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財政規律の健全化における消費税の役割

2017/01/20
このコラムで、これまでに何度となく安倍首相の進める経済政策、すなわちアベノミクスについて、批判的な立場からの意見を述べてきました。今月4日の年頭記者会見で、安倍首相は、「本年も経済最優先、鳥が大空をかけるように颯爽とデフレ脱却に向けて金融政策、財政政策、そして成長戦略の三本の矢をうち続けてまいります」、「アベノミクスをふかしながら、経済をしっかりと成長させていく、これが私たちに与えられた使命であ」る、との所感を述べています。そこで、アベノミクスの効果等と財政規律健全化という視点からの税制・税法のあるべき姿を述べてみたいと思います。
 
アベノミクスの内容は、周知のとおり、3本の矢で構成されていました。1本目の矢で異次元の金融緩和をして市中にマネーを溢れさせ、その結果、物価を上昇させることで人為的にインフレを創出し、デフレを脱却することを目指しましたが、現状では、生鮮食品を除く消費者物価は下落しています。2本目の矢は、財政出動を内容とするもので、どちらかと言えば、伝統的な従来型のバラマキを伴う政策でしたが、同時に財政規律も守る旨を主張していました。3本目の矢は、その内容は成長戦略でしたが、これにより実現した目立った成果は、今のところ未だ見受けられず、アベノミクスにおける3本の矢のいずれについてもその効果は疑問に思うところです。
 
ところで、これら3本の矢のうち、特に2本目の矢に関しては、消費税の引き上げを延期しても経済成長の「果実」により、財政の健全化は達成可能であることを強調していましたが、安倍首相自身が2度目の政権を担当してきたこの4年間に、財政はさらなる悪化の一途を辿っています。その意味で、将に消費税の引き上げは、待ったなしの状況となっていますが、財政規律の健全化の役割を消費税の増税に担わせるとすれば、その制度を改善することも必要であり、場合によっては、わが国の現行消費税法をもう少し分かりやすくすることも必要であるように思われます。
 
わが国は、過去二度の消費税の増税を行ってきましたが、2014年の引き上げの前に、財務省は、「消費税増税をしても景気が後退することはない」と主張、その根拠として、ドイツが付加価値税を引き上げた時、景気が悪化しなかったことを挙げました。しかし、財務省のこの予測は見事に外れました。消費税の引き上げは、住宅の購入意欲に他の物以上に大きく抑制する効果となって現われます。1997年も2014年にもこれが原因で、住宅の購入が長期的に落ち込み、住宅の購入額が大きいこともあり、これが不景気に繋がっていきました。一方、ドイツの付加価値税では、基本的に住宅購入に対しては非課税なので、この問題が起きる余地はありません。例えば、わが国においても、制度をドイツに倣えば、消費税の増税が不況を引き起こすことはなくなると考えています。
 
税法に関して、最近、同席した税法・税務に関する官庁と実務者との会合で、消費税の滞納問題の話題において、「そもそも消費税は消費者からの預り金にも拘わらず、それを国に納めていないところが問題だ」との発言が見られ、それに同調する者が少なからずいたことです。制度が複雑であることもさることながら、それを担保するための法律の理解も十分ではないことを実感した次第です。因みに、納税義務者について消費税法第5条第1項は、「事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある」と規定しています。
 
この規定からすると、納税義務者は明らかに事業者であって、消費者ではないことになります。また、東京地裁平成2年3月26日判決によれば、「消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者に対する関係で負うものではない」と判示しているところからも、消費者は事業者に消費税を預ける存在ではなく、「消費税が預り金」とする理解は法的に誤りであるということが言えます。(了)

文責 (G・K)

 

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