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税法違反被告事件判決への疑問 その5(正しかるべき司法も盲いることがある?)

2019/02/18

事ほど左様に、セオリティカル、プラクティカル両面から租税法学に携わってきた専門家の見解としても、「租税犯の場合、逋脱犯を含めて全ての租税犯罪は実体法ないしその他の禁止規定が存在している点において、この観点からのみ考えるならば、いわゆる行政犯なのである。租税犯の或るものが既に行政犯から刑事犯に転化したと考えることは早計であり、そのすべてが今なお行政犯の領域に止まっているものと解するの外はない」とするものが見られます(河村澄夫「税法違反事件の研究」)。このことは、行政刑法に属する租税刑法は、当然に租税法(実体法)の指導理念の支配を受けることを指し示しています。そうすると、「法人税等をほ脱することの概括的な認識があれば足りる」とする本判決における考え方は、租税実体法の指導理念である租税法律主義の内容をなす「(課税要件)明確主義」の原則からは明らかに逸脱するものとの評価がなされることになります。

 

また、本判決は、「平成X13月期の決算において、旧関与税理士が示した計算に関し、当初算出された利益額を約2億円から1億円に減少させる経理処理を行う認識があったことは明らか」としています。しかし本件事件の真相は、このコラムでこれまで幾度にも渡って述べてきているように、旧関与税理士が採っていた経理(会計)方式が変則的な期中現金主義であったところから、期末には前期分の損金としていた約1億円を振替える必要があります(結果として利益が約1億円増加する)が、旧関与税理士はこれを失念、若しくは気付くことなく、その処理をしなかったことから、当初、「当期の利益額は約1億円」と被告人らに告げていたのです。つまり、実際には顕在化していない利益が1億円分隠れていたことになります。すなわち、旧関与税理士が当初算出した(被告人らに伝えていた)利益は、あくまで1億円であり、決して2億円ではなく、「当初算出された利益額を2億円から1億円に減少させる経理処理を指示したものではない」ことは帳簿等が明示しています。その不作為に決算整理をしている過程で気が付き、改めて利益額は約2億円と訂正して被告人らに告げたタイミングも、申告直前とも言うべき428日になってからです。

 

そこで、旧関与税理士は自らの汚点を払拭すべく数字調整をするとして、「売掛金減らすのはどれにしますか?関係法人への外注費増やしますか?役員の退職金を払う人いませんか?決算賞与出しますか?役員賞与はダメです、株主配当もダメです」などと会計、税務に然程知識のない被告人らに問い、自らの処理ミスを帳消し、ないしは矮小化させるべく意図をもって質問しています。加えて、平成X13月期の決算に関し、被告人であるA氏に対して、「社長、今回の決算の利益はどうしますか?税金を今期で払うか来期で払うかの違いです。税務調査が入らねばいいです、お金が消えていないからいいんです。」と意図的な「期ズレ」処理を行うことをも示唆しています(B氏メモ)。これらについては、その場逃れの、税理士としての職業上、誤った業務処理の承認を納税(義務)者に求めるものであり、それは同時に職業倫理にも悖るものであるところから、その発言は許し難いものと言えます。ともあれ、こうして旧関与税理士が当初1億円と納税(義務)者に伝えていた当期利益は、428日を境に突如として2億円に増加したものと考えられます。

 

それを、「当初算出された利益額を約2億円から1億円に減少させる経理処理を行う認識があったことは明らか」と認定するのは如何なものでしょうか。捜査・司法当局があまりにも予断に基づくストーリーに依拠し過ぎたのか、会計の知識が欠如しているのか、若しくは旧関与税理士の責任を問えない何らかの事情が存在していたのでしょうか。と言うのも、本件が立件に至る過程での国税局による査察調査の翌日、旧関与税理士が被告会社に被告人らを訪れ、「1億円(の利益額の圧縮)は社長(A氏)に頼まれてやった(減少させた)と国税局に言ってもいいですか、(そうでなければ、自分の)税理士資格が剥奪されてしまうので」(B氏メモ)と「哀願」し、自らの責任の重大性を認め、動転していた程の当該税理士に対して、現在に至っても、何らの刑事的責任の追及や行政処分が行われていないことが気になるところであるからです。(つづく)

文責(GK

 

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