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税務行政職員の使命感と職業倫理 その3

2021/03/19

税務コラムの現テーマの前に、「租税不服申立について(審判所の役割と機能について)」と題して、審査請求の関係での税理士実務において体験した事柄について連載していました。平成291124日の原処分庁の当初更正処分に対する再調査の請求、それを取り消した原処分を経由した令和元年1122日の札幌国税不服審判所(以下、「審判所」という。)への審査請求という一連の租税不服申立は、令和3313日土曜日の夕刻、「本件請求を棄却する。」との裁決書が請求人(代理人)に送達されたことで幕が降ろされました。異例の長期間を要した本件不服申立事案に漸く、租税行政庁としての判断が示されたわけですが、その内容は、残念ながら、「行政不服審査制度の最大の短所とされる、中立性の希薄さ、公正性及び信頼性の弱さ」は、想定をかなり下回るもので、訴訟における裁判官ならぬ審理員(行政官)判断の限界を示すものでした。

 

このコラムを通しても述べていたように、あれだけの札幌南税務署及び札幌国税局の職員、すなわち原処分庁側の取調べにおける、違法証拠収集、曖昧な事実認定、更には代理人に対する原処分庁の明らかな「嘘」に基づく主張等に気付いていたにも拘らず、また、請求人による通則法97条に基づく質問・検査の申立てを拒否、回避して、原処分庁の主張をそのままトレースしたに過ぎないような、審判所の認定(裁決)でした。本件審査請求に先行した刑事裁判においての公訴事実は、あくまでも札幌国税局査察部による札幌地方検察庁への告発を内容とするものであり、その意味においては、当該刑事裁判の判決内容を維持しなければならないという、租税行政庁にとっての「至上命題」が小さな嘘を呼び、やがてそれが審判所をも巻き込む抜き差しならぬ過ちに繋がっていったと感じているところです。将に、前回のコラムの最後にある「小さな間違いならそれを認めて簡単に直せるが、その間違いが深刻で責任が大きい程、それを認めまいと言い訳を探し、固執するもの」を実感しました。

 

裁決書を一読すると、「やはり」感のする記載振りでした。審判所の判断の国民(納税者を含む)へのインパクトを最小限に抑えるべく考慮(作為)していることが明らかです。特に争点1は、請求人と審判所との間で何度も意見書等を通して打ち合わせ、請求人は争点1につき、「原処分庁が、更正処分の理由附記の不備を認めて一旦取消したものを、同日付で理由附記を追完し、新たに原処分としてなした本件法人税額等及び消費税額等の更正処分等は有効か。」とするよう、令和2727日の意見書で審判所に申し入れ、同様に争点2についても、請求人は、「原処分庁が請求人の代理人に行ったとする説明は、通則法74条の112項の『調査の終了の際の手続』の適切性の要件を満たすものと法的に評価できるか」についての判断をするよう申し入れていたものです。

 

これらを裁決書によれば、争点1「本件調査に係る調査手続に本件各更正処分等を取り消すべき違法があるか否か」、争点2「本件各更正処分の理由付記に不備があるか否か。また、本件当初各更正処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件各更正処分をしたことは、違法か否か。」として、租税行政庁にとって有利な判断を示すべく、請求人の主張を無視して、それらについての判断を示しています。これでは、理由附記不備という、本件審査請求事件の最大の争点が霞み、その内容を表現する文言すらも、敢えて掴みどころのない極めて抽象的なものにされ、また、理由附記不備という最大の争点を、争点1と争点2に分割してそのインパクトを緩和したりしており、仮にこれを机上での判断(議決)のみでするのであれば、つい、原処分庁の主張が正しいと判断してしまいそうです。

 

すなわち、上に述べた「至上命題」のために、審判所は、請求人主張の争点1における納税者を含む国民の最大の関心事から、故意に曖昧模糊とした文言にすることで焦点を暈し、国民の目を逸らそうとしていると思われます。同様に争点2についても、争点1に次ぐ本件審査請求事件においての大きな意味を持ちます。つまり、争点122つに係る審判所の判断で、本件審査請求事件の判断の趨勢が決定することになります。そのことから、裁決書においては、訴訟における最終審としての最高裁の判決との関係で矛盾がないように、一部文言を引用するなど、腐心しているように思われます。因みに、最高裁は、従来から累度にわたり、公正の理由附記に瑕疵がある場合の処分の取消を判示しており、平成23年判決についても、行政手続法141項の理由提示の趣旨について、「処分適正化」機能及び「争点明確化」機能を示しており、そのことは、従前の判例法理が妥当することを確認しているものと思われます。

 

然るに審判所は、その裁決書中の法令解釈に関して、「通則法は、第7章の2≪国税の調査≫において、国税の調査に必要とされる手続きを規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。」とし、「もっとも、通則法は、…課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に重大な違法があり、…証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる場合」が課税処分の取消事由となるとしています。

 

そこで、理由附記に係る審判所の判断についてみてみると、前述の最高裁判決に反していることが明らかです。また、審判所は、国税の調査の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はないとしていますが、通則法が「第7章の2 国税の調査」を設けたことからすれば、従前の通則法24条等に加え同章の規定、すなわち通則法74条の112項に規定する「調査結果の内容の説明」も、これをしなかった場合は課税処分の効力は無効になると考えられるところです。次に、調査手続に瑕疵がある場合ですが、調査手続の違法は、当然には課税処分の取消事由とはならないとしても、一定の場合、課税処分の取消事由になると考えられます。例えば、課税当局の判断が合理性を欠く場合で、ある判断の基礎となる重要な事実に誤認があること等により、その判断が全くの事実の基礎を欠く場合及び事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるような場合です。

 

これを原処分庁等の租税行政当局の対応についてみてみると、これまでに述べてきたように、原処分庁等の説明、主張は合理性を欠き、剰え質問てん末書における虚偽記載、代理人に対して調査結果の説明をしたと平然と嘘の主張をする等、あらゆる局面で、数々の問題点が存在し、それら事実については、請求人の証拠等を通して審判所は当然了知していたと思われます。また、審判所は、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に重大な違法があり、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたることも、請求人の証拠資料及び主張等を通して認識していたと思われ、課税処分の取消事由となることも充分了知しながらも審査請求人からの審査請求を棄却する裁決を出しています。審判所が、自らにとって判断しやすく、都合のよい裁決を出しやすいように、請求人の希望や主張を容れず、一方的に争点を設定する、すなわち、自ら基準を決め、自らそれを判断するシステムにおいては、審判所(国側)は、百戦して百勝となることは明らかであり、審判所を置く意義はないことになります。

 

原処分庁であれ、審判所であれ租税行政庁の職場における幹部の姿勢、態度は、実務を執行する現場の職員に伝播します。令和元年1218日の審判所と請求人との打合せ時の「税務行政に係る事項の判断をするのではなく、純法律的判断をする」との橋立庄平副審判官の発言通り、請求人(代理人)は、法的内容を中心に主張をしてきたところ、東亜由美国税不服審判所長の税法関連雑誌の記事は、「行政のあり方を迅速に見直す不服審査」としており、裁決が行政判断であり、攻撃・防御両面において方針を間違えていたことを痛感しています。(このテーマ 終わり)               文責(G.K

 

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