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国税不服審判所の役割とその存在意義 その15

2021/08/25

今回は裁決書19頁ロの「検討」として記載されている内容に関して述べてみたいと思います。審判所は、()において本件各関係法人の事業実体に関して、「本件各関係法人の事業実体について、上記イの各認定事実に基づき検討する」としています。そして、そこでAとして記載されている内容は、原処分庁の認定を追認するのみで、審判所としては、何らの検討ないし考慮はしていないと思われる表現で、消費税を免れる目的で関係法人を設立したと断定し、それに見合うべく跡付けをする、牽強付会な姿勢での事実認定をしているように思われることからそれについて反論したいと思います。

 

先ず、建設業の中でもゼネコン等の大手元請事業者の一次下請である鉄筋工事業において、調査当時の受注高に占める粗利は20%程度であり、その中から経費等の諸費用を除くと純利益は僅かな額となり、就中、給与支給額の2729%を占める社会保険料負担(健康保険、厚生年金等の労使折半)は、一次下請事業者の経営のみならず、二次下請事業者及びその労働者(従業員)の可処分所得を大きく圧迫するものでした。そこに、労使に共通して社保負担の軽減ないしできるだけ回避をしたい動機が存在しており、税率5%でしかも預かり金的な性質を有する消費税を、「本件各関係法人への外注費として仮装し、これを請求人の課税仕入れとすることで、請求人における消費税等の税負担を軽減」することが専一的な動機ではないことは客観的にも明らかと言えます。

 

また、裁決書は、19頁で「消費税法第9条、同法第9条の2及び同法第12条の2の特例制度を適用して、本件各関係法人を設立から1年間は消費税を納める義務が免除される事業者とした」としていますが、裁決書13頁イ認定事実の()本件各関係法人の設立の状況についてのAにおいて列挙する本件各関係法人の設立、解散は、概ね2年ごとに繰り返したとしています。なお、請求人の代表取締役であるA氏は、「K関係法人については、平成2521日から平成26131日までの課税期間において外注の取扱いを変更し、工場業務のみを残し、現場業務は平成2521日設立のH関係法人を外注先とし、そのH関係法人は2期目の業務を行うことなく解散したとし、いずれも平成23年度税制改正に対応しての解散である旨の恣意的な認定をしています。

 

これらの関係法人の解散については、前回も述べているように、K関係法人の代表取締役であったOS氏の離婚、退社に伴うもの及び、そして、H関係法人が1年で解散したのは、代表取締役SM氏の息子とスナックを経営するための退社であり、それぞれに合理的な理由が存在します。そして、S関係法人については、困難な諸事情を乗り切り、現在も法人業務を続けているところ、審判所(裁決書)は、これと他の関係法人とを一括りにした認定をしています。このように原処分庁の認定を吟味、検討することなく、そのまま審判所の認定として、他の関係法人と一括りにした合理的理由がないとする論理、立論は、極めて恣意的で、独善的であり、それらを事実の基礎とする認定には大きな問題があり、裁決書の記載には至る所に矛盾や齟齬が存在します。

 

例えば、S関係法人に所属していた従業員については、札幌南税務署(原処分庁)の税務調査及びその後の強制的な行政指導を受けて、その殆どを請求人に移動させられ、壊滅的な打撃を受けながらも、自助努力により、現在も立派にその事業を存続しており、裁決書(審判所)による記載は、極めて適正性を欠く表現と言えます。原処分庁の認定を、何らの検討をしないどころか、審判所は、事態や事柄を誇張した上、恣意的、一方的に悪質性に結び付ける印象操作を行っています。蛇足ながら、請求人の代表取締役A氏及び専務取締役であったC氏は、消費税どころか、税法はおろか、税制(税務)、会計についても、殆ど(専門的な)知識を持ち合わせてはいません。

 

そのことは、彼らの質問調査等に当たった原処分庁及び国税局の担当職員らが最も知り得ていた筈です。それにも拘らず、かように複雑で専門的なタックス・アヴォイダンス・スキームについて原処分庁及び審判所は、「A氏は自社が行った業務を本件各関係法人に対する外注費として仮装し、請求人の課税仕入とすることで、請求人(法人)における消費税等の税負担を軽減していた」としていますが、それはあり得ず、A氏らに税法ないし税制の知識がなかったことを巧みに利用して、事実とは真逆の認定をしたものと思われます。余程の悪知恵を有する者にしかなし得ないと考えられますが、それにしても、どのような直接証拠と論理をもってすれば、かような認定ができるのかを知りたいところです。ここにも、「はじめに結論ありき」の租税行政庁の意図が透けて見えるところです。

 

次に、裁決書の20頁のB において、本件各関係法人の代表取締役は、名目上のものであったと認定していますが、仮に名目上であったとしても、会社法423条及び429条の規定により第三者に対する責任は免れ得ないところから、特に会社法上の問題は存せず、また、そのことが法人の事業実体との関係で問題とはなり得ません。何故なら、仮に法人の代表者が名目的な自然人であったとしても、当該法人は、法人としての機能を果たすことは明らかであるからです。また、請求人は一次下請であり、その代表取締役であったA氏が仮に請求人の二次下請である本件各関係法人の設立及び解散に係る発議をし、外注額に係る協議、現場管理の一環としての業務の進捗状況、従業員の休暇等の管理に関わっていたとしても、むしろ、それは職務上当然の責任を果たしていることを意味し、重要な経営判断として、法令上、これに対して責めを負わされることはなく、無論、そのことが法人の事業実体との関係で問題となることはあり得ず、審判所による単なる論点のすり替えに過ぎません。

 

裁決書の21頁のC に記載されている内容についても、繰り返し述べているように、原処分庁及び審判所はその判断、認定を誤っています。そもそも「裏金」なる後ろ暗いイメージの用語は、原処分庁(札幌国税局)及び審判所が請求人の悪質性を誇張、強調すべく使用しているのであって、請求人としてはその用語及び使用を認めているものではありません。原処分庁(札幌国税局)及び審判所を含む租税行政庁は、請求人の悪質性への印象操作をなすべく敢えて「裏金」としており、後に「交際費」であると認定しています。しかし、交際費にしたとしても、問題があります。何故なら、当時の請求人は交際費の損金算入に係る限度額を超えていたことが確定しており、仮令、交際費とされてもその全額が、結局、否認されることになっていたからです。

 

また、「S関係法人の資金を使って(裏金を)工面するなど、本件各関係法人の経理及び資金管理は、‥‥」と裁決書に記載し、実際には、その金員はA氏個人の出捐であるにも拘らず、S関係法人の資金を使ったと虚偽の認定をし、また、そのことと他の本件各関係法人の経理及び資金管理とは全く関係がないにも拘らず、同列に論じ、C氏及びSS氏の悪質性を誇張、印象操作すべく虚偽の記載をしているのです。と言うのも、平成27年の税務調査及びその後の札幌国税局査察第3部総括主査Y氏及び主査A氏らの指導、要請により、「請求人の代表取締役A氏の認定給与と看做される虞がある」とされ、同氏は約3,500万円をS関係法人の口座に強制的に弁済させられています。

 

その件で、令和33月、札幌南税務署(原処分庁)の審理担当官M氏と打ち合わせましたが、M氏は、同署に当時の記録はなく、確認できないので、A氏が自己否認するという形をとって(臭いものに蓋をして)、S関係法人の総勘定元帳の残高を消滅させたらどうかとの提案をしました。所轄税務署の審理担当官として、自らの組織ないし租税行政庁の責任を回避しようとする発言に、信じられないような思いがしました。

 

続いて、裁決書の21頁のDに記載されている内容について述べたいと思います。ここに記載されている事柄は、自ら(税務行政庁)の判断を示すのに都合がいいように、複数存在する事象の敢えて一側面しか捉えておらず、極めて公正性、正当性を欠く認定と言えます。以前にも触れているように、請求人の二次下請業者の形態には、本件各関係法人及び本件協力業者並びに請求人直属の組織である「本隊」等が混在します。そこで、受注業務が遂行される現場が、偶々本隊のみで編成されているような場合の下請負業者編成表等には二次下請業者の記載は、当然ながら記載されず、また、本隊が大部分で本件協力業者が少数(人工(にんく)借り)とが混在する場合、ないし本隊が大部分で本件各関係法人が少数(人工借り)とが混在する場合には、例外的な扱いとして、下請負業者編成表等に二次下請業者としての本件各関係法人の記載をしない場合があるのであって、審判所ないし裁決書は、その部分だけを誇張、強調しているに過ぎません。

 

いずれにしても、本件関係法人の実体面としての工事施工なくして請求人の業務は成り立たず、本件各関係法人に事業実体があって、一次下請、二次下請の関係が成り立っていたからこそ請求人は現在もその事業を存続しているのであり、原処分庁及び審判所の誤った間接事実を総合して、「本件関係法人の事業実体がなかったとする判断(裁決)」は、事実認定の基礎となる重要な部分の多くに誤りがあり、理論的にも実務的にも受け容れることができるものではありません。(つづく)

   文責(G.K

 

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