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租税不服申立について(審査請求「意見書」編…その5)

2020/11/06

前回のコラムで「本件利益調整」について触れていますが、当該「本件利益調整額」とされているものについて、C氏(専務)、I税理士の申述を引用したとしながら、以下のような考え方で「本件利益調整額」を認定しています。すなわち、「調査対象年度の3月期の売上額を認定するに当たり、請求人が発行する請求書控え、売上先が発行した支払通知書、請求人の取引先から請求人の金融機関の口座に入金された金額、総勘定元帳、注文書、注文書請書及び請書から調査対象各事業年度に帰属する金額及び出来高請求伝票を根拠として、これらの金額を合計した金額を請求人の調査対象年度3月期に計上すべき金額と認定した」とし、「AC氏夫妻及びI税理士が申述した本件利益調整の金額と上記の差額の金額が一致しない点については、…(中略)利益調整ができなかったものと推測される。」としています。

 

しかしながら、請求人が当該年度の法人税の申告書に記載した売上額との差額は何かを特定、解明した上で、その原因について明らかにすべきは当然と思われます。本件更正処分等は不利益処分に係る租税争訟事案であり、原処分庁に立証責任がある以上は、当該差額の原因等を特定、解明することなく、これを「利益調整できなかったものと推測」して売上に加算することは、挙証責任のある原処分庁の行為として許されるものではありません。また、事実の隠蔽又は仮装についてですが、原処分庁が「本件架空給与」であるとしているものの実態は、前回にも触れましたが、請求人の意見書でも主張しているように、事実の隠蔽又は仮装ではなく、旧関与税理士の処理ミスです。それは、元請企業の現場担当者らから請われて出捐した貸付金類似の現場経費であり、請求人の処理としては、本来、交際費等とすべきものであったと思われます。

 

外観としては、法人から法人への現金の動きがあるように見えますが、その原資となっているものは、法人の交際費とAC氏夫妻の個人的出捐とが混然一体となっていたものです。原処分庁が更正の理由において使用している「受注工作資金」の用語の適切性は問題がありますが、それを別として、請求人が受注した現場における元請担当責任者らと下請従業員らとの人間関係の円滑化を図ったり、元請先からの受注をスムーズにするための販促費、ないしは、「供応、慰安その他これらに類する行為のために支出する費用」であることに相違なく、決して「支給事実のない架空の賃金」として当該事業年度の所得金額に加算され、重加算税が賦課される性質のものではありません。したがって、「本件架空給与」とされるもの及び「本件利益調整」とされるもの、更には「仮装・隠ぺい」とされるもの、それらのいずれにおいても、旧関与税理士であるI税理士の勘定科目名の使用のミスは見られるものの、隠蔽又は仮装の意図や故意及びそれらに係る行為も存在しないところから、原処分庁による本件更正処分等に係る隠蔽又は仮装の認定は、その前提を欠きます。また、原処分庁の意見書におけるこの点に関する主張には理由がなく、理由の附記に係る「附記すべき理由の程度」について、原処分庁は、本件更正処分等のいかなる法規を適用したかのみならず、その処分基準の具体的適用関係も一切、明示しておらず、理由の明示として十分に了知し得るとは、到底、認め難いものです。

 

次に、理由の差替えについて、原処分庁は、自ら最高裁判決の趣旨に違背していることを認めた上で、当初の処分を一旦、取消し、同日付で、売上等の資料を追加し、再更正しています。しかしながら、再更正をするためには、その前提として、再更正自体が認められるか、すなわち原処分庁が、理由附記の不備を理由附記に不備のない再更正でやり直すことが可能か、当初更正に附記した理由を別の理由で置き換え再更正でやり直すことが可能かという問題があります。現在では、学説、判例ともに理由附記の追完は認められないとすることに異論がなく、理由附記の追完は認められないことが確定しており、それについては、繰り返し最高裁が判示しているところです。原処分庁の主張は、法治国家の中枢を構成する税務行政庁であり、その考え方を遵守すべきことは言うまでもありませんが、原処分庁は、これを無視する趣旨とも思われます。

 

因みに、理由の附記、いわゆる追完についてこれを認めないとした判例としては、①「…法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を欠くにおいては処分自体の取消を免かれないものといわなければならない。」とした(最判昭和38531日民集174617頁)裁判例があります。また、青色申告との関連での理由附記の不備を認めないとする裁判例として、②「他の論点について判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れず、そして、本件更生を違法として取り消」すとしている判決もあります(最判昭和381227日民集17121871頁)。

 

この他、③「所論は、仮に本件再更正処分の理由附記に不備があるとしても、そのかし(瑕疵)は再調査決定の附記理由によつて治癒されたというが、…再調査決定の附記理由が仮に不備でなかつたとしても、これにより遡つて更正処分の附記理由の不備が治癒されると解することはできない。再調査決定に理由を附記すべきものとしているのは、決定機関の判断を慎重ならしめ、恣意を抑制するとともに、請求人の不服の事由に対する判断を明確ならしめる趣旨に出たものであるから、附記さるべき理由は、請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならないものというべきである。」(最判昭和47331日民集262319頁)とした判決もあります。

 

また、④「所論は、かりに本件更正の附記理由に不備があるとしても、その瑕疵は、本件審査裁決に理由が附記されたことによつて治癒されたものと解すべきであるというのである。しかし、更正に理由附記を命じた規定の趣旨…処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的として更正に附記理由の記載を命じた法人税法の規定の趣旨にかんがみ、本件更正の附記理由には不備の違法があるものというべきである。」(最判昭和47125日民集26101795頁)とする判決も存在します。

 

近時の裁判例では、税法とは直接の関係はありませんが、行政手続法141項との関係で、不利益処分に係る理由附記の不備についての以下の判断が最高裁から示されています。⑤「…処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難であるのが通例である。上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は相応に知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって免許取消処分(本件法人税等の更正処分等)が選択されたのかを知ることはできないものといわざるを得ない。

このような本件の事情の下においては、行政手続法141項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由提示としては十分でないといわなければな」らず、本件処分の「取消しを免れないものというべきである。」とするものです(最判平成2367民集6542801頁)。<括弧内筆者加筆> (つづく)

文責(G.K

 

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