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国税不服審判所の役割とその存在意義 その31

2022/02/03

そうすると、本件更正処分等及び重加算税の賦課は、隠蔽・仮装の故意性を前提として行われるものであることから、そもそもの前提としての請求人及びその税務代理人としてのI税理士双方に故意性を認定することができず、審判所が裁決書で「一つ覚え」の如く唱える通則法681項を適用して、当該更正処分等及び重加の賦課を行うことはできないことになります(本税務コラムその1819を参照)。また、「本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引は、請求人が行った」との原処分庁の認定は、これまでに繰り返し述べているように直接証拠が何ら示されておらず、原処分庁、審判所ともに立証不十分です。本来、課税要件充足のための第一義的立証責任は原処分庁にあり、更正処分をするに当たり、税務調査の結果を請求人に説明しなければなりませんが、原処分庁は、その責任をも果たさず、逆にその責任を納税義務者に転嫁するべく、牽強付会な主張を強引にしており、審判所はそれをそのまま是としているのです。そのこと(誤り)が、原処分庁と請求人との間で現在にも及ぶ争訟の発端となっており、極めて適正性、適法性を欠きます。

 

また、原処分庁の本件更正処分のうちの法人税に係る計算過程は何一つ明確にされておらず、個々の取引内容及び金額も特定されておらず、とりわけ、その一部である平成253月期乃至平成273月期(平成283月期への繰り延べ分を含む)の税額計算は、いずれも甚だ適法性を欠くものです。原処分庁の令和2117日付答弁書によれば、「C氏及びI税理士が申述する計算方法によらず、本件利益調整額(その実態は期中現金主義を採用していることに基因するもの及び次事業年度への繰り延べ分)の算出に当たっては、総勘定元帳、売上に係る請求書控え、支払通知書等を基に売上額を算定し、当初売上計上額との差額を本件利益調整額として算出した」とし、また、令和2313日付意見書では、「請求人が発行する請求書控え、売上先が発行した支払通知書、請求人の取引先から請求人の金融機関の口座に入金された金額・・・を根拠として、請求人の各期の売上高として加算して金額を計算した」と回答するなど、その答弁も変遷しています。

 

実態を明らかにすべく、請求人は審判所から原処分庁への求釈明により質したところ、令和2630日付回答書で、「取引先(売上先)の売上高の認定に当たって、入金額により算定したもの、あるいは消費税額を加算して認定したものもある」と更に主張を変遷させており、その回答自体が二転三転し、全く信用できるものではありません。審判所は、原処分庁の事実認定の重要な部分にこのように曖昧、不明確な要素が存在する情況にあってすらも、猶もひたすらそれに依拠し、「平成253月期及び平成263月期の法人税の各更正処分はいずれも適法である。」と判断し、自らの認定事実としているのです。

 

そこで、請求人は、原処分庁が行った本件更正処分のうちの当該法人税に係る利益調整額及び更正通知書における売上計上漏れの実態及びそれらの計算過程につき、違う角度からアプローチして真相を解明すべく、前回の税務コラムに触れた本件更正処分に先立つ別件の税法違反事件裁判の第10回公判における検察側(国側)の証人としての札幌国税局査察第3部門の査察官であったHK氏の尋問調書における供述を検討することにしました。それと言うのも、原処分庁は、法人税の更正通知書において請求人の平成253月期の売上計上漏れとして、「総勘定元帳、請求書控及び売上先が発行する支払通知書を確認」してその合計759,954,536円と申告額755,437,984円との差額4,516,552円が算出され、同様に、平成263月期においては、1,242,918,686円と申告額1,198,298,014円との差額44,620,672円が算出されたとして、これらの差額を売上計上漏れであると恣意的な認定をして、それぞれの事業年度の所得金額に加算しているからです。

 

その結果、原処分庁の当該売上計上漏れの金額の認定及びその根拠並びにそれぞれの事業年度の所得金額への算入については、法人税法第22条第2項に拠っているとしながら、同条第4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によって行われたものではなく、上記HK氏の供述に依拠した不明確、不確定な金額であることが判明しました。同氏は、自身が平成2810月、請求人の査察調査を担当した内容等について以下の供述をしており、原処分庁は、そのうちの自らに都合のよい部分のみを摘み、これを誇張して処分理由としていたのです。すなわち、「ここでいう除外というのは、翌期に繰り延べていたという理解でよろしいんでしょうかね。」との被告(請求人)弁護人OK氏の尋問に、同氏は、「まあ、そうですね。翌期の申告が確定すれば、そういうことになるんじゃないでしょうか。」と答えているのです。

 

続いての同弁護人の尋問、「273月期末に計上すべき4,000万円から5,000万円の売上を283月期に繰り延べていたということが調査の結果判明したと、そのような意味で理解してよろしいんでしょうかね。」に、同氏は、「まあ、そうですね。283月期の申告において受け入れがあるのであれば、それは繰り延べていることになるんじゃないでしょうか。」と答えています。続けて同弁護人が「除外(繰り延べ)されていた金額というのが平成273月期に関してはおよそ4,000万円から5,000万円あったというお話だったかと思うんですが、実際の差額が1,400万円(正確には14,968,141円)ということでしたので、そこの差がどうして生じたかということをもう一度ちょっと分かりやすく説明していただきたいんですけど。」、「単純な頭で、5,000万円除外されれば、5,000万円がずれるのかなというところなんですけど。」と尋問しています。

 

これに対し、HK証人は、「先ほど話しした分と重複するかもしれませんけど、大きな理由ということで言えば、263月期に計上すべき売上を263月期に計上せず、273月期期首に計上したこと、あと、今も言いましたけど、273月期の期末に売上を除外したこと、263月期の除外を273月期の期首に持ってくるということは、273月期で考えれば、それは架空の売上ということになりますので、それと差引をしたこと、正確にぴったりくるものではないんですけど、我々が調査額として提示させていただいている数字と申告額との開差が、先ほど見た期首の分についてマイナスが立って、期末の方に大きいプラスの開差が出るというのはそういうことです。」と供述しています。つまり、HK査察官は、そもそも本件更正処分の基因となった査察調査において、脱税と同視すべき典型的な売上除外を意味する「売上計上漏れ」が確認されたことを供述しているのではなく、次期への売上の繰り延べ(期ズレ)があったことを供述、証言しているのです。

 

原処分庁は、請求人の悪質性を強調すべく主張している当該「売上計上漏れ」の原因は、請求人が法人税を免脱したもの、ないしはしようとしたものとは根本的に異なり、当時の関与税理士であったI氏の会計思想ないし会計哲学、若しくは税務処理に関する考え方の認識の誤りから生じたものであり、(期中現金主義による)期中売上額の加減算分及び翌期への繰り延べ分であったことを意味しています。この点で、そもそも請求人が、偽りその他不正の行為をなしたものではなく、関与税理士の事実誤認による期中の売上額の加減算の調整及び繰り延べであるところ、原処分庁は事実を歪曲し、誇張し、課税する意図をもって請求人の悪意の「売上計上漏れ」を認定したものであり、その認定自体が誤りである上に、課税標準となるべき金額すらも確定させておらず、したがって更正処分の対象となる「売上計上漏れ」としての額すらも明確にされているものではありません。

 

HK査察官が認識し、供述するように、請求人に係る平成253月期から平成283月期までの間における売上の額は、当該期間において加減算されて調整され、しかも、いずれも翌期に係る申告を確定させ、それに伴う法人税も納付済みであることから、「売上計上漏れ」として当該年度の所得の額に加算した額は、同額を減算、還付しなければ根拠のない課税負担を二重に国民(納税者)に押し付けることになります。すなわち、同査察官の供述が示すとおり、本件のような変則的期中現金主義を採る会計処理にあっては、上記のように調査額と申告額との差額をもって「売上計上漏れ」を算出することは不適正、かつ誤りと言えます。何故なら、仮令、支払済みや相殺済み等により精算済みであったとしても、請求人の試算表の買掛金、未払費用等の残高は決算修整されるまでは、消滅することなく貸方に残されたままになっていることが多く見られているからです。

 

また、業種の特殊性から、工期の中途での一部設計変更、再変更、追加工事、それにまで至らない手直しレベルの追加等がつきものであり、その度毎に請求書等の書類が作成されることになります。それらの帳票類のみを根拠に、本来廃棄すべき請求書等までも含めて積み上げ計算すると、二重三重に加算され、現実の売上額からはどんどん離れていくことになるのです。同査察官が、いみじくも供述したとおり、算出された額は前期末からの繰越額を差し引きしても、常に23千万円の開差があるのも当然です。このような、超推計的概算額が課税標準とはなり得ないのはもとより、更正処分等の課税をするための課税要件を充足するものではないこともまた明白です。これがI税理士が採用していた変則的期中現金主義による会計方式の当然の帰結でもあるのです。(つづく)

文責(G.K

 

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