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国税不服審判所の役割とその存在意義 その18

2021/09/24

前回、請求人の平成273月期の利益につき、I税理士は確定申告直前までは、試算表上で1426万円もの利益が隠れた状態となっており、同税理士がこれに気付かず、誤って、約2億円の利益を1億円弱と説明していたと述べました。これを間接的に示すものとして、平成271125日のI税理士と札幌国税局職員SY氏との遣り取りを記した質問てん末書の存在があります。札幌国税局職員SY氏による質問調査終了時における追加訂正の有無についての質問に対してI税理士は、「そんな税金払えないと(A氏が)言ったと述べましたが、いつもの期に比べ、利益及び税金の額が多額であり、その金額を社長(A氏)に伝えた時の社長の表情から私が感じたことで、社長が言っていたことはないですので、そのように訂正して下さい」と申し出ています。

 

しかし、原処分庁は当該事実を明らかにすることなく隠蔽していました。蓋し、この事実は、その後の本件法人税額等の更正処分等を行うに当たって「請求人が利益を減らすようにI税理士に伝え、利益が少なくなるように決算書を作成してもらった(平成273月期のI税理士との通謀による利益調整行為…)」とする原処分庁の事実認定及びこれに依拠する審判所の認定事実にとって決定的に不利な証拠となります。すなわち、本件更正処分等に係る裁決は、その基礎となる重要な部分が捏造された虚偽事実で構成されており、重大な法令違反を内包していることになります。

 

また、審判所の認定事実「利益調整」につき、請求人からI税理士に依頼していないことを指摘し、これに係る原処分庁の見解を、審判所を経由して求めていたにも拘らず、何らの回答、釈明もしていないばかりか、「公正な第三者的立場」で判断する筈の審判所においてすらも、何らの対応、吟味もせず、「利益調整」をそのまま認定事実としています。本件法人税額等の更正処分等の事案において、通謀、仮装等を理由とする更正処分等は、上に述べるとおり成立し得ないにも拘らず、原処分庁は、その後の請求人の関係者への質問検査権の行使に当たっても、強引な誘導、誤導ないし違法な手段による証拠収集を繰り返しています。

 

そして、それらに対する請求人(代理人)の質問ないし指摘にも一切沈黙し、既に破綻している論理を糊塗する主張を続けているのです。そればかりか、誤った事実認定を奇貨として札幌国税局職員は、更なる強引な誘導、誤導をなし、終には、I税理士から「社長(A氏)の指示に基づいて、売上を除外したり、追加で外注費を計上したりして法人所得を約1億円に圧縮したが、本来の所得は1億円多かったはずだった」との全く事実に反する申述を引き出し、これに基づく虚偽の質問てん末書が作成されています。このように誤った原処分庁の事実認定を、何らの吟味もせず、そのまま自らの判断としている審判所の認定事実には、その基礎となる重要な部分に誤りがあり、前提を欠くのは言うまでもありません。

 

加えて、平成279月の札幌南税務署(原処分庁)による税務調査に続いて札幌国税局による第1回目の査察調査があった翌日の平成271126日、I税理士は請求人の本社事務室を訪れ、A氏、C氏夫妻を前に、「社長、決算の時の1億円、社長にお願いされてやった(平成273月期の利益約2億円を約1億円に圧縮したと指摘されていること)って言っていいですか?国税局が怖いので…(税理士)資格を剝奪されます」と泣き付いています。これについては、既に触れたように、当時の請求人の社長であるA氏から売上除外を依頼した事実はなく、I税理士のミスによって、自らの見落としが原因で行った決算処理が査察調査で問題視されるや、A氏に依頼されたかのように口裏を合わせて欲しいと懇願しているのです。

 

次に、()の認定事実のBについて述べたいと思います。既述した文脈から、I税理士は弥縫策を採るべく、ひとまず平成273月期の売上を次期に繰り延べるべく、その金額に近似するような取引を「本件売掛金回収表」の中からC氏らを説得し協力を得て抽出しようとしました。すなわち、I税理士は、自らの事実誤認から「期ズレは許されるものであり、税については、今期払おうが来期払おうが、納めることには変わりなく同じで、脱税するわけではないので、僕に任せなさい、僕はプロですから‼」と説得し、自らが〇印や△印を付けています。C氏はI税理士の説得を黙して聞いていただけであり、売上の一部を自らの手で除外したのではなく、I税理士が行うことにつき、たとえ消極的であっても、承認していたのではありません。

 

それを、事もあろうに、原処分庁及びそれに依拠する審判所の認定では、事実とは全く正反対の「C氏が〇印や△印を付けた」としているのです。よって、「C氏が〇印や△印を付けて売上を除外した」との原処分庁の事実認定及びそれを受けた審判所の認定事実は、その重要な部分をなす要素に虚偽が存在し、その前提を欠きます。したがって、「‥‥請求人の平成273月期の売上から49,465,263円を除外し、‥‥」とする審判所の認定事実及び裁決書の記載は誤りで、C氏は、これに同意していた事実はなく、そのことについては、札幌国税局作成の質問てん末書においても、そのとおりに申述しています。また、「請求人の平成273月期の売上から49,465,263円を除外」したのではなく、これについては、「売上の除外」ではなく、I税理士が会計データを見落としたことを基因としてI税理士自身の手で処理が行われた平成283月期への繰り延べ計上分であり、審判所を含む当局は、明白に認定を誤っています。

 

続く()の認定事実のCについては、上に述べているように、I税理士の事実誤認(期ズレは許されるとする)による、売上の繰り延べであり、典型的な意味(狭義)での脱税ではなく、関与税理士の「勘違い」レベルの処理ミスです。したがって、あくまでも故意はなく、関与税理士の「勘違い」による平成283月期への繰り延べ処理であり、当該行為は「相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等」に該当するものではありません。

 

因みに、上記に係る法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)の賦課基準(帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない場合)の3は、「次に掲げる場合で、当該行為が相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等でないときは、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない。」とし、「売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたとき。」としています。したがって、本件繰り延べ分は重加算税の対象とはなりません。

 

続いて裁決書の24 に、()「当てはめ」として、「上記()のとおり、A氏、C氏夫妻は、I税理士から請求人の平成273月期の売上げ及び利益の説明を受けた上で、平成273月期の益金の額に算入すべき金額を当該事業年度の益金の額から除いており、これは課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し、脱漏したものといえる。したがって、上記の行為は、通則法第68条第1項に規定する『納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき』に該当する。」としています。

 

しかし、審判所は、単に「上記()のとおり」としていますが、請求人が上に述べているとおり、審判所の本件利益調整に係る()認定事実は、その前提を欠き、その主張は根拠がありません。そもそも、「平成273月期の益金の額に算入すべき金額を当該事業年度の益金の額から除いた」ことの実行行為者はI税理士であり、決してC氏ではなく、当該認定自体に論理矛盾があります。このように、原処分庁の誤った認定を吟味することなく、無限定に受け容れている審判所の判断は、「初めに結論ありき」の下、質問てん末書等を租税行政庁に都合のよいように、解釈、誇張し、強引に書き替えたりしたものをそのまま認定事実としています。したがって、それは、審判所が適正な審理を尽くし判断したものではなく、当該認定事実にはその基礎となる重要な部分に誤りが存在します。また、曩に確認した重加算税の取扱いについての事務運営指針の賦課基準の3で見たとおり、繰り延べ分を翌期に計上していることから、通則法681項の規定の対象とはなりません。(つづく)

文責(G.K

 

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