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国税不服審判所の役割とその存在意義 その36

2022/03/25

次に、裁決書の34頁ロ過少申告加算税についての()消費税等につき述べてみたいと思います。審判所は、「上記(7)のハのとおり、本件消費税等各更正処分はいずれも適法であり、また、本件消費税等各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件消費税等各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所において、同条第1項並びに地方税法附則第9条の4譲渡割の賦課徴収の特例等及び第9条の9譲渡割に係る延滞税等の計算の特例1項の規定に基づいて請求人の本件消費税等各更正処分に係る過少申告加算税の額を計算すると原処分の額といずれも同額となることから、本件各課税期間の消費税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。」としています。

 

しかしながら、この審判所の判断も極めて疑問であり、審判所は原処分庁が行った本件消費税等各更正処分について、独自の調査なり、検査をしてその結果としての当該裁決を出したのでしょうか。これまでに述べているとおり、原処分庁が行った本件消費税等各更正処分にはいずれも事実認定及び税額の計算に誤りがあり、請求人はその是正を求めて、法人税等に係るものとともに本件消費税等に係る更正の請求を行い、一部については既に還付を受けており、誤りがあったことが明らかであり、その他についても現在、審査請求手続きが進行中です。過少申告加算税の基礎となる税額についても、実際の額との間に大きな差異を生じており、審判所の「請求人の本件消費税等各更正処分に係る過少申告加算税の額を計算すると原処分の額といずれも同額となる」とする裁決書の記載は、原処分庁及び審判所のダブルで認定及び計算を誤っているか、若しくは審判所が調査等の確認を怠り、原処分庁の認定及び計算をそのままなぞったかのどちらかであり、いずれにしても、その額に変動があります。したがって、その他の論点を検討するまでもなく、本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法性を欠いています。

 

次に審判所が主張する(9)の本件青色申告取消処分の適法性について述べたいと思います。裁決書の記載は、「上記(5)のとおり、請求人に法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由は認められるほか、本件当初青色取消処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件青色取消処分をしたことは違法とは認められず、また、本件青色取消処分のその他の部分について、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められないから、同条の規定に基づいてされた本件青色取消処分は適法である。」としています。

 

そこで、裁決書の(5)における審判所の「青色申告の承認の取消事由について」の法令解釈を振り返ってみると、「法人税法第127条第1項第3号は、別紙2の3の(2)のとおり規定しているところ、取引の全部又は一部を『隠蔽し又は仮装し』というのは、青色申告制度の前提となる信頼関係を毀損する行為として、積極的に帳簿を操作し、欺罔しようとするものであり、存在しない取引に関し、あたかもそれが存在するかのように装って帳簿に記載することは帳簿上の虚偽記載として『仮装したこと』に該当すると解するのが相当である。」としています。

 

しかしながら、これまでこのコラムで繰返し述べてきているとおり、請求人に「取引の全部又は一部を『隠蔽し又は仮装し』た事実は微塵もなく、加えて、原処分庁及び審判所は、その事実を証明する直接証拠を示すよう求めても、一切その求めに応じていません。むしろ、「存在しない取引を、あたかもそれが存在したかのように」認定して処分したのは、原処分庁であり、それを認めたのが審判所であると思われるところです。これについても、累度にわたりその所為を糾弾しているところであり、もちろん請求人(代理人)が納得する説明はこれまでにありません。したがって、「仮装したこと」は、租税行政庁によって作出された、虚偽の事実である疑いが濃厚です。原処分庁は、現に稼働しており、実際に工事施工を行ってきた。若しくは行っている下請企業を、敢えて「関係法人」と称し、当該関係法人には事業実体がないと強引に2社間の正常な取引を否認し、審判所はそれを了としているのです。

 

2社間の取引である以上、取引に係る決済のためには、最低限でも請求書、領収書が必要であり、預金口座は2つ必要で、それに伴って預金通帳も2つは存在することになり、口座間の現金の移動(原処分庁は敢えて、資金移動としている)も必要となります。驚いたことに、これを原処分庁は、「本件2社外注取引に係る代金を支払ったかのように見せかけ、実体のない本件2社各外注取引に係る外注費として総勘定元帳に計上しているところ、これは帳簿への虚偽記載であり、取引を仮装して記載したものといえる。」とし、審判所は、この空想的な事実認定をそのまま自らの認定事実としているのです。これはいくら何でも、租税行政庁としては行き過ぎであり、租税法律主義、租税公平主義を憲法規定に置く法治国家のする行為ではありません。税は経済からは中立であるべきで、必要限度を超えて取引の世界にまで、足を突っ込むことは極力避けるべきと言えるでしょう。

 

「結論が先にありき」でスタートしているところから、何が何でも、法人税法127条の第1項第3号の規定に結び付けるべく、強引に「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し」たことに該当させようとしていますが、当該条文はその後にも「その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」が続いて存在しています。そうすると、原処分庁及び審判所が主張している事実が「全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある」と言えるのでしょうか?

 

また、本件は当初青色取消処分を取り消し、禁じ手である、処分理由を差し替えてなした青色取消処分であり、原処分庁は、最高裁判例に違背していることを認めた上での売上等の資料を追加して再更正処分を行っています。しかしながら、理由附記の不備を理由附記に不備のない再更正でやり直すことが可能かについて、現在では、学説、判例ともに理由附記の追完は認められないとすることに異論はなく、それについては、繰り返し最高裁が判示しているところです。原処分庁は、法治国家の中枢を構成する租税行政庁にあって、最高裁判決ないし判例法理を遵守すべき立場にあることは言うまでもありません。

 

これらの最高裁判例は単なる訓示規定に止まるものではなく、更正の理由附記に不備があればそれだけで更正処分は取消されるべきであることを確定させるものです。不利益処分(更正処分)の理由附記が不備である場合に、その追完が認められるとするのであれば、課税庁は更正処分では抽象的な理由を附記するに止め、納税者が再調査の請求等の不服申立や取消訴訟を提起した後に追完すればよいとの安易な態度に出ることが考えられ、また、処分時に完全な理由が示されないことにより、納税者に無用な負担を強いることにもなり、行政手続法141項の趣旨を没却することになるからです。

 

ところで、原処分庁による青色申告の承認の取消通知書によれば、「次の事実が法人税法第127条第1項第3号に該当するので、自平成2441日至平成25331日事業年度以後これを取り消したから通知」するとしています。取消処分の基因となった事実として、平成2441日から平成25331日までの事業年度において、K関係法人及びH関係法人に対する外注費として総額221,932,161円を総勘定元帳の外注費科目に計上し、損金の額に算入しているとし、当該関係法人らには事業実体が認められず、当該外注費は請求人の前々代表取締役であるA氏の指示によって、関係法人らから架空の請求書を発行させることで、関係法人らに外注費を支払っているように仮装していたものと認められるとしています。すなわち、関係法人らに外注費を支払ったことが当該事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録していることに該当するとして、当該事業年度以降の青色申告の承認を取り消すとしたものです。

 

青色申告の承認の取消処分については、その理由付記の十分性について争われた大阪地裁昭和5059日判決(行集265714頁)があるので、以下のかぎ括弧内の判決文を引用し、当該処分を検討するに当たっての一助としたいと思います。(つづく)

文責(G.K

 

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