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軽減税率導入論議の行方 その4

2015/11/06
消費税増税時の低所得者に対する逆進性(低所得者ほど収入に対する食料品等の生活必需品購入費の割合が高くなり、高所得者よりも租税負担率が高くなる性質)緩和策としての軽減税率導入の方向が与党の税制協議を経て固まったようですが、国民の目には、食料品の線引きをめぐる議論ばかりが目立ち、具体的な政策手段については、決して明らかにされているとは言えない気がしています。 

与党の税制協議と言っても、与党全体が一枚岩ではなく、また、新聞報道によれば、低所得者対策としての軽減税率導入を主張してきた公明党が、ここにきて当初のそれとは微妙に変化した「景気対策という側面もある」との発言をしているようです。これには、前回のコラムでも触れましたが、軽減税率の導入は消費額の大きい高所得者の方に、結局、大きな軽減額を享受させることになり、結果として、高所得者に多くの恩恵が及んでしまうことから視点を転じさせようとするねらいもあったものではないかと考えられます。 

軽減税率の導入をめぐっては、これまでこのコラムで3回にわたってその問題点等を取り上げながら紹介してきました。すなわち、逆進性の問題、対象品目の線引きの問題、事務負担増大の問題、税収押し下げ等の問題についてです。これらのうちから、前回のコラムでは、税収ロス分をカヴァーする代替「財源」の確保と、主として中小企業事業者の「事務」の負担を誰がどの程度引き受けるかが大きな論点であり、また、国民の最大の関心事となっている旨を述べました。 

実は、このほかにも軽減税率の導入をめぐって、これまで触れてこなかった問題として、消費税率の10%への引き上げ時に現行の簡易課税制度をどうするかも大きな論点になるものと思われます。事ほど左様に、与党である自民・公明両党は現行の簡易課税制度(みなし課税制度)の活用を検討していると報道されています。現行制度は、年間売上高5千万円以下の小規模事業者に限ってこの制度の適用が認められていますが、軽減税率導入に伴う事務の負担を軽くするために、その対象を中小企業(資本基準か売上基準かは定かではありませんが。)にも広げることが検討されているようです。 

その「みなし課税制度」は、小売業や卸売業等の6業種に「みなし仕入れ率」が定められていて、それを使って税額を大まかに算出し、納税する制度です。これまでに、自民・公明両党においては、軽減税率導入に伴う経理方式の見直しにつき、当初は事業者の事務負担の少ない簡易な経理方式でつなぎ、段階的に欧州型のインボイス方式の導入を目指す考えを明らかにしていましたが、それには準備に時間がかかるため、簡易課税制度を「つなぎ」として採用する案が有力視されているようです。 

このように、簡易課税制度は、みなし仕入れ率を使って概算で税額を算出することから、インボイス方式に比べて正確な税額の算出が難しく、本来、納めるべき税が事業者の手元に残る、いわゆる「益税」の問題が出てきます。年間売上高5千万円以下の小規模事業者に限って認められている簡易課税制度を、軽減税率導入に伴う事務の負担を軽くするためとして、その対象を中小企業事業者にまで広げれば、益税も拡大する懸念もありますが、中小企業事業者の負担が少ない経理方式の導入は不可避との認識で与党内は一致したとされています。 

現在のところ、どのような手段が採られるにしても、時間とコストがかかり、消費税増税時における逆進性緩和に有効で、完璧な政策手段は見つからないのが実情のようです。軽減税率を導入したために財源に不足が生じることになれば、そのことを理由として、再度、消費税の税率が上げられる必然性が高くなり、軽減税率を導入したツケを、結果として、国民(納税者)が払うことにもなりかねません。納税者としては、より望ましい政策手段が採られることを切に希望するものです。

文責 (G・K)

 

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