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国税不服審判所の役割とその存在意義 その16

2021/09/04

今回は、裁決書の21頁、ロ「検討」の()「本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引について」として記載されている内容に関して述べてみたいと思います。裁決書(審判所)は、「上記()のとおり 本件各関係法人に事業実体がないことから、本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引は、いずれも請求人が行っていたものであり、本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引は、いずれも請求人に帰属するものと認めるのが相当である。」としています。

 

しかし、ここまでに繰り返し述べてきたとおり、(原処分庁を含めて)審判所の当該判断(裁決)は、その基礎となるべき重要な部分の事実認定がいずれもかなり杜撰です。例えばS関係法人とそれ以外の他の関係法人2社とは情況がまるで異なるにも拘らず、一括りにして論じ、「本件各関係法人に事業実体はない」としていますが、否定しようもない大命題として、本件各関係法人には事業実体があって請求人からの外注を受けて当該外注工事を契約どおりに施工、完工させてきたからこそ、請求人は一次下請の事業者として現存している事実があります。とりわけ、S関係法人にあっては、二次下請法人としてあらぬ疑いをかけられ税務当局からの有形無形の様々な圧力に直面しながらも、請求人からの外注工事を愚直に、契約どおりに施工、完工させてきたからこそ、現在も法人業務の継続を可能としているのです。したがって、審判所の裁決に至る論理には破綻が見られ、立論自体が崩壊していると言えます。

 

続く裁決書の22頁「ハ請求人の主張について」における審判所の判断(裁決)について述べてみたいと思います。これにつき請求人は、予て原処分庁に対して、「本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引は、いずれも本件各関係法人が行ったものであって、請求人が行ったものではない」、また、「請求人と本件各関係法人との収益の帰属に関して法人税法11条を適用するための要件が満たされておらず」、加えて、「原処分庁は、計算規定である同法222項を根拠に独立した法人間の取引を否認して他方の計算として引き直すことはできない」旨を主張していました。

 

これに対し、原処分庁は、当初は「法人税法第22条各項の規定(が法的根拠)」としていましたが、請求人が、「同条各項は計算規定であり、同条2項に否認規定の役割を担わせ、独立した法人間の取引の一方を否認し、他方の計算として引き直すことまでは当該条文の文言から読み取ることはできない」旨の指摘を審判所を経由して行ったところ、原処分庁は主張を次のように変更しました。原処分庁は、請求人が審判所を経由した審査請求書の副本に対する答弁書において法的根拠は、「法人税法第22条第2等」とし、更正通知書にはなかった「等」の一文字を密かに忍ばせ、その「等」の内容を、法人税法第22条ではなく、法人税法第11条及び消費税法第13条第1項であると、その主張を変遷させたのです。

 

そこで、請求人は、「法人税法第11条は、法人所得の帰属に関する規定であり、本件各関係法人が実際に収益を享受していることから、当該規定は適用できない」旨の更なる反論をしたところ、原処分庁は、「法人税法11条及び消費税法13条の観点から検討はしているものの、これらの規定に基づき判断したものではなく、総合的に勘案した上で…、222項に基づき、7つの基準に照らして判断した」と更に主張を変遷させました。しかも、それら7つの基準は、「一般に認められている基準」ではなく、このケースで、原処分庁が課税をするために「(恣意的に)定めた7つの基準」であるとして、それらを「法人税法第22条第2項に照らして判断」したと回答したのです。

 

このように、原処分庁の本件各更正処分に係る根拠法令についての主張には一貫性がなく、常に変遷するものであり、また、本件更正処分等に係る根拠法令に関する説明自体も曖昧、不明確であり、審判所の裁決は、それと寸分違うことなくそれに基づき、本件更正処分等についての独自の判断を示すことなく、唯々、原処分庁の認定を追認するのみであることから、その結論(裁決)については、租税法律主義及びその要素を構成する課税要件明確主義の観点からも容認できるものではありません。因みに、最高裁は、本件に関してではありませんが、「租税法律主義の原則に照らし、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな」い旨を判示しています。

 

続いて、裁決書22頁の(4)争点4(請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽又は仮想し」に該当する事実があったか否か。)について述べたいと思います。審判所は裁決書において、「イ法令解釈」として、最高裁昭和6258日判決を引用し、「『事実を隠蔽した』とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽しあるいは故意に脱漏したことをいい、また、『事実を仮装した』とは、所得、財産あるいは取引上の名義に関し、あたかもそれが事実であるかのように装うなど、故意に事実を歪曲したことをいうと解するのが相当である。」としています。すなわち、(原処分庁及び)審判所は、重加算税の賦課要件の「仮装」については、名古屋地裁昭和551013日判決を引用し、「故意」については最高裁昭和6258日判決を引用しています。

 

しかし、その後の最高裁判決平成7428日(民集4941193頁)は、「重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである」旨の判決があり、続く平成30629日の東京地裁判決では、納税者が、「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合に重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである」として、過少申告等の行為それ自体を隠蔽、仮装と見ることはできない趣旨を明確にしています。

 

審判所は、上記の原処分庁の恣意的な判断を、そのまま何らの吟味、検討を加えることもせず、唯々諾々と「はじめに結論ありき」の方針の下、書き写しているものと思われます。したがって、(原処分庁及び)審判所は、本件につき、判例を十分に理解せず、あるいは、敢えて自らにとって都合のいい「仮装」についての解釈を行い、重加算税を課す判断をしているものと思われます。「疑わしきは納税者の利益に」は、刑訴法のみならず、租税法にも通じる普遍の法原理であることを認識すべきと思われます。

 

因みに、隠蔽、仮装については、その態様も一様ではなく、通則法においては、単に「隠蔽」又は「仮装」とだけ規定していることから、隠蔽、仮装に関しては、国税庁が実務上の取扱いとして公表している「法人税重加通達」を参照すべきであり、これには、賦課基準(隠蔽又は仮装に該当する場合)として、⑴いわゆる二重帳簿を作成していること及び⑵次に掲げる事実があることとし、具体的に以下を挙げています。

① 帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算に関係のある書類(以下「帳簿書類」という。)を、破棄又は隠匿していること。

② 帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同じ。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること。

③ 帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入(営業外の収入を含む。)の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていること。

 

⑶ 特定の損金算入又は税額控除の要件とされる証明書その他の書類を改ざんし、又は虚偽の申請に基づき当該書類の交付を受けていること。

⑷ 簿外資産(確定した決算の基礎となった帳簿の資産勘定に計上されていない資産をいう。)に係る利息収入、賃貸料収入等の果実を計上していないこと。

⑸ 簿外資金(確定した決算の基礎となった帳簿に計上していない収入金又は当該帳簿に費用を過大若しくは架空に計上することにより当該帳簿から除外した資金をいう。)をもって役員賞与その他の費用を支出していること。

(6) 同族会社であるにもかかわらず、その判定の基礎となる株主等の所有株式等を架空の者又は単なる名義人に分割する等により非同族会社としていること。

 

上記の法人税重加通達の賦課基準を請求人の情況に照らせば、これまでにも請求人が主張しているように、請求人には、いずれも当該賦課基準に該当する事実が存在しないところ、(原処分庁及び)審判所は、一方的で恣意的、かつ曖昧な、よりあからさまな表現をすれば、本件「更正処分等を行う目的のためだけの急拵えの基準」による認定によって、強引に賦課要件に当て嵌めようとしているように思われます。(つづく)

文責(G.K

 

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