Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > 国税不服審判所の役割とその存在意義 その24

国税不服審判所の役割とその存在意義 その24

2021/11/26

また、審判所は、「金員の貸付け及び返済の事実は確認でき」なかったとしていますが、それこそは、正に請求人が審判所に職権による調査を申し出ても、これを無視して行わない、ないしは形式的に行っただけの杜撰なものであったことを意味しており、その結果として、その事実の真相に単に辿り着けなかった、あるいは当該事実が確認できなかっただけのことです。審判所の調査、確認業務能力の稚拙さ、ないしは欠如していた責任が問われる事態であり、通則法第97条による審理のための質問、検査等は名ばかりで、如何に杜撰で適切性を欠き、かつ、その審理自体も如何に形式的、恣意的であるかを示すものと言えると思います。

 

加えて、裁決書には、I税理士に対する専門家責任を免責するかの記載がみられますが、税理士は士業唯一の「無償独占」であると同時にそれに見合った義務の履行が、法令により求められています。委任者としての請求人(納税者)は、受任者である税理士の指示に基づいて原始証憑類の整理程度の作業はすることはあっても、基本的に、関与(顧問)税理士が行う税務申告等については、通常、深く関与することはありません。それを、監督官庁である国税当局の責任を回避し、請求人のみの責任にすべく「それに従ったのは飽くまでも請求人の判断」とする原処分庁の認定をそのままに、そして、審判所は、「あたかも事実であるかのように装って」と表記しています。しかし、それは物理的に不可能であることは、曩にも述べたところであり、委任している税理士業務のどの部分について、それが見られるのか、審判所は具体的、明確に示すべきと思われます。単なる感覚、感情を情緒的に表現、記載したものに過ぎないように思われるところです。

 

因みに、原処分庁は、「関与税理士のI氏の指示によるものであったとしても、それに従ったのは請求人の判断によるもの」、「支給事実のない給与手当の額を振替伝票に記載することで、あたかもそれが事実のように装っており」と強引かつ恣意的で誤った認定をしています。しかしながら、請求人とI税理士間には委任契約(税理士顧問契約)が締結されており、その法的性格との関係を実態に従って述べれば、C氏が「あたかもそれが事実のように装っている」のではなく、(委任契約により)全ての税務申告、手続関係書類はI税理士の事務所の職員が請求人の署名も当該職員がした上で作成し、当該職員が請求人の事務所で申告書等に勝手に署名押印して札幌南税務署に提出しているのです。

 

審判所は、それらのI税理士事務所の職員の行為をC氏の行為と推定し、通則法681項の規定に該当すると強引に論理付け、委任者である請求人らの与り知らない受任者の行為の責任を委任者にのみ押し付けています。しかし、一連の税務申告等の行為は、関与税理士がその責任において行ったものであり、納税者(請求人)としては物理的に止めようがないものです。仮に、そこに仮装行為があったとしても、その責任を請求人らにのみに負担させ、実行行為者であるI税理士については何らの責任は及ばないとするのは、甚だしく権衡を欠き、原処分庁等の租税行政庁がI税理士に対し免責等の、いわゆる「裏取引」をしていない限り、税理士業務委任契約法上はあり得ず、委任の法理に反します。振替伝票の記載についても、I税理士が請求人に指示して請求人がその指示どおりに記載し、I税理士事務所の職員が後日回収したものを、I税理士事務所において訂正、修正する方式を常態としていました。

 

また、本件販促費の性格を有する貸付金については、本来の給与にその額を加えて支給するようI税理士の父親である故T税理士が指示し、子であるI税理士もこれを踏襲、同様にC氏に指示していたものです。一般に、税理士顧問契約において、受任者の事実誤認等に基づいてなされた税務申告における非違事項につき、委任者に対してのみ責任が問われることはなく、委任者である請求人に重加算税を賦課することが相当と認められる場合としては、請求人が第三者(関与税理士)の仮装行為等を防止し得たことが明らかな場合であって、本件の場合、当局に仮装行為等を疑われるような申告であることすら認識していない善意の請求人には、防止し得ない情況にあったというべきです。民法上の委任契約において、受任者は自らの裁量で事務を処理することから、基本的には、その責めを受任者が負うことはありません。したがって、重加算税を賦課すべき事案ではなく、この点についての原処分庁及び審判所の解釈には明確な誤謬があります。

 

次に、裁決書27(5)の争点5「(請求人に、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由があったか否か。また、本件当初青色申告取消処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件青色取消処分をしたことは、違法か否か。)について」述べたいと思います。裁決書は、イ「青色申告の承認の取消事由について」の()法令解釈として、「法人税法第127条第1項第3号は、別紙2の3の(2)のとおり規定しているところ、取引の全部又は一部を『隠蔽し又は仮装し』というのは、青色申告制度の前提となる信頼関係を毀損する行為として、積極的に帳簿を操作し、欺罔しようとするものであり、存在しない取引に関し、あたかもそれが存在するかのように装って帳簿に記載することは帳簿上の虚偽記載として『仮装したこと』に該当すると解するのが相当である。」としています。

 

しかし、請求人は、取引の全部又は一部を「隠蔽し又は仮装」した事実、「積極的に帳簿を操作し、欺罔しようと」したこと、また、「存在しない取引を、あたかも存在するかのように装って帳簿に記載」した事実はない上、審判所は、これらに関する直接証拠を何ら示しておらず、立証の程度が極めて不十分です。したがって、法人税法第127条第1項第3号の規定には該当しないと言うべきです。青色の不利益処分については、元々理由附記が義務付けられていることから、その理由附記の趣旨との関係で処分理由の差替えが制限されるか否かについては、かつては制限説と非制限説とが拮抗していましたが、現在では、学説、判例ともに制限説を採ることに異論はなく、本件の場合、理由の差替は認められないとするのが司法判断として定着していると言えます。

 

何故なら、本件は青色申告の承認の取消処分の適否が争われており、その審理は税務署長(原処分庁)が取消処分をするに当り理由とした事実の存否又は法律適用の可否に限定さるべきであり、当初取消処分の理由としていなかった別個の理由を、本件取消処分を維持するために追完、抗弁することは、事実上、新たな再取消処分をするに他ならないからです。よって、処分理由を追加して新たな主張、抗弁をすることは許されないと解すべきです。原処分庁の主張は、当初処分理由と新たな主張との間に基本的な課税要件事実の同一性は認められるものの、請求人が認めていない処分庁による一方的かつ恣意的で誤った事実認定による新たな主張に係る間接証拠の大幅な加筆によって、処分の相手方に格別な不利益を与える虞があることが想定されるからです。したがって、処分理由を差し替えて本件青色取消処分をしたことは最高裁判決に違背するものと言うべきです。

 

次に、()の「当てはめ」として、裁決書には、「上記(3)のロのとおり、本件2社各外注取引は実体のない取引であり、上記(3)のイの()E及びFのとおり、請求人は、平成253月期において請求人宛の本件関係法人2社の請求書を作成し、請求人名義の普通預金口座の資金を本件関係法人2社名義の普通預金口座にそれぞれ振り込む方法により資金移動させることで、あたかも本件2社各外注取引をし、本件2社各外注取引に係る代金を支払ったかのように見せかけ、実体のない本件2社各外注取引に係る支払を外注費として総勘定元帳に計上しているところ、これは帳簿への虚偽記載であり、取引を仮装して記載したものといえる。したがって、請求人が実体のない本件2社各外注取引に係る外注費を計上したことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する『帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し』たことに該当する。」と記載されています。

 

上記については、このコラムで繰り返し述べているように、本件関係法人には実体があって、元請事業者の一次下請事業者である請求人の業務の下請としての実働部隊として、請求人からの外注工事を請けて、その業務の完遂に努力してきたからこそ、現在の法人としての請求人が存在しているのであって、それが本件関係法人には実体があることの何よりの証と言えます。これを「…外注取引に係る代金を支払ったかのように見せかけ…帳簿への虚偽記載…取引を仮装して記載した」などと、故意に、強引かつ作為的に誤った認定をして法人税法第127条第1項第3号違反に結び付ける審判所による法律の解釈・適用は、租税正義に反するものと思われ、正に、「あってはならない」事態です。(つづく)

文責(G.K

 

金山会計事務所 ページの先頭へ