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"税法の不知"は許されるか?

2015/08/21
 今回は、税法を含めた法分野における"法の不知"について考えてみたいと思います。
「法の不知は許さず、事実の不知は許す」という法 の諺がありますが、これはローマ法においての原則でした。この原則は、すべての人が法を知ることができることを前提としており、ローマ人は、自らの国においては法律家に自由に接触ができて、容易に法律知識が得られたことから、当然にその前提が成立すると考えていました。

 ひるがえってわが国では、この原則を規定するものとして、刑法38条3項に「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。」とする条文が存在します。また実際に、裁判においても、「法の不知は犯意を阻却しない」とする判例が多くみられます。

 では、民法及びその概念を借用する税法はどのようなっているでしょうか。民法では、上記に述べた、刑法38条3項のような規定はありません。でも、そうだからといって、民法や税法では、「法の不知は許される」のが原則ということではありません。
 民法には当事者の合意に優先する、いわゆる「強行規定」が置かれており、その規定を知らなかったからといって、強行規定の効力には何らの影響も及ぼしません。

 例えば、少し古い事例ですが、相続財産を維持する目的で相続人の中の1人を除いて他の相続人が相続の放棄手続きを取ったところ、予期に反して共同相続の場合よりも多額の相続税を課税されたのは、「法の不知」に当たると相続人が主張していた裁判で、最高裁は、「法律の不知は相続放棄手続の効力に影響しない」との判断を示しています(最高裁昭和30年9月30日判決)。

 また、近時の事例で、国税不服審判所は、「不動産貸付けによる不動産所得として申告していた不動産を売却したことによって発生した損失の金額も、不動産所得として申告すべきであると誤解して、還付申告書を提出したのは請求人の税法の不知又は誤解に基づくものであるから『正当な理由』とは認められない」とし、請求人の審査請求を棄却しています(国税不服審判所 平成26年1月20日裁決)。

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※法と法律は、厳密には分けて使用され、法律とは国民の代表によって国会で議決成立したものをいい、法とはそれより広い概念で自然法や慣習法を含む概念ですが、ここでは同義として用いています。

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少し敷衍しますと、この事例は、真正面から「法の不知」が争点となったものではありませんが、請求人は、(不動産の譲渡代金を譲渡所得とすべきところを)「不動産所得と誤解して還付申告書を提出したものであり、不正に還付金を得ようという悪意があったものではないから、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する『正当な理由』がある」と主張しました。しかし、国税不服審判所は、「請求人が当該還付申告をしたのは請求人の単なる税法の不知又は誤解に基づくものであるから、『正当な理由』とは認められないと判断し」、請求人の審査請求を棄却しています。

このように、法は社会にあっては強制力を伴うルールです。それは時として憲法で保障されている財産権(憲法29条)をも侵害し、国民の財産を税という形で国庫に強制的に移転する制度を担保する役割を果たします。
また、冒頭にも触れましたが、我が国においても国民は法を知っていることが前提となっており、その上に、"法の不知は許さず"という法原則が存在しています。

かくして租税裁判の判決(裁決)では、法の不知や法令解釈の誤解は、当事者本人の責任であり、救済すべき「正当な理由」や「やむを得ない事情」には該当しないとの文言をよく目にすることとなります。

文責 (G・K)

 

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