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国税不服審判所の役割とその存在意義 その26

2021/12/15

次に、裁決書28頁の(6)の争点6「(本件各更正処分等は、信義則に反する違法な処分であるか否か。)について」述べてみたいと思います。裁決書のイ「法令解釈」において、審判所は、「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、これを違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理、特に租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて上記法理の適用の是非を考えるべきである。そして、この特別の事情の存否の判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が①納税者に対して信頼の対象となるような公的見解を表示し、②納税者がその表示を信頼して行動したところ、③後にその表示に反する課税処分が行われ、④そのために納税者が経済的に不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の公的見解に関する表示を信頼して行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮が不可欠であるというべきである。」と最高裁昭和62年判決の4条件を引用しただけの、いわゆる「言いっ放し」をしています。

 

上記判決は、先ず、「特に租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、‥‥」としており、そもそもの前提として、租税法律主義の原則が貫徹されている中にあっての租税法律関係においては、(屋上屋を重ねることになることから)「信義則の法理の適用については慎重でなければなら」ないとしているのです。これを本件について見てみると、これまでに見てきたように、税務調査のスタートの時点から原処分庁側に重大な法令違反が存在し、また、処分に当たっても手続法上の違反が目立ち、厳格であるべき租税法律主義の原則は、到底、遵守されている状態にはないことが明白です。審判所は、原処分庁が行った税務調査後の行政指導と本件更正処分との関係について、請求人(代理人)が求めた通則法97条に基づく何らかの質問、検査等の調査をしたのでしょうか、何らのなすべきをなさず、検討もせずにエクスキューズとして、本件最高裁昭和621030日判決を引用、掲載したのではないかと思われます。

 

そこで、本件更正処分等について上記4条件に関する事実関係を検討してみたいと思います。先ず、札幌南税務署(原処分庁)は、請求人に対する平成2525日に行われた税務調査の際のS調査官の関係法人の存在及びその必要性についての質問に対して、C氏は、「(手取りの収入を増やしたいために)社会保険に加入したがらない鉄筋工の都合上、別法人(関係法人)が必要です。」と述べています。C氏のこの回答に対して、S調査官及び当該税務調査に同行しているU調査官は「そうなんですね」や「なるほどね」と相槌を打っており、当該回答に対する否定的な見解は何ら示していませんでした。そこで、C氏は更に両調査官に対して、「今後この会社(関係法人)はどうしたらいいんでしょうか、教えてください」と質問したところ、S調査官は、「だって、この会社がなかったら困るんでしょう、だったら、続けるしかないでしょ」と答え、U調査官も「そうだね、仕方ないよね」と相槌を打っています。このような形で関係法人の存在及びその適法性が是認された当時の遣り取りがC氏のメモ帳には克明に残されています。

 

両調査官がこの遣り取りを札幌南税務署に持ち帰って報告し、その状況が署内で検討された結果、これを受けた修正申告の提出を請求人に求めたと思われる書類として、請求人が札幌南税務署宛に提出し「実調修正」と同署がスタンプした修正申告書(平成2538日付収受)の控えが存在します。当該修正申告は、その後に更正処分や再修正申告が行われていないことから、請求人と関係法人との取引を否認せず、当該修正申告書を同署は是認したと認めるに足る十分な証拠として評価できます。また、別件として、平成27917日、約1週間に及ぶ税務調査の最終盤において、原処分庁(札幌南税務署調査官O氏ら)は、請求人の当時の代表取締役であったA氏に「本来は青色申告承認は取り消されるんだけども、初犯ではあるし、今回は税務署長宛に「誓約書」を書いてくださいね」と言い、「今回は1億円を納め誓約書を書いてお咎めなしです」と言って、そのための誓約書を作成・提出させています。

 

加えて、S関係法人が架空給与を支給していたとして、当該金員はS関係法人からA氏に対するみなし給与の支給とみなされる虞があると誤った判断の下、札幌国税局査察第3部門のYM職員及びAK職員らは速やかにS関係法人へ返還をするよう行政指導を行い、これを受けて、A氏はS関係法人に約3,500万円を返還しています。そして原処分庁は、このA氏個人が出捐した請求人の事業とは関係のない貸付金の回収に関して、既に決着しているにも拘らず、S関係法人が架空給与を支給することで裏金を捻出しA氏に渡していたと、誤認し、何らの返還義務ないし納税義務もない約3,500万円について、本件更正処分等を行うに当たって、再びその対象とし、最終的には請求人の交際費として実質的に所得金額に加算しています。剰え、処分をするためだけの目的で、S関係法人の平成2721日から平成28131日までの間で請求人の平成273月期に対応する期間についてのみ、S関係法人の利益部分のみをピックアップして否認し、請求人の計算として引き直し、損失部分はそのままS関係法人に残しているのです。

 

上記3事案と「架空給与の支給による裏金の捻出」の事案とは、後者が原処分庁による詐欺的手法によるものであることから前者の事案とは、意味合いに相違はあります。しかし、いずれも税務調査時における税務行政庁による行政指導ないし行政処分の一環と評価できるものであり、明らかに税務官庁による、納税者に対して信頼の対象となるような公的見解を表示していたものです。そして、納税者がその表示を信頼して行動していたところ、当該税務調査のおよそ29か月後、2ヶ月後及び直後等にその表示に反した課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであり、しかも納税者が税務官庁の公的見解に関する表示を信頼して行動したことについての帰責事由はありません。正に、最高裁が示した①公的見解が表示されたこと、②その表示の信頼に基づいて請求人が行動した結果、③その表示に反する課税処分が行われ、納税者(請求人)は経済的不利益を被ったが、④その信頼に基づく行動に納税者(請求人)の帰責事由はないことの4要件がそのまま該当しています(最判昭和621030日)。

 

これにつき、原処分庁及び審判所は、「調査担当者が請求人の主張するとおりの応答をしたとしても、原処分庁が請求人に対し信頼の対象となる公的見解を表示したという評価には当たらない」と、国税通則法に基づく重要な質問検査権を税務官庁が自己否定する無責任極まりない主張(詭弁)をなし、租税行政庁としての義務を恣意的に縮小解釈、ないしは放棄し、責任回避を図っており、もとより原処分庁及び審判所の主張には理由がありません。また、原処分庁は、前回調査(平成252月)で実調修正した他は請求人の申告を認め、関係法人はそのまま事業活動を続けるよう指導していたものを、今回調査(平成279月)では前言を翻し、請求人に対する本件更正処分を行っています。その上、「本来は青色(の承認)が取消されるんだけども、初犯ではあるし、今回は札幌南税務署長宛に誓約書を書き、1億円を納めてお咎めなしという、これで終わりということです。」と青色申告の承認の取消は行わないとする旨を札幌南税務署調査官のO氏らは約し、そのための誓約書や必要書類等の提出をさせた後、青色の承認を取消しています。

 

加えて、実調修正申告書(平成2538日の収受印あり)の別表4の加算項目では、「売上計上もれ」、「雑収入計上もれ」、「仕掛品計上もれ」、「車輌修繕費否認」は存在しますが、請求人とK関係法人との取引は否認せず、是認しています。これは、当時においては、請求人とK関係法人との取引を認め、K関係法人の事業実体を認めていたことを意味し、税務調査時に示した調査官の発言、見解、行為、(行政)指導等は、当然、原処分庁ら(札幌北税務署を含む)の上司の承認を経たものと思われます。また、S関係法人が架空給与を支給して裏金を捻出したとの憶測に基づく誤った認定及び決着済みの事案を蒸し返し二度課税したことは、租税行政庁に対する国民(納税者)の信頼を著しく失墜させるものです。

 

これらの事案は、いずれも租税行政庁の担当者の専門知識及び矜持の欠如、並びにスキルの稚拙さを露呈していることが疑われるばかりではなく、民法第1条第2項の禁反言の原則(信義則)に明らかに牴触しています。しかして、曩にも述べているように、この点に関する請求人の質問に、原処分庁は、「税務調査官の税務調査時における発言、見解は公式見解を表示したとの評価に当たらない」と暴論とも言える回答をなし、責任を回避し、単に当該税務調査における調査官の発言の公式性を否定するのみならず、通則法74条の2に根拠規定を置く国税職員の質問検査権に基づく税務調査を租税行政庁自身が自己否定し、法令を軽視ないし無視する主張をしているのです。そして、審判所は請求人からの通則法97条に基づく審理のための質問、検査等の申立てを無視し、それらを漫然と見過ごしていますが、これについては次回に触れたいと思います。(つづく)

文責(G.K

 

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