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国税不服審判所の役割とその存在意義 その29

2022/01/16

前回の続きで、裁決書30頁のハ「当てはめ及び請求人の主張に係る検討」の()の記載についての反論を述べてみたいと思います。裁決書は、「請求人は、別紙3の6の⑴のニ及びホのとおり、①原処分庁の『前回調査において、仮に前回調査担当職員が請求人の主張どおりの応答をしたとしても、原処分庁が請求人に対し信頼の対象となる公的見解を表示したという評価には当たらない。』旨の主張は、論外の詭弁である旨、②上記『公的見解を表示したという評価は当たらない。』旨の主張は、前回調査担当職員の発言の公式性を否定するのみならず、質問検査権の行使に基づく税務調査を課税庁自ら否定しており、このことは法令を無視した行為である旨、及び③平成279月の税務調査時における行政指導の破棄は、信義則に反する旨主張する。」

 

「しかしながら、上記イのとおり、信義則の適用につき慎重であるべき租税法律主義の特質を考慮すれば、様々な状況の下で行われる税務職員の見解の表示の全てが信頼の対象となる公的見解の表示となるものではないことはいうまでもなく、納税者はもともと自己の責任と判断の下に行動すべきものであることからすれば、信頼の対象となる公的見解の表示であるというためには、少なくとも、税務署長その他責任のある立場にある者の正式の見解の表示であることが必要であるというべきであり、仮に請求人が主張する前回調査担当者の関係法人の存在を是認する趣旨の発言があったとしても、そのことをもって、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示であると認められるものではない。以上のとおり、本件各更正処分等は違法な処分ではなく、他に信義則に反すると認めるに足りる証拠はない。したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。」としています。

 

「仮に請求人が主張する前回調査担当者の関係法人の存在を是認する趣旨の発言があったとしても、そのことをもって、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示であると認められるものではない」この主張は、税務行政部内における公正な第三者的機関として、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務署長や国税局長などと審査請求人との間に立つ公正な立場で審査請求事件を調査・審理して裁決を行うべき機関の判断として、如何なものでしょうか?上記の札幌国税不服審判所のこの責任逃れの裁決(詭弁)を「納税者の正当な権利利益の救済を図る」「公正な立場で調査・審理する機関」の判断として納税者は素直に受け容れることができますか?形振り構わず、原処分庁(札幌国税局調査査察部第3部門)が認定したものを、そのまま、裏打ちし、肉付けしようと懸命になっている様子が見て取れませんか?税務署には署長と責任ある者しか必要ではなく、その他の職員は必要ありませんか?国税通則法は74条の2他で税務職員の質問検査権を認め、128条で当該職員の質問に対する不答弁、誤答弁、検査拒否、忌避等に対する罰則を定めています。ということは、税務行政庁は当該税務職員にそれだけの権限を付与することを念頭に、予めその職務権限に見合う人材を税務調査担当職員として指名し、その者が署長その他責任のある立場にある者を代理して税務調査の場に臨場しているのではありませんか?

 

その責任を付与された税務調査担当職員の発言を税務行政庁自らが法令を無視して否定し、「納税者の自己責任」を免罪符(理由)に、「税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示」が必要である旨を主張しているのです。仮にそうだとすれば、税務署の調査実務を担当している職員の発言、指導等は責任がなく信用できないことになり、国と納税者間の信頼関係を、課税庁自らが根底から放擲、崩壊せしめる極めて無責任で矛盾、破綻した論理を展開していると言えます。このように原処分庁及び審判所の論理及び判断、主張にはその前提となるべき重要な部分に誤りがあり、信義則違反はもとより、法律解釈にも大きな誤りがあります。

 

また、曩にも述べているとおり、審判所は、最高裁が「信義則の法理の適用により、これを違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理、特に租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければなら」ないとした判決を金科玉条の如く引用していますが、この解釈も誤っています。最高裁は、上記の判決で、「特に租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、‥‥」としており、そもそもの前提として、租税法律主義の原則が貫徹されている場合にあっての租税法律関係においては、屋上屋を重ねることを避けるためにも、「信義則の適用については慎重でなければなら」ないとしているのであって、課税庁が税務調査において、納税義務者に対して行った行政指導を自由に破棄して「嘘」をついてもいいとする趣旨ではないと考えられます。然してその実態は、下記に述べるとおり、調査着手から調査終了に至る手続上に問題があり、調査それ自体にも虚偽記載、虚偽主張が目立ち、租税法律主義が全く貫徹されておらず、審判所を含む租税行政庁は自らにとって都合のよい全く誤った解釈をしているのです。

 

上記を具体的に本件更正事案との関係で見てみると、これまでに述べてきたように、原処分庁の税務調査は、その着手の時点から問題があり、また調査終了に至る手続きとしての説明等を代理人にしたと、明らかな嘘をつき、実際にはしていないなど、重大な法令違反が存在し、また、処分に当たっても手続法上の違反が目立ち、厳格であるべき租税法律主義の原則は、到底、遵守されている状態にはなかったことが明らかとなっています。これらについては、請求人は証拠を添え、審判所に通則法97条に基づく質問、検査等の調査をするよう強く求めても、審判所は何らのなすべきをなさず、検討すべきをせず、「仮に請求人が主張する前回調査担当者の関係法人の存在を是認する趣旨の発言があったとしても、そのことをもって、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示であると認められるものではない」などと主張し、およそわが国の税務行政庁における番人としての責任を放棄し、その言い訳として、本件最高裁昭和621030日判決を曲解した引用をしているに過ぎません。これでは、国税不服審判所に課せられた役割を果たしているとは到底思われません。

 

続いて、裁決書31(7)の「本件各更正処分の適法性について」の請求人の見解(反論)を述べたいと思います。裁決書は、イ「法人税」として、「上記(1)のとおり本件調査に係る調査手続に違法はないとともに、上記(2)のとおり本件各更正処分の理由附記に不備はなく、本件当初各更正処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件各更正処分をしたことについての違法は認められず、上記(6)のとおり本件各更正処分等は信義則に反する違法な処分であるとは認められない。請求人は、上記⑷のロのとおり、実体のない架空の本件各外注費を総勘定元帳に計上し、法人税の課税標準を過少にした内容虚偽の本件各事業年度の確定申告書を提出しており、これは通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為によりその一部の税額を免れていたものと認められる。そして、上記⑶のとおり、本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引は、請求人が行ったものと認められ、当審判所において、本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、次のとおりとなる。」

 

() 平成253月期及び平成263月期 「平成253月期及び平成263月期の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、原処分庁の額といずれも同額となる。また、平成253月期及び平成263月期の法人税の各更正処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められないから、平成253月期及び平成263月期の法人税の各更正処分はいずれも適法である。」

 

() 平成273月期 「平成273月期については、別表4の平成273月期における給与手当の過大計上額の「差額(②-①)」欄の金額のとおり、原処分庁認定の金額には給与手当の過大計上に係る計算誤りが認められる。このため、当審判所において、請求人の平成273月期の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成273月期の法人税に係る更正処分の金額を下回るから、平成273月期の法人税の更正処分は、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。なお、平成273月期の法人税の更正処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。」としています。

 

しかし、請求人が繰り返し述べているとおり、原処分庁は、本件当初各更正処分に係る理由の附記に誤りがあることを認めて一旦取消し、同日付で、禁じ手とも言える手法を駆使して処分理由を差し替え、再度、改めて本件各更正処分を行いながら、猶、本件各更正処分に係る調査手続きには違法、理由附記には不備があり、加えて、税額算出の計算過程が明らかでない上に税額の計算には誤りがあり、しかもその額は多額に上ります。札幌国税不服審判所は、上記のように、()では、「法人税の所得金額及び納付すべき税額の計算は原処分庁と同額である」として、また、「平成253月期及び平成263月期の法人税の各更正処分のその他の部分についても、不相当とする理由は認められないから、平成253月期及び平成263月期の法人税の各更正処分はいずれも適法である。」とし、()では、原処分庁の給与手当の過大計上額の僅かな誤りを指摘する他は、「平成273月期の法人税の更正処分のその他の部分についても、不相当とする理由は認められない」としています。(つづく)

文責(G.K

 

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