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軽減税率は低所得者や社会的弱者等の負担を軽減するか? 

2019/10/01

本日101日から消費税率が10%に引き上げられ、このタイミングで軽減税率も導入されたことは周知のことと思います。軽減税率の導入の目的は、主として低所得者に生じる逆進性(租税は、所得に応じて負担すべきであるとする考え方がありますが、消費税の場合、その関係が逆になるところから、これを逆進性といっています。)を軽減することにあります。そこで、この機に、軽減税率が真に低所得者や中小零細企業事業者等の社会的弱者の負担を軽くするものなのか、そもそも軽減税率の何が問題なのか、それらの問題点を整理しながら、再検討してみる必要があるように思います。

 

先ず、軽減税率についてですが、この複数税率の導入は税制の大原則といわれる簡素、公平、中立という観点からは乖離するものになると考えられます。「簡素」の原則についてわが国の消費税は、これまでは低税率を維持しながらも、単一税率の下で効率的な税収を上げてきていました。それをこの度の軽減税率の導入によって、わざわざ仕組みを複雑化させた上、駆け込み需要の反動減対策を講ずることで税収を減少させることにもなると考えられます。公平の原則については、同じ所得であれば同じ税額を負担する(水平的公平)べきとする考え方に立つものであり、持ち帰りか店内飲食かによって、同じ飲食料品であってもその租税負担額が変わるのは、公平原則が損なわれることになります。中立の原則については、税制が個人や企業の経済活動における選択を歪めることがないようにしようとするものです。すなわち、租税の存在によって人々の選択行動が歪められるような事態は最小限に抑えられるべきと思われます。

 

さて、軽減税率導入の主たる目的としての低所得者に生じる逆進性についてですが、高額所得者の購入する飲食料品の方が、可処分所得が少なく毎日の生活費にも事欠くような低所得者の購入する飲食料品より相対的に多いと考えられることから、その意味で、逆進性対策としての効果は殆ど期待できず、むしろその効果は反対に追加的な逆進性を生み出すように思われます。すなわち、軽減税率は高額所得者をますます潤すことになっても、低所得者対策にはならないと考えられます。

 

加えて、軽減税率を導入した場合、中小零細企業の現場はかなりの混乱が想定されます。事程左様に、930日から101日にかけてのスーパーやイートインのあるコンビニ、また、居酒屋等の飲食店における状況がテレビ中継され、その混乱を如実に映し出していました。軽減税率の存在はモノを販売する側、それを購入する側の選択行動に大きく影響を与えると考えられる他、その対象品目の線引き、区分が政治的過程を経て恣意的になり、また、仮に標準税率が適用されている原材料を使用して軽減税率の飲食料品を製造するような場合、税の転嫁が複雑にならざるを得ません。また、事務処理の面でも大きな問題があります。軽減税率が導入されると、中小零細企業の現場における事務処理及びそれを受けて税務申告をする会計事務所の業務の複雑さや煩雑さ、事務負担の増大、錯誤等は、おそらく想定外のものとなるように思われます。

 

これに加え、複数の税率が共存することにより、標準税率と軽減税率との区分、その区分に伴って必要となる値付けや商品タグの貼り替え等に係る人件費、更には、標準税率と軽減税率との区分記載が可能なレジが必要となり、それらに係るコストも中小零細事業者自らが負担しなければなりません。また、帳簿への記載に関しては、標準税率適用のモノ、軽減税率適用のモノ及びサービスとのそれぞれ区分経理も求められることになり、当然ながら、それらに係るコスト及び適正申告のための社員教育に係るコスト等も全て中小零細事業者の負担となります。

 

かつて、欧州の税制視察及び実務の現場に行った折、VAT(付加価値税)についての説明をした担当係官及び大手会計事務所の担当係員は口を揃えるかのように、日本が消費税率を引き上げる際には、複数税率を採用せず、現行の単一税率を維持すべきであることを強調していたことが印象的でした。(このテーマおわり)

                               文責(G.K

 

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