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軽減税率導入論議の行方 その5

2015/12/04
低所得者に対する生活必需品購入時の消費税率を低く抑える軽減税率導入を巡る自民、公明両党の協議はその対象品目では難航していますが、それに伴う事業者の経理方式では、どうやら決着しそうな見通しだと新聞は報じています。 

それによれば、軽減税率導入後の2017年4月以降2021年3月までの間に事業者に求められる経理方式は、売上高が1000万円以下は免税のため義務なし、1000万円超5000万円以下は、現行の請求書に軽減税率の対象品目の印を付す「区分記載」と売上高に占める軽減税率対象品の割合を予め設定して納税額を計算する「みなし納税」との選択制による「簡易納税方式」を認め、5000万円超は「区分記載請求書方式」の3方式になる模様です。 

なお、2021年4月からは、売上が1000万円以下の免税事業者を除いて、品目ごとに税率・税額を記すインボイス(適格請求書)の作成が義務付けられ、商品の売り手が買い手となる事業者にそれを発行し、これに取引した品目ごとの税率や税額のほか、事業者ごとに予め割り振られている番号を記載する必要があり、インボイスの虚偽記載や交付には罰則が科されることになるようです。

これにより、課税事業者は顧客から受け取った消費税を国に納付するのに際し、商品を仕入れた際に取引先に支払った消費税分をインボイスによって計算して差し引きます。また、インボイスを保管することで、納税額を正しく納付したことの証明とすることになります。

ただ、全国に約500万ある売上高1000万円以下の免税事業者は、そのままでは制度上、インボイスを発行できないため、免税事業者から商品を仕入れた課税事業者はインボイスを受取れず、商品の仕入時に支払った消費税額が証明できず、本来の差し引くべき納税額が計算できないことになります。このため、免税事業者にとって課税事業者との取引が敬遠されることが考えられます。

そこで、自民、公明の与党の案は、インボイス導入後6年間に限っては、免税事業者からの仕入れでも一定割合で消費税額を算定できる経過措置を設けるべく、検討が進められているようです。それに加えて、上記のように、売上高1000万円超5000万円以下の事業者が選択できる仕入れの区分記載やみなし納税等の簡易納税方式もインボイス導入後の一定期間は継続する方向で検討されているようです。

前回のコラムで、いわゆる「益税」について触れましたが、これは、消費者が払った消費税が国庫に納まらないで、事業者の懐に入ってしまうことを指しています。典型的には、消費者が支払った消費税は、本来、仕入や諸経費等で支払った消費税を差し引いた残りを国庫へ納付すべきですが、免税事業者には消費税を納める義務がないため、この消費税相当額が国庫へ納付されることなく免税事業者の手元に残る結果となり、その事業者の利益、すなわち「益税」となります。

消費税が8%に増税された折、それに合わせて簡素な激変緩和措置として低所得者約2400万人に1万~1万5000円の給付金が配られましたが、増税後の個人消費の低迷は防げませんでした。しかし、そのことをもって、消費税10%への再増税時には軽減税率の導入が必須だとするのは如何なものでしょうか。

このコラムでも数度にわたり触れ、検討してきましたが、現行の税率を2%引き上げるために、現在の与党税制協議のように時間と労力及び導入のための莫大な諸経費を費やし、さらには、これまでも「益税」の問題が存在していたところに、一層の「益税」、すなわち「税の漏損」を招く政治決断をすることが賢者のコロラリーなのでしょうか。

わが国の消費税にあたる付加価値税を1960年代から導入している欧州では、20%程度の高い付加価値税率を課す国が多く、ほとんどの国で生活必需品の税率を低く抑える軽減税率が導入されています。わが国においては、少子高齢化が進行している状況にあり、今後、社会保障のための財源は一層の逼迫が考えられるところから、15%を超える税率もあながち非現実的ともいえません。軽減税率の導入は、その時まで、一旦、立ち止まり、その後に再度時間をかけて議論しても遅くはないような気がしてなりません。

文責 (G・K)

 

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