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国税不服審判所の役割とその存在意義 その13

2021/08/05

前回に続いて、裁決書謄本14頁の()は、本件各関係法人に事業実体がなかったとの主張をすべく、原処分庁及び審判所は、本件関係法人の本店所在地の状況についてそれぞれABCDとして記載していますが、請求人はそれぞれを完全に否定するものではありません。

 

しかし、Aの「看板や電話を形式的に設置しているのみであって、それぞれの事務所として機能しておらず、従業員の寝泊まりの場所等や請求人の工場の事務所として使用していた。」については、建設業のうちの鉄筋工事業における二次下請という業種上ないし業態上の実態若しくは理由(実際の工事施工を担当し、いわゆる土場が事務所、休憩所の役割を果たす。)から、名目的な本店所在地があれば、二次下請け法人の事務所としては事足りるのです。BCについても同様であり、二次下請けの本店所在地及びその管理人等が業務を左右するのではなく、要は、元請先及び一次下請(請求人)との連絡がとれる体制であればよいのであり、殊更、悪質性に結び付けるべく、恣意的に取り上げて誇張、強調する遣り方は、税務行政庁がとるべき公正な態度ではありません。

 

Dとして裁決書謄本は、「S関係法人の本店所在地がO氏の住所地であり、固定電話が1台あるのみ」だったとしています。しかし、同関係法人の設立時点辺りから、大手ゼネコン等を含む建設業における福祉面充実の社会的機運の高まり及び法律による規制から、元請事業者が社保料負担をするようになり、一次下請として、二次下請である関係法人の位置付けや福祉面の考え方にも変化が求められることになりました。それらの状況を見据え、やがての飛躍を期し、当時のS関係法人の代表取締役O氏の意向をも尊重し、同関係法人の設立時点では、一時的に、本店所在地をO氏の自宅所在地としていたものです。

 

原処分庁及び審判所は、それらの事情や状況を全く考慮することなく、主観的、恣意的な判断をしたものと思われ、殊更、悪質性に結び付けるべく、取り上げ強調するのみではなく、税務行政庁としては、公正な態度で臨むべきであろうと思われます。いずれにしても、上記ABCDの事情は、後述の本件各関係法人の事業実体を否定する要素とはなり得ません。

 

次に、() として裁決書謄本15頁に記載されている本件各関係法人の資金等の管理及び経理の状況について述べたいと思います。先ず、Aとして記載されている本件各関係法人の請求人宛の請求書控、給与振込資料及び領収書等の原始記録が請求人の本社事務所で保存されていたことについては無理もないことです。曩にも述べている事情から、調査時点では、関係法人2社の重要な書類等を保管していて、それらが散逸したり、誤って廃棄されたりすることを避けるために本社事務所に保管していたもので、S関係法人については、代表取締役であったO氏のガン(原発は肺癌と思われる)が脳に転移した末期の状態で業務遂行不能であり、緊急避難的、臨時的に、事務所機能のみを請求人の本社事務所に移していたからです。

 

Bの本件各関係法人の代表印及び社判についても、上記とほぼ同様の理由で、関係法人2社が解散した後は、防犯、保安上の理由から特に代表者印及び社判を別々に保管していただけのことです。Cに記載されているK関係法人及びH関係法人2社名義の普通預金口座の通帳の保管については、Aの事情とほぼ同一であり、特に重要な預金通帳は紛失させる訳にはいかないことから、請求人の代表取締役であったA氏、専務取締役であったC氏夫妻の居宅に保管していたものであり、S関係法人についても、前記同様、O氏のガンの末期状態から業務遂行不能に陥っていたため、緊急避難的に、A氏、C氏夫妻の居宅に保管していたものです。

 

Dについて、SS氏は、調査当時、請求人とS関係法人の兼任従業員としての職務を遂行しており、当該両社の事務にはC氏も携わっており、税理士事務所に渡す前の会計資料作成に係る経理事務の手伝い等(起票、記帳の手伝い)の業務もしていました。しかし、基本的に、C氏自身に会計や経理の知識があるわけではなく、税理士の指示に基づいて伝票、請求書等の起票及び記帳前のデータ等を、再び税理士事務所に渡す前までの事務等をしていた程度であり、また、同女がSS氏を指揮して経理事務をさせていたと表現される程の、事務処理をSS氏にさせていたわけでもありませんでした。

 

Eとして記載されている請求人宛の請求書の作成について、調査時点での関係法人2社は、既に解散されており、他は、設立直後のS関係法人1社だけでした。同社も、上に見る事情から実質上、本店所在地を請求人の本店所在地に移転させており、SS氏が請求人の従業員と当該関係法人の従業員を兼ねることに当面の問題はなく、また、兼ねざるを得ない理由がありました。SS氏は、税理士事務所経由で戻ってきた会計情報を基に、C氏のチェックや補助を仰ぎながら、請求人宛の関係法人(S関係法人)からの請求書等を作成しており、原処分庁及び審判所が認定する「本件各関係法人の代表取締役は当該請求書を見たことはなかった。」などとする表現には、強い悪意と逋脱認定に向けた意図を見て取ることができます。

 

何故なら、上に述べるように、調査時点で、原処分庁及び審判所が指摘するような形態の中小企業が、わが国においては殆どであり、明らかに「結論ありき」の方針の下、「本件各関係法人の代表取締役が請求書を見たことがなかった」とする表現での印象操作を行い、租税逋脱を視野に入れた無理矢理の認定を行っているからです。裁決書15頁のFの支払計算書については、外注先が負担すべき費用等を相殺した支払計算書を作成するのは、請求人として当然のことです。また、同裁決書16頁のGについては、「C氏は、A氏から売上先に渡す『裏金』の工面を指示され、S関係法人に対する『架空の外注費』を請求人の総勘定元帳に計上した上で、S関係法人の給与手当勘定を利用して当該裏金を工面‥‥C氏が行っていた」としていますが、この表記は悪質な虚偽と欺瞞を交えた疑問に満ちた表現といえます。

 

実際には、「裏金」ではなく、A氏、C氏らの個人が出捐した貸付金の一種である営業協力金(販促費)であり、その回収が売上に上乗せする形で貸付先から返済されており、当時の関与税理士は、その金銭の個人への回収手段としての仕訳を誤って指示したものであり、当局も、後に交際費であるとしています。したがって、C氏が「架空の外注費」を計上したとしていますが、その事実はありません。将に租税行政庁の逋脱認定に向けた強い悪意と意図が窺われているところと言えます。Iの関与税理士による関係法人の決算説明をC氏が受けていたことについては、世間には一般的に見られることであり、取り立てて問題となるべきものでもなく、況してやそのことと事業の実体の有無とは直接関係するものではありません。

 

続いて、裁決書16頁記載の()本件各関係法人の業務内容について述べたいと思います。Aにおいての「I建設に対する売上の実質が貸借取引であった」とする記載は事実ではなく、いわゆる悪質性への印象操作と言えます。その実態は、I建設がゼネコンに取引口座がなかったため、請求人の口座を経由して当該ゼネコンとの取引を成立させたものであり、いわゆる帳合取引であり、原処分庁及び審判所はそのような取引慣行を知らずして貸借取引と認定しているものと思われます。また、「本件各関係法人の売上先は全て請求人であった」との表現は、I建設との関係においては、上述しているように、調査時点での関係法人は、S関係法人1社であり、事実を誇張した表現と言えます。なお、I建設に関しては、同社代表取締役H氏及び調査に立ち会った同社監査役S氏の連名で、令和2624日付札幌国税不服審判所担当審判官宛の以下の「申立書」が提出されていますが、審判所はこれを審理に当たって、汲むことなく、無視しています。(つづく)

文責(G.K

 

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