関係法人の代表取締役との兼務が可能であり、事実そのようにしており、これは、殊更、他の者に予断を与える「悪意」の印象操作表現に他なりません。また、当時の妻だった請求人の代表取締役A氏の娘であるSS氏と同居しており、しかも同女は請求人の会社に勤務しており、「事業の内容についての認識」が全くない筈はありません。

 

Bとして、原処分庁及び審判所は、SM氏について、「事業内容、稼働の有無等についての認識」がないと認定していますが、SM氏は、請求人の代表取締役A氏の実妹であり、住居も近いこともあり、頻繁に請求人の会社にも顔を見せていたことから、かなり主観的、恣意的な判断であると思われます。また、Cとして、O氏に関する記載がありますが、確かにO氏は、S関係法人の設立以前から請求人の石狩工場で工場長として勤務していましたが、業務内容が請求人の二次下請であることに変わりはないことから、同様に、二次下請としてのS関係法人の代表取締役就任後も、当該業務内容に大きな変化がある筈はありません。売上については、請求人からの受注高に一定のパーセントを付して、S関係法人から請求人に納品書、請求書を出すことから、「具体的な売上や資金繰りについての認識」がないとする認定は、一方的、恣意的過ぎます。Dの取締役会についての原処分庁及び審判所の認定は、その基礎となる事実の把握を欠くものです。本件各関係法人においては、株主総会は開催することはあっても、取締役会は、その必要性がなかったところから開催してはいません。

 

このように、上記のABCDのいずれにしても、それぞれの事情が、直接、後述の本件各関係法人の事業実体を否定するものではありません。(つづく)

文責(G.K

 

 

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