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国税不服審判所の役割とその存在意義 その19

2021/10/05

前回に続く、裁決書24頁の()「請求人の主張について」と題する記載について述べてみたいと思います。審判所は、「請求人は、別紙3の4の(2)のハ及びニのとおり、本件利益調整はI税理士の処理によるものであり、A氏、C氏夫妻は脱税行為であるとの認識はない旨及びI税理士に利益を減らすよう伝え、それに基づく決算書を作成してもらった事実はない旨主張する。しかしながら、上記イのとおり、通則法第68条第1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。」

 

「そして、上記()及び()のとおり、A氏、C氏夫妻は、I税理士から請求人の平成273月期の売上げ及び利益の説明を受けるとともに、C氏及びI税理士は、請求人の平成273月期の売上げから合計49,465,263円を除外し、また、仮に本件利益調整がI税理士の処理に基づくものであったとしても、上記()Bのとおり、C氏はそれに同意し、本件売掛金回収表の中から売上げの一部を除外した上で申告しており、これらのことは通則法第68条第1項に規定する『納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき』に該当する。したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。」としています。

 

しかし、審判所は、請求人の「A氏、C氏夫妻に脱税行為の認識はない、また、I税理士に利益を減らすよう伝え、それに基づいた決算書を作成してもらった事実もない」旨の反論に「通則法第68条第1項による重加算税を課し得るためには…納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽、仮装し…」としており、請求人に対する重加算税賦課の要件である隠蔽又は仮装の事実を明らかにすることなく、曖昧にしたまま、隠蔽又は仮装に基づいて納税申告書を提出したとし、重加算税の賦課を相当としています。

 

また、審判所は、自らにとって都合のよいように最高裁昭和6258日判決の一部分のみを切り取って引用していますが、その後にも最高裁平成7428日判決及び下級審の判断が示されており、それらの判決の存在に気付いていないか、それとも全く不知か、いずれにしても、一方的ないし恣意的な自らの誤った認定から採決に至る論理の破綻に気付いていないようです。最高裁平成7428日判決は、「重加算税を課すためには、重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からも覗い得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合に、重加算税の賦課要件が満たされると解すべきである。」との考え方を示し、この考え方を援用した近時の下級審の判決[1]も出されています。

 

すなわち、審判所が本件の裁決に当たって引用している最高裁昭和6258日判決の重加算税の賦課要件は、重加算税は行政上の制裁であり重加算税賦課に当たり事実の隠ぺい又は仮装については故意を要するが、過少申告についての故意は必要ではないとする立場で、「重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告を発生したものであれば足りる。重加算税賦課に関し過少申告の認識(故意)は必要ない。」とするものでした。他方、その後の最高裁平成7428日判決では、重加算税の賦課要件として、「過少申告する意図及びその意図を外部からも覗い得る特段の行動」をその要件としています。

 

そうだとすると、A氏、C氏夫妻は、過少申告する意図(故意)を有していたことはなく、客観的に過少申告する意図(故意)を有していると評価されるような特段の行動をしていたことも、もちろんありませんでした。A氏、C氏夫妻が課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽、仮装したことはなく、「I税理士から平成273月期の売上げ及び利益の説明を受けるとともに、C氏及びI税理士は、請求人の平成273月期の売上げから合計49,465,263円を除外」したとの審判所による恣意的な認定は、全くの虚偽であり、C氏が売上除外につき、同意したことはありません。況や、「本件売掛金回収表」の中から売上の一部を除外した事実もなく、これらについては、原処分庁の事実認定にそのまま依拠して審判所の認定事実としている、全くの誤りに基づく虚偽記載です。したがって、最高裁平成7年判決が示す重加算税の賦課要件は満たされておらず、また、通則法681項の規定の重加算税賦課要件にも該当しません。

 

続いて、裁決書25頁の二「本件架空給与について」の()認定事実は、「請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。」としているので、これについて述べたいと思います。先ず、Aとして審判所は、「C氏は、A氏の指示に基づき請求人の売上先へ渡す裏金を捻出するため、S関係法人の平成271月期及び平成281月期において架空の給与手当を計上する方法により、当該裏金を捻出していた。なお、S関係法人を用いたのは、A氏の『請求人はきれいにしておけ。』との指示によるものであった。」としていますが、それらの認定の全部について審判所は重大な認定の誤りを犯しています。「はじめに結論ありき」の方針の下、調査も審理も尽くさぬままに結論を出しているものとしか思われません。

 

と言うのも、ここに記載されている審判所の認定とされるものは、原処分庁の認識、認定をそのまま、何らの吟味すらせずに無批判、無限定に受け入れたものです。「裏金」、「架空の給与手当」、「請求人はきれいにしておけ」のターム、語彙の全ては、原処分庁を含む審判所固有の認識、表記であり、請求人及びA氏、C氏のいずれにおいても、その用語等を使用することすら認めていないことは、審判所宛て請求人の意見書等で繰返し主張しているところであり、本来、これを受けた調査をすべきところです。原処分庁及び審判所が、本件更正処分等に際して請求人の悪質性を誇張、強調すべく敢えて使用しているものであり、現に、原処分庁にあっても、「裏金」、「架空の給与手当」の語彙の使用についての不適正さに気づいたか、後に交際費と変更しています。しかし、交際費なる費目に認定を変更したとしても、問題はあります。何故なら、当時は限度額上、費用性の出費(販促費の性格)であるにも拘らず、損金の額に算入することができず、実質的に否認と同様の扱いになるからです。

 

かような調査も審理も経ないまま出した結論であるからこそ、ありもしないことを、あたかも事実として実際にあったかの如く憶測、誇張して表現、記載しているものと考えられます。「裏金」、「裏金の捻出」及び「架空の給与手当」については、このコラム「その13」以降に触れているとおり、原処分庁が請求人の悪質性を殊更強調して主張すべく、誇張表記しているもので、その実態は、A氏、C氏夫妻の個人の懐から出捐された販促費の性格を有する元請の現場責任者への貸付金です。個人が出捐した当該貸付金が、返済段階では法人の追加工事等の代金に上乗せして、請求人の法人口座に入金されるため、手段の当否の問題こそ存在はしますが、返済額相当分を予め請求人の現場の職長等の給与手当に上乗せしておき(上乗せ分の源泉所得税を納付している)、当該貸付金の返済(振り込み)段階で、その分をA氏、C氏夫妻が当該返済額として受取るようにTI税理士親子はA氏、C氏夫妻に指導、指示していたもので、本来の法人の損益には関係しません。

 

この販促費の性格を持つ現場責任者への貸付金については、平成2711月札幌国税局査察第3部門総括主査YM氏及び主査AK氏らの指導によって、S関係法人(後に請求人に属すると認定)から請求人の当時の代表取締役A氏に対する認定給与とされる虞があるとの指摘を受け、A氏個人の金員をS関係法人宛に強制的に入金、清算させられ決着が図られていました。しかし、審判所は、本件更正処分等に際して、解決済みで何らの問題もない筈の事案を再び取り上げ事件化して、35,536,282円を当該事業年度の所得金額に加算(後に審判所は35,435,232円と認定している。)したと認定しています。しかも、本件給与手当の過大計上額とされていることについて、原処分庁にその理由、金額等の明細を明らかにするよう幾度となく申入れしても、頑なに拒否するばかりか、請求人からの情報公開法を利用した開示請求にも理由にならない理由を付けて却下しているのです。(つづく)

文責(G.K


[1] 東京地裁平成30629日判決

 

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