Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > 国税不服審判所の役割とその存在意義 その25

国税不服審判所の役割とその存在意義 その25

2021/12/04

続いて、裁決書は、次の ()「請求人の主張について」において、「請求人は、別紙3の5の(2)のイの理由を挙げて、本件関係法人2社は適法に設立された法人であり、本件2社各外注取引に関し根拠のない又は想像による架空の請求書を発行させた事実はなく、また、C氏は、I税理士の指示に従い請求人及び本件関係法人2社に係る会計資料を区別し、I税理士は、当該資料を基に会計処理を行っており、真実でないものを真実らしく装った事実はない旨主張する。しかしながら、上記()のとおり、本件2社各外注取引は実体のない取引であり、請求人があたかも本件2社各外注取引が存在したかのように請求人の総勘定元帳に計上したことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する『帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し』たことに該当するとともに、上記(3)のイの()E及びGのとおり、請求人が本件2社各外注取引に係る請求書の作成及び本件関係法人2社の資金管理をしていることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。」としています。

 

審判所は、本件2社各外注取引は「実体のない取引」であることを所与の前提として認定事実としています。しかしながら、本件2社関係法人については、既に述べているとおり、その担当する実体面としての工事施工なくして請求人の業務は成り立ち得ず、本件各関係法人には事業実体があって、一次下請(請求人)と二次下請(関係法人)との関係にあったからこそ請求人は現在も存在するという大命題が存在するのです。それにも拘らず審判所は、直接証拠を何ら「示すことなく、誤った間接事実を総合して本件各関係法人には事業実体がなかったと判断(裁決)しており、その認定に至る基礎となる重要な部分の多くに誤りがあります。審判所には、これに関する独自の調査、吟味、検討を省き、当該認定をなした重大な誤りがあり、本件各関係法人には実体がないとする立論は、その前提を誤っており成立することはなく、したがって、審判所の裁決には根拠がありません。

 

繰り返し言及しますが、審判所は、原処分庁の「課税をするため」だけの一方的、恣意的で誤った認定を唯々諾々と踏襲、受け容れるのみであり、審判所としての独自で納税者が納得するような直接証拠を挙げ、示すことをしてはいません。それどころか、実存した取引を牽強付会の「存在しない取引をあたかもそれが存在するかのように装って帳簿に記載」したとする誤った認識(認定)に基づいた判断を示しているのです。したがって、審判所の判断の基礎となる重要な部分(要素)に誤りがあり、その立論をもって「仮装したこと」に該当することにはなり得ません。

 

審判所(租税行政庁)は、自らにとって「不都合な事実」を「都合のよい事実化」するべく、明らかに誤った判断に基づく事実認定を、繰り返し通則法681項違反だとして、まるで「一つ覚え」の如く強引に主張しています。しかし、それについては、先行した刑事裁判における事実認定それに基づく有罪判決を、形振り構わず維持しようとする国側の意志を忖度したのが透けて見えるような思いがしています。そして、その認定は、原処分庁(札幌国税局調査査察部)が行ったものであるからと、強く推認されるものです。国家の課税権、そしてその徴収を司る租税行政庁における第三者的機関としての国税不服審判所の役割としては、真に疑問があり、その独立性及び存在意義が問われるところです。

 

次に、裁決書28頁のロ「本件当初青色取消処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件青色取消処分をしたことについて」述べたいと思います。審判所は、「請求人は、別紙3の5の(2)のロのとおり、取消処分の基因たる事実が記載されている理由の差し替えを自由に認めることは、理由を記載しない処分を行うのと結果的に同じことになり、理由の記載を要求した法の趣旨を無視した違法な処分である旨主張する。しかしながら、原処分庁が、法人税の青色申告の承認の取消処分を取り消し、再度法人税の青色申告の承認の取消処分をすることができないとする法令の規定はなく、原処分庁は、適正な課税の確保の実現を図るため、法人税の青色申告の承認の取消処分の瑕疵を発見したときは、これを取り消して新たに法人税の青色申告の承認の取消処分をすることができるものと解すべきである。本件の場合、原処分庁が、本件当初青色申告取消処分に係る通知書に付記された理由に不備を発見し、本件当初青色申告取消処分を取り消して、本件当初青色取消処分の理由附記を是正して本件青色取消処分を行ったことは、瑕疵ある処分を是正したものであり、法の趣旨を無視した違法な処分とは認められない。したがって、請求人の主張には理由がない。」としています。

 

上記に関しては、累度に渡って述べてきたこともあり、最小限度の記述に止めたいと思います。審判所は、自らの判断(裁決)を示すのに都合のいいように、法令の規定の一部分を切り取って、誤った恣意的な解釈をなし、「青色申告の承認の取消処分を取り消し、再度青色申告の承認の取消処分をすることができないとする法令の規定はなく」としており、それを根拠に「再度の青色申告の承認の取消処分をすることができるものと解すべき」とし、「本件の場合、原処分庁が、本件当初青色取消処分に係る通知書に付記された理由に不備を発見し、瑕疵ある処分を是正したものであり、法の趣旨を無視した違法な処分とは認められない。」との結論を導いています。しかしながら、この論法は聊か一方的、恣意的な苦し紛れの開き直りの法解釈と言えます。

 

何故なら、先ず、本件の場合、原処分庁からの平成2910月の青色取消処分を受けて、請求人が同年11月に再調査の請求をしたのを受けて原処分庁は「不備を発見し、瑕疵ある処分を訂正した」としているもので、それはあくまでも自動的な発見ではなく、他動的なものです。また、「取消処分をすることができないとする法令の規定」がないから青色申告の承認の取消処分を取り消し、再度青色申告の承認の取消処分をすることができるとしていますが、「取消処分ができない」とする明文の法令規定がなければ、「取消処分をすることができる」とする明文の法令規定もないところ、最高裁からは以下の行政手続法の規定及びその具体的な司法判断が明示されています。

 

すなわち、行政手続法第14条第1項(不利益処分の理由提示)の規定との関係について最高裁平成2367日判決は、不利益処分の理由提示の趣旨として、①処分庁の恣意を抑制し、不服申立てに便宜を与える、②理由提示の程度は、その処分の根拠法令の規定内容、処分の性質及び内容、処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決定される、③法が求める程度の記載がない場合、処分は取り消される、④記載内容のみから理由が判断できるようにする、⑤後の不服審査手続上の理由の開示によっては、原処分時の理由附記の不備は治癒されない、⑥理由提示に際し、具体的事実及び根拠法令の明示等の必要性を、示しています。行政手続法第14条第1項の規定を受けて通則法も改正されていることから、その趣旨は租税法上も共通するものと考えられます。そもそも、本件青色取消事由は、現在は解散しているK関係法人とH関係法人に実体がないとする、直接証拠を示すことなく、正に処分をするためだけの極めて一方的、恣意的な認定を前提とし、当該関係法人らに外注費を支払っているように仮装したとするものです。

 

そうすると、審判所は、法令に直接の規定がないことを奇禍として、青色申告の承認の取消処分を一旦取り消し、再度青色申告の承認の取消処分をしており、明らかに行政手続法第14条第1項の趣旨を無視したものと思われます。また、審判所は、上記にも触れたように、「本件の場合、原処分庁が、本件当初青色取消処分に係る通知書に付記された理由に不備を発見し、瑕疵ある処分を是正したものであり、法の趣旨を無視した違法な処分とは認められない。」とし、原処分庁が自ら瑕疵ある処分に気が付いたような、身内を庇うかのような記述をしています。

 

しかし、実際には、請求人が札幌南税務署(原処分庁)に瑕疵の是正を求める再調査の請求書を提出(平成2911月)後、原処分庁は、約2年も掛けてその誤りをようやく認めて処理方法を検討し、令和元年10月になって、やっと、禁じ手としての「処分の取消、同日処分理由を書替えて再処分」に出たものであり、言わば身内(租税行政庁内部組織)を庇うための言い訳、言い逃れに他なりません。審判所を含む租税行政庁にあっては、自らの組織防衛やそこに所属する職員の責任回避のためには、平気で白を黒と言い切り、それと分かる明白な「嘘」でも、これをつき通す、その体質は租税法律主義、租税公平主義の観点からも許されざるものであり、当該体質を直ちに改めるべきは論を俟ちません。(つづく)

文責(G.K

 

金山会計事務所 ページの先頭へ