税務コラム
前々回のコラムでは、本件事件の弁論について触れ、当該弁論が終結したことを述べました。ところが、その終結から約一月を経て、検察官からの「追加立証を行なうため」とする弁論再開請求を受けて裁判所は、一旦終結した弁論の再開を決定しました。刑事訴訟法には第313条第1項に次のような規定が置かれています。すなわち、「裁判所は、適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離し若しくは併合し、又は終結した弁論を再開することができる。」とするものです。
条文によれば、弁論再開は無制限に認められているものではなく、あくまでも「適当と認めるとき」との制約があることになっています。検察官からのこの請求に対し、弁論再開決定に先立ち裁判官は弁護人の意見を聴いていますが、(個人、法人の)弁護団としては、「検察官による弁論の再開請求に対する意見は、検察官が追加請求する書証の開示を受け、検討した上で述べることとしたい」として、後日、個人の弁護人らは、概要以下のような意見書を裁判所に提出しています。
「検察官の弁論再開請求に対して、被告人らの弁護人の意見は次のとおりである。」
「1.検察官は、その論告において、『公訴事実記載の逋脱税額等の金額について、冒頭陳述添付の各計算書及び内訳明細書記載のとおりである。そのうち、控除対象仕入税額調査書記載の控除対象仕入税額(調査税額)の計算方法については、別紙のとおりである』と主張している。すなわち、検察官は、公訴事実記載の逋脱税額等の金額について既に立証を尽くしている。しかるに検察官の弁論再開請求の理由は、被告会社における控除対象仕入税額についての追加立証を行なうためである。このような追加立証のための弁論再開は、刑事訴訟法における攻撃防御に関する訴訟手続の諸規定、適正手続(憲法31条)からしても本来認められるべきではなく、特に、本件においては、公訴事実の逋脱額の立証のためであり、それが弁論終結1ヶ月近くを経過してなされたことからすると、訴訟手続の遅滞を招来しかねないのであり許容されるべきではなく、また、刑事裁判の公平・公正という観点からも相当でないと思料する。」
「2.他方で、検察官の前記1.の論告部分のなお書き別紙は、立証が尽くされているものについて、あえて、調査控除対象仕入税額の金額を例として計算方法を示しているものである。今般の検察官の弁論再開請求の追加立証を行うための立証とは、調査控除対象仕入税額の計算方法を示すための証拠調請求と判断される。よって、新たな立証とは評価されないものであると思料する。」
「3.刑事訴訟法は、弁論再開について、『裁判所は適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、終結した弁論を再開することができる。』とする。そして、弁論を再開するかどうかは、裁判所の自由な裁量に属するとされている(最判昭和36、5、26 刑集15、5、842)。検察官の請求に対する弁護人の意見は前期の1.のとおりであるが、弁論再開請求理由の相当性、必要性、当否については、裁判所の判断に委ねるところである。なお、弁論の再開が裁判所の裁量に委ねられるとしても、憲法、刑事訴訟法上の原則に適合しなければならないものであり、その裁量には自ら限界があると思料する。」
検察官からの弁論再開(証拠調)請求に対する弁護人の意見としては、口頭によることも考えられ、実際、法人の弁護人らは口頭で、個人の弁護人と同趣旨の意見を表明しましたが、個人の弁護人らは「記録に残す」ことに意義を求め、上記内容の意見書を提出することにしたようです。(弁論再開 了)
文責(G・K)