Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > 税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.12

税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.12

2018/08/05

これまで租税法の理論及び実務を研究してきた学者として、また実務家である税理士として租税実務に携わってきた者として、本件事件を通じて、改めて租税事案を専門的に審理する租税裁判所、そして、そこには租税法はもとより税制、税務、会計実務に精通した(仮称)租税弁護士の存在が不可欠であることを痛感しました。複雑になっていく一方のわが国の税制にあって、納税者の権利擁護とより公正、公平な税制を確立するためには、これまでに数回、税制視察を目的としてドイツを訪れており、そこで見聞きしたものがわが国の租税争訟の場面に模範となると考えられ、ここにその一端に触れてみたいと思います。

 

なお、以下に述べるものは、特別刑法犯としての税法違反事件には直接関係するものではありませんが、本件事件の全体像を把握した上で、今後の同種事案の発生防止を考える上では参考になると考えられます。というのも、本件事件の場合、刑事事件として税法違反被告事件が裁かれる一方で、行政面からは、所轄税務署から法人税額、消費税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書が発せられ、これに対する争いの側面も有するからです。また、これらの手続は通常の租税訴訟と全く同一の手続をとることになるからです。

 

先ず租税争訟に関する基礎的な数値として、ドイツの連邦全体での異議申立(わが国では、「再調査の請求」といっています。)の件数は年間14万件から16万件もあり、わが国の件数のおよそ90倍程度となっています。これには彼我の課税制度の相違もあり、単純比較をすることは適切ではない側面も存在します。すなわち、ドイツは賦課課税制度の下での課税庁からの査定通知に対するもの、わが国は申告納税制度の下での課税処分に対するものの違いです。ともあれ、それらの件数のうちから、州財政裁判所(州の租税裁判所の性格)に提訴される件数は年間で4万~5万件であり、これらのうち連邦財政裁判所(連邦の租税裁判所の性格)に上告されるのは、3千から4千件程度となっているようです。(データは2013年訪独時と2016年国税庁公表数との比較です。)

 

わが国は不服申立前置主義が採用され、税務署長等が行った更正・決定などの課税処分、差押えなどの滞納処分等に不服があるときは、処分を行った税務署長等に対する再調査の請求と国税不服審判所長に対する審査請求とのいずれかを選択して行うことができます。(再調査の請求か)審査請求を経てなお不服がある場合は、訴訟が提起されることになりますが、平成28年度の訴訟提起件数は230件であり、ドイツの概ね210分の1であり、それらのうち、最高裁に上告される訴訟件数は限定的で、ドイツと比較すると約1000分の1程度ということになり、かなりの開きがあるといえます。

 

このようなドイツの租税争訟制度を概観すると、先ずは課税庁からの査定通知を基に、そこに記載された納税額に不服がある場合にのみ、納税者はその「税額査定書」に対する異議申立を1ヶ月以内に所轄税務署に対して行うことになります。異議申立に対する所轄税務署の決定処分(3ヶ月以内)が出た後、これに不服がある場合には、州財政裁判所に提訴することができ、さらに連邦財政裁判所(ドイツにおける租税裁判は二審制を採っており、ここが最終審となります。)に上告し、救済を求めることができます。なお、異議申立に対する決定は、70%程度が納税者に有利な決定となっているようですが、そもそも、税額決定が課税庁からの税額査定に基づいているのにも拘らず、後日の税務調査における是認率がかなり低いことを考慮すると、調査が厳格過ぎるのか、査定制度自体が機能不全に陥っているのかについて疑問の残るところです。(つづく)

                                 文責GK

 

金山会計事務所 ページの先頭へ