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税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.10

2018/07/03

前回に引き続き、いわゆる期中現金主義について述べたいと思います。ここまでに述べてきているように、かつての関与税理士が採っていた会計処理方式は、法人税法、会社法、金商法等の法規範が定めている会計処理基準とは乖離した、極めて不適切な、いわゆる期中現金主義を採用するものでした。本件事件のような重大な事態を惹起している最大の原因は、将にこの会計処理方法にあると考えられるにも拘らず、本来、法と証拠に基づき厳正・不偏な捜査をなして真相に迫るべき検察官が、むしろ、かつての関与税理士を庇うかのような尋問や主張ないし発言に終始していることに、傍聴者として少なからぬ失望、脱力感を禁じ得ないものを感じていました。

 

というのも、検察官は検察側の証人尋問においてのみでなく、弁護側証人に対する反対尋問においても、「法律的なことではなく、期末に発生主義に直したときに利益を正しく出し、その利益に従って納税」していれば問題はないのではないかとの趣旨の質問をしているのです。既にお分かりだと思いますが、「利益を正しく」算出するためには、法律で定められた会計基準に基づいて計算しなければ、換言すると、同じ物差しを用いて計らなければ、算出された利益の額の正確性は担保できません。また、「利益を正しく」算出していくための計算プロセスの正誤の検証も不可能となります。

 

期中現金主義は、前回も述べていたことから若干重複しますが、前期末に買掛金や未払金、未払費用、未払法人税等で計上したもので今期に支払いがなされたものについて、支払時に買掛金等を減少させる処理をせず、期末の決算整理でまとめて振替えることになることから、月次試算表と企業財政の実態とがかけ離れ、かつての関与税理士が被告会社の経営状態や会計情報をタイムリーに把握できず、また、期末には機械的に洗い替え(反対仕訳)をすることから、損益が正しく試算表上に表示されず、利益が見えづらいこともあり、かつての関与税理士自らも、それを見落としたことが強く疑われるところです。

 

実際に本件の場合、前年3月期の買掛金の残高約1億円が当年3月決算修正前まで合計試算表の貸借対照表に負債として計上され続けており、これは実際には、前年4月以降に支払いが行われ、合計試算表の損益計算書上の前残高に含まれて計上されています。このことは、貸借対照表上は前年の3月期のものがずっと1年間残高として計上され続けており、他方、損益計算書上は支払われたものも計上されていることになり、結果として当期利益が約1億円少なく表示されていることを意味します。このように、利益が見えづらいことに加えて、かつての関与税理士は、月次処理のすべてを自らの会計事務所職員に任せ切りにしており、税務申告直前の連休明けに決算修正をするまで、その利益を見落としたものと思われるのです。

 

具体的には、前年3月期における決算修正で計上されていた買掛金(約9,800万円)及び未払金(約600万円)が、期中現金主義により経費処理がなされていたため、当年3月の決算修正前までの試算表上には、本来の当期利益より約1400万円少なく表示されていることになり、期末には前期分の損金としていた約1400万円を振替える必要があります。しかし、その時期の他の関与先の決算、確定申告等の業務に追われ、かつての関与税理士はそれを見落とし、また、そのこと(申告納付直前まで被告人らに利益は約1億円と伝えていたものが、突然に利益が約2億円になったこと)を被告人らが理解可能な形で説明できなかった、つまり、かつての関与税理士がアカウンタビリティを十分に果たさなかったことが、本件事件の発端となったのではないかと考えられるところです。(つづく)

文責(GK

 

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