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国税不服審判所の役割とその存在意義 その23

2021/11/17

若干、本来のテーマからは逸れましたが、今回は、裁決書に戻って25頁の()認定事実のBについて述べたいと思います。審判所は、ここでも、原処分庁の誤った認定をそのまま認定事実であるとして記載し、大きな誤りを犯しています。裁決書は「C氏は、SS氏が作成した正しい金額の記載された給与明細一覧表に本件架空給与の額を上乗せした振替伝票を作成するとともに、当該振替伝票をI税理士に渡していた。」としています。しかし、以前にも触れたとおり、C氏は会計の知識が乏しく、S関係法人の給与一覧表に「架空の給与手当」を計上して、審判所が認定しているような「裏金」を捻出することが不可能であることから、当該「裏金」なる販促費の性格を有する貸付金はA氏、C氏夫妻の個人の金員を出捐しています。ただ、当該金員が取引先の売上額に加算して返済されることから、その回収をI税理士の父親であるT税理士(故人)及びI税理士が、請求人の現場担当者の給与支給分に当該返済額分を上乗せし、(それに伴う源泉徴収を行い)回収することを指示していたものです。

 

したがって、C氏は、当時の関与税理士の指示どおりに、給与明細一覧表に販促費の性格を有する貸付金分を、請求人の回収すべき売上額に元請事業者の現場担当者に融通した金員分を加えて作成した振替伝票をI税理士に渡していたものです。なお、請求人は、これまで当該金員の本質について、「交際費の性格を持つ金員とA氏、C氏夫妻の個人的出捐による貸付金とが混然一体となったもの」としていたものを、より正確を期して、「販促費の性格を有する貸付金」に統一して表記することにしています。

 

続いて、 ()認定事実のCについて述べてみたいと思います。裁決書の記載は、「本件架空給与の額は、平成264月から平成271月の間は27,968,419円、平成272月から同年3月の間は、7,466,813円であった。」とされています。既述しているように、審判所は、いわゆる「本件架空給与」と認定した額を確定するに当たって、これを原処分庁が推計によって算出した認定額を何らの調査、吟味、検討することなく自ら(審判所)の認定額としています。その結果として、請求人は、大きな経済的、財政的負担を強いられることになっています。前回も触れているように、審判所は「本件架空給与」、すなわち販促費の性格を有する貸付金の額の算定について、当然、当事者である請求人の元代表取締役であったA氏に質問し、同人の申述に基づいて直接手渡し、貸し付けた額を特定し、それを積み上げて確定すべきです。特に、原処分庁の主張に沿って推計、算出した額と同人が申述した額とに開きがある場合には、何を措いてもそれが必要な調査であろうと思われます。

 

次に、()認定事実のDについて述べたいと思います。裁決書には、「C氏又はSS氏は、A氏の指示に基づきS関係法人の預金口座から請求人の売上先に渡す金員を引き出し、A氏に渡していた。」とあります。しかし、審判所がこのような記載をするのは、如何なる証拠に基づくのか、具体的に明らかにする必要のあり、審判所による虚偽記載に他なりません。繰り返し述べるように、S関係法人の預金口座から「裏金」は捻出しておらず、販促費の性格を有する貸付金は、A氏、C氏夫妻個人の懐から出捐していること、また、その返済に関しては、請求人との当初の契約額である売上に係る請求分に上乗せして振り込まれることから、その分を返済分として回収しており、当該回収分は架空給与の支給には該当せず、法人の財産、損益には何ら影響するものではありません。したがって、審判所は、明らかに認定を誤っています。

 

続いて、裁決書の25頁の()「当てはめ」について述べたいと思います。裁決書は、「上記()のとおり、請求人は、請求人の売上先に渡す裏金を捻出するため、S関係法人において、本件架空給与の額を振替伝票に記載することで、あたかもそれが実際に支払われたかのように装っており、これは、通則法第68条第1項に規定する『納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに』に該当する。なお、S関係法人は、上記(3)のロのとおり、事業実体はなく、請求人の判断に基づき事由に操作できる法人であるところ、上記()Dのとおり、請求人は、S関係法人を利用することで、請求人が支払うべき売上先に対する裏金を捻出しており、このこともまた、通則法第68条第1項に規定する『納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに』に該当する。したがって、請求人がS関係法人を利用し本件架空給与を計上したことは、通則法第68条第1項に規定する『納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに』に該当する。」としています。

 

しかし、当該裁決書に見られるとおり、審判所の主張は、認定を誤ったことによる通則法第68条第1項に牴触するとの単なるトートロジーに過ぎず、真に説明すべきものを明らかにしてはいません。そもそも、審判所を含む租税行政庁が、請求人の関連会社等を「関係法人」と呼称すること自体にも疑義のあるところですが、「本件関係法人」に実体がないとすることには、更なる疑義があります。

 

審判所を含む租税行政庁の主張は、いわゆる「不都合な事実」を覆い隠そうとするものであり、既述のとおり、請求人は、「裏金」なるものは一切捻出しておらず、審判所は、原処分庁の誤った認定をそのまま自らの認定とし、重大な認定事実に係る過ちを犯しています。したがって、それを前提とした裁決書記載の立論は全て成立することはなく、通則法第68条第1項の規定には全く該当しないと言うべきです。当然、上記に審判所が認定する「架空給与」をC氏やSS氏がS関係法人において振替伝票に記載した事実はありません。あくまで、I関与税理士の指示どおりに、愚直に、振替伝票に記載し、起票しており、C氏又はSS氏に、審判所が認定する「実際に支払われたかのように装った事実」はなく、また、その意図及び認識も全くありません。

 

加えて、S関係法人にはれっきとした事業実体があること、そして、請求人がS関係法人を利用して、その支払うべき売上先に対する「裏金」なるものを捻出したことはなく、審判所による「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装した」との判断、そして、裁決書への記載は、全く事実に反しており、請求人を強引に陥れようとする悪質な意図が見られ、虚偽記載、不実記載という他ありません。

 

続いて、裁決書26頁の()「請求人の主張について」を請求人の視点から検討、主張してみたいと思います。裁決書は、「請求人は、別紙3の4の(2)のホのとおり、本件架空給与の本質は、交際費の性格を持つ金員とA氏、C氏夫妻の個人的出捐による貸付金とが混然一体となったものであり、そこにはほ脱の意図や故意はなく、また、その処理については、I税理士の指示誤りによる処理ミスであって、重加算税の対象となるものではない旨主張する。しかしながら、金員の貸付け及び返済の事実は確認できず、また、仮にI税理士の指示によるものであったとしても、I税理士は当時の請求人の顧問税理士であり、それに従ったのは飽くまでも請求人の判断によるものであるほか、上記()及び()のとおり、請求人は、S関係法人において支給事実のない給与手当の額を振替伝票に記載することで、あたかもそれが事実であるかのように装っており、これは通則法第68条第1項に規定する『納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに』に該当する。したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。」としています。

 

しかし、先ず、審判所が「本件架空給与」と認定している金員及びその処理については、これまでに繰り返し詳細に述べてきているとおりであり、当然ながら、通則法第68条第1項の規定の枠外にあります。審判所は、自らにとって「不都合な事実」を「都合のいい事実」に転換すべく、明らかに誤った判断に基づく事実認定を、繰り返し通則法第68条第1項違反だとして、まるで「一つ覚え」の如く強引に主張しています。それこそは、先行した刑事裁判における事実認定及びそれに基づく有罪判決を、形振り構わず維持しようとする租税行政庁の思惑を忖度したに相違ないと思われるところです。国家の課税権、それに基づく徴収を司る租税行政庁における第三者的機関としての国税不服審判所の役割としては、真に疑問があるところで、その存在意義が問われるところです。(つづく)

文責(G.K

 

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