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国税不服審判所の役割とその存在意義 その34

2022/03/04

次に、裁決書32頁ハ記載の「消費税等」について述べたいと思います。裁決書の記載に沿った反論となりますので、既述コラムの内容と一部重複する箇所があります、予めご容赦頂きたいと思います。審判所は、「上記イと同様、本件調査に係る調査手続に違法はないとともに、本件各更正処分の理由付記に不備はなく、本件当初各更正処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件各更正処分をしたことについての違法は認められず、また、本件各更正処分等は信義則に反する違法な処分であるとは認められないとともに、請求人は通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為によりその一部の税額を免れていたものと認められる。そして、本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引は、請求人が行ったものと認められ、当審判所において、本件各課税期間の消費税の課税標準額、納付すべき税額及び地方消費税の納付すべき税額を計算すると、原処分の額といずれも同額となる。また、本件消費税等各更正処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められないから、本件消費税各更正処分はいずれも適法である。」としています。

 

しかしながら、消費税についてもここまでに述べてきた法人税と同様、ないしはそれ以上に、本件調査に係る原処分庁の調査手続には違法が見られ、そもそも本件更正処分の理由附記としては不完全で処分の根拠法令等すらも明示されておらず、「消費税法については、国税通則法704項(平成273月法律第9号による改正前のもの。)の規定が適用され」る、としか述べていません。既述の法人税法と同様、累度にわたる請求人からの直接証拠の提示に関する質問にも答えることなく、通則法704項の解釈を通じた依るべき「規範」を明示していません(照らすべき税法規範が存在しない)。加えて、小前提となるべく(事実)認定は、請求人が証拠を挙げて反証しているとおり、その大半が「はじめに結論ありき」に沿ったもので、虚偽若しくは原処分庁側が作出した「自作自演」に拠った、虚偽事実をそのまま認定事実としています。このように、当て嵌めるべき税法規範が存在しないばかりか、審判所は原処分庁作出の虚偽事実をそのまま認定事実としているのです。

 

以前にも触れましたが、消費税に関しては、本件更正処分等に係る事案の二大問題ですが、審判所は、本裁決書においてこの大きな問題を驚くほどあっさり、簡単に触れて幕引き(矮小化)をしようとしています。このように、僅か5行程度でその主張をしている背景には、請求人が、これ以上原処分庁を含めた租税行政庁にとって不利な事実を取り上げてネチネチと触れて欲しくない思いが透けて見えます。しかしながら、消費税に関しては僅か5行程度をもって審判所の主張(言い訳)を書き尽くせる筈もありません。本件消費税等更正処分等の本質は、原処分庁は、新設法人の基準期間のない事業年度内の解散に伴う事実上の免税期間という制度上の欠陥に由来する問題を、強引に本件各関係法人の根拠のない実体面の問題に置き換え、更に、本来、本件各関係法人に係るべき問題を請求人の問題へと論点をすり替えているのです。すなわち、原処分庁を含む租税行政庁は、“合法的免税期間の利用憎し”とばかりに、「はじめに結論ありき」で基準期間のない事業年度の免税制度を悪用したと決め付け、その誤った結論を審判所は了としているのです。

 

原処分庁は、消費税については、その制度設計上の必要性から新設法人については基準期間(納税義務を判定する基準となる期間を指し、個人事業者であれば前々年、法人であれば前々事業年度を指す)のない事業者として納税義務を免除しているにも拘らず、新設法人である本件各関係法人には実体がないとして、更正処分をもって納税免除期間の消費税相当額をその取引の相手方である請求人の計算に引き直しているのです。しかしながら、本件各関係法人は適法に設立されており、当然に新設法人に係る納税義務免除制度の適用対象となるべきものですが、原処分庁は、それに対し何らの法的根拠も示さず、納税が免除されるという消費税の法制度設計上の缺欠に由来する問題を、強引に本件各関係法人の根拠のない実体論に結び付け、事業実体がないとする問題にすり替え、その特例期間の消費税相当額を請求人の計算に引き直す、二重の誤りを犯しています。

 

基準期間は、課税事業者や簡易課税の適用を判定するための、わが国の消費税の制度上の必要性に由来するものであり、制度を維持するための宿命であり、欠陥でもあり、いわゆる「法の缺欠」ないしは「法の不備」と言われるものです。わが国への消費税の導入を急ぎたいあまり、政治主導で、消費税導入時の大多数の国民の反発を和らげ、小規模事業者の事務負担の軽減目的として設けられた、政治的妥協の産物であり、仮に、当該免税期間を利用することが「怪しからん」と言うのであれば、立法をもって手当てするのが法治国家における「租税法律主義」の考え方です。現に、そうしてこれまでに、法制度の改正が行われてもいますが、ただ、当該部分を大きく変更することは、現行消費税法を否定することにも繋がります。とは言え、請求人は悪意で「法の欠缺」ないしは「法の不備」を突き、法を潜脱して租税回避及び租税逋脱を企図したことはありません。ともあれ、法(制度)に由来する責任を、(強引に)納税者の責任に転嫁するのは明白な誤りです。

 

本件に関しては、原処分庁による消費税等の更正処分に先立つ税務調査において、明らかに是認していたと思われる次の事実を記した資料が存在します。平成252月の原処分庁による税務調査において、調査官は請求人の専務取締役であったC氏に対し34社くらいの関係法人の名前を挙げて、「これらの会社は何ですか」と質問し、この質問にC氏は、「請求人の社員にすると社会保険に入らなきゃいけないから違う会社にしているんです。」と答えています。すると、「調査官2人は『ふ~ん』という態度を示し、その件に関しそれ以上、I税理士(関与税理士)やC氏に質問することなく、別の話題に移りました。」とする趣旨のI税理士の記録です。また、C氏の質問てん末書及び本人のメモ並びに別の場所で供述した内容を総合すれば、平成2525日の原処分庁による税務調査の冒頭部分で、請求人の本件各関係法人について、社会保険の都合上、別法人が必要である旨を述べたところ、C氏のこの回答を調査官らは「そうなんですね」とか「なるほどね」と容認したと思われる発言をしており、当該回答に対する否定的な見解は何ら示していませんでした。

 

そこで、C氏は更に両調査官に対して、「今後この会社(関係法人)はどうしたらいいんでしょうか、教えてください」と質問したところ、S調査官は、「だって、この会社がなかったら困るんでしょう、だったら、続けるしかないでしょ」と応答し、U調査官も「そうだね、仕方ないよね」と相槌を打っています。このような形で関係法人の存在及びその適法性が是認された当時の遣り取りがC氏のメモ帳には克明に残されています。すなわち、関係法人は事業実体を有し、その後も存続させることにつき、原処分庁が承認したと評価するに十分な間接証拠と言えます。両調査官がその場面における遣り取りを原処分庁に持ち帰って報告し、その状況が署内で検討された結果、これを受けた修正申告の提出を請求人に求めたと思われる書類として、請求人が札幌南税務署宛に提出し「実調修正」と同署がスタンプした修正申告書(平成2538日付収受印あり)の控えも存在しています。

 

上記実調修正申告書の別表4の加算項目では、「売上計上もれ」、「雑収入計上もれ」、「仕掛品計上もれ」、「車輌修繕費否認」は存在しますが、請求人と当時のK関係法人との取引は否認せず、是認していることが推察できます。これは、当時においては、請求人とK関係法人との取引を認め、K関係法人の事業実体を認めていたことを意味し、税務調査時に示した調査官の発言、見解、行為、(行政)指導等は、当然、原処分庁ら(札幌北税務署を含む)の上司の承認を経たものと思われます。当該修正申告は、その後に更正処分や再修正申告が行われていないことからも、請求人と関係法人との取引を否認されず、当該修正申告書を同署は是認したと認める(事業実体があることを認める)に足る十分な証拠として評価できます。

 

ところが、平成27917日の税務調査においてC氏が、そのことについて(前回調査時の同税務署の対応及び回答を)確認して欲しい旨を申し出たところ、札幌南税務署調査官のO氏は「前回の記録はない」と回答しています。その上、その後の原処分庁は、既述したとおり、「税務職員の見解の表示の全てが信頼の対象となる公的見解の表示」ではなく、「納税者はもともと自己の責任と判断の下に行動すべき」であり、「少なくとも、税務署長その他責任のある立場にある者の正式の見解の表示であることが必要」であり、「仮に請求人が主張する前回調査担当者の関係法人の存在を是認する趣旨の発言があったとしても、そのことをもって、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示で」はないとして、責任を納税者(請求人)に転嫁する驚くべき欺瞞に満ちた主張をし、審判所はこれを容認、むしろ裏付ける記載をしています。 

 

「仮に請求人が主張する前回調査担当者の関係法人の存在を是認する趣旨の発言があったとしても、そのことをもって、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示であると認められるものではない」この記載は、税務行政部内における公正な第三者的機関として、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務署長や国税局長などと審査請求人との間に立つ公正な立場で審査請求事件を調査・審理して裁決を行うべき機関の判断として、あってはならない責任逃れの裁決(詭弁)としか言いようがありません。(つづく)                                文責(G.K

 

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