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国税不服審判所の役割とその存在意義 その17

2021/09/16

今回は、裁決書の23頁、ロ「本件各外注費について」の()「検討」として記載されている内容に関して、請求人の視点からの(筆者の)見解を述べます。裁決書は、「上記(3)のロのとおり、本件各外注取引は実体のない取引であり、上記(3)のイの()EないしGのとおり、C氏又はSS氏は、請求人の本社事務所において本件各外注取引に係る請求書を作成し、請求人名義の普通預金口座の資金を本件各関係法人名義の普通預金口座に振り込む方法により資金移動させることで、あたかも本件各外注取引をし、当該取引に係る代金を支払ったように見せかけ、実体のない架空の本件各外注費を総勘定元帳に計上した。また、C氏は、売上先に渡す裏金をS関係法人において捻出するための原資として架空の外注費を総勘定元帳に計上した。このように、請求人が実体のない架空の本件各外注費を総勘定元帳に計上したことは、通則法第68条第1項に規定する『納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき』に該当する。」としています。

 

しかし、審判所は、本件裁決の扇の要とも言うべき「本件各外注取引に実体がない」ことにつき、その直接証拠を示すことなく、恣意的、情緒的、断定的に「あたかも本件各外注取引をし、当該取引に係る代金を支払ったように見せかけ、架空の外注費を総勘定元帳に計上した」と断定(認定)しています。これに対して請求人は、本件各外注取引に実体があることを、当初から証拠資料等を添付して述べています。しかし、審判所は、当該資料等を含む請求人の主張を、一顧だにすることなく、それらを無視しています。請求人が本件各関係法人に外注工事を発注し、本件各関係法人がこれを請けて稼働していたからこそ、これまで請求人が元請事業者から受注した業務が完成、完工しているのであって、それは論理上、そして、物理的、道理的及び会計処理上からも「架空取引」にはなりようもない事実であり、その帰結として、実体のない「架空の本件各外注費」を総勘定元帳に計上することはありません。

 

また、S関係法人において、売上先に渡す「裏金」の捻出をすべく架空の外注費を計上した事実はなく、その裏金なるものが、売上先の現場責任者の求めに応じ、短期に融通した金員を指すのであれば、それはA氏、C氏夫妻が個人の金員を出捐したものです。原処分庁の事実認定を受け、審判所が裁決書において使用している上記「裏金」の用語の適切性は一旦措き後述するとして、当該金員は、請求人が元請事業者から受注した現場の元請担当責任者らと下請(請求人)の従業員らとの人間関係の円滑化を図る目的で、個人の財布から出捐したものです。そして当該金員の性格は、元請先からの受注をスムーズにするための販促費、ないしは「供応、慰安その他これらに類する行為のために支出する費用」の性質を有するものであり、決して「支給事実のない架空の給与、手当」として当該事業年度の所得金額に加算される性質のものではありません。

 

請求人が売上先の現場責任者の求めに応じて一時的に用立てた金員は、繰り返し述べているように、A氏、C氏夫妻の個人が出捐した金員です。旧関与税理士であったT税理士及びその子のI税理士親子による当該金員の回収時の経理判断、処理方法の誤認及び誤指示から、一見、S関係法人において不正経理を経て捻出された法人資産が架空給与として受領されていたかのごとく観察されたとしても、それは、あくまでも当初に出捐した個人の金員の回収手段です。よって、本来の法人の財産、損益には影響しないのは勿論のこと、請求人による意図的な税負担の軽減に繋がる行為をしていたものではありません。この点、原処分庁の誤った調査に伴う事実誤認を、請求人は審査請求及び意見書を通じて再三主張してきましたが、審判所はこれを受けて独自の調査、検討をして正すこともなく、原処分庁の誤った判断をそのままに、審判所の認定事実としています。

 

したがって、通則法681項が射程とする「仮装行為」ではないことは明らかであり、審判所の認定事実にはいずれも重大な誤謬が存在します。また、仮に、本件各関係法人が誤って過大な外注費を計上していたとしても、会計、経理的には問題がありません。何故なら、相手勘定との金額が合わなければ、遅くとも、1事業年度の末には仕訳の一方のみに残高が存在することから、未処理、若しくは仕訳の誤りに気付くからです。特に、I税理士事務所においては、請求人の経理処理に期中現金主義を採用していたこともあり、過大な外注費を計上していたとしても、期末には借方に同額を計上して洗い替えをしていたことからそのことによる売上や税額への影響はありません。この点からも、S関係法人に通則法681項の隠蔽、仮装による重加の規定は適用できず、原処分庁の判断内容をそのまま認定事実としている審判所の裁決には根拠がありません。

 

この点、調査スキルの稚拙さに加え、課税の論理の偏重に基づく原処分庁の事実認定を、審判所は何らの吟味、検討もなく受け容れ、自らの認定事実としており、もとより通則法681項の規定に該当するものではありません。繰り返し述べるように、審判所の認定は、原処分庁の杜撰な調査に基づく主張(言い分)に依拠するのみで、自らの調査、判断を放棄しており、その前提を欠きます。現在も存続しているS関係法人についてすらも、既に解散している他の関係法人と同列に論じるなど、その認定の殆どに重大な事実誤認が存在しています。

 

続いて裁決書は、()「請求人の主張について」として、上記と同様、本件外注取引に関する原処分庁の誤った認定を、認定事実としており、審判所の判断はその前提を欠きます。その一方で、審判所は、十分な独自の調査、審理を尽くすことなく、原処分庁の誤った認定を丸呑みするのみで、何らの直接証拠を全く示すことなく、唯々、お題目のように「本件各関係法人には実体がない」と判断し裁決しているのです。加えて、その誤った認識に基づき請求人が当該語彙の使用すら認めていない、「架空」、「裏金」なる後ろめたい用語を敢えて駆使、乱用して、請求人を取り巻く関係者の悪質性を誇張する印象操作を行っており、しかも、それらの事実は大部分において虚偽であり、裁決書は、それに基づく虚偽記載がなされています。したがって、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当することはありません。

 

続いて、裁決書23頁のハ「本件利益調整について」の()認定事実について述べたいと思います。裁決書は、「請求人の提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる」とし、24頁にそのAとして、「A氏、C氏夫妻は、平成27428日、請求人の本社事務所においてI税理士から請求人の平成273月期の売上げは約16億円、利益は2億円弱との説明を受けた」。また、Bとして、「C氏及びI税理士は、C氏が売掛金の金額を集計するために作成した『回収計画表(平成272月)』と題する書面及び『回収計画表(平成273月)』と題する書面(以下、これらを併せて『本件売掛金回収表』という。)に『〇』印、『△』印及び黄色のマーカーを付け、請求人の平成273月期の売上げから合計49,465,263円を除外した」。そして、Cとして、「請求人の平成272月ないし3月の売上げとして計上すべき金額123,690,100円から上記Bの金額49,465,263円を差し引くと74,224,837円となり、当該金額は、請求人の平成273月期の期末売掛金の額と一致する」と記載しています。

 

しかし上記()認定事実Aにつき、請求人がI税理士から平成273月期の売上と利益を伝えられたのは事実ですが、その説明内容(平成273月期の売上は約16億円、利益は2億円弱)は、当該認定事実とは異なります。実際には、I税理士が変則的な期中現金主義を採用する会計処理をしていたため、平成273月期の確定申告直前までは、試算表上で1426万円もの利益が隠れた状態となっており、同税理士はこれに気付かず、請求人の代表取締役A氏及び、専務取締役C氏に、(約2億円の利益を)1億円弱との説明をし続けていました。平成273月期の決算整理に当たってこれに気付き、慌てたI税理士は、A氏、C氏夫妻の納得を得るべく弥縫策を示して説明しましたが、元来、A氏、C氏夫妻ともに会計に関する知識が乏しいこともあり、I税理士との間に会計、税務処理をめぐる考え方に齟齬ができ、乖離が生じることになりました。(つづく)

文責(G.K

 

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