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軽減税率導入論議の行方 その6

2015/12/21
与党の自公両党は、12月12日、生鮮食品及び加工食品(酒類と外食を除く)を消費税の軽減税率の対象品目とすることで最終合意しました。その後の14日には、定期購読契約をしている日刊新聞も軽減税率の対象品目に加えることで一致しました。自民党による今回のこの妥協は、租税理論の本質からは大きく乖離した政治的妥協の産物だと、多くの学者や知識人、そして実務家、さらには政治家にあってさえそのように捉えられています。

 

12月16日に、自公両党は「平成28年度税制改正大綱」を正式決定し、その中に平成29年4月から軽減税率を導入することが盛り込まれました。しかし、軽減税率導入に伴い穴埋めすべき財源は約1兆円と試算され、そのうち政府側から当初に示された財源は4000億円であり、残りの6000億円は未だ決定されておらず、その決定は平成28年度末まで先送りされた格好です。予算作成に当たって、かつては「埋蔵金」が話題になったことがありましたが、これは一時的な財源であり、安定的な「恒久財源」とはなり得ません。

 

マスコミ等を通じて、うわさされている財源の候補としては、たばこ税や相続税、所得税、さらには「税収の上振れ分の充当」や「社会保障充実策の削減」などが挙げられています。しかし、このような形で社会保障給付をさらに圧縮、抑制してその財源を捻出するとなると、軽減税率導入は、もはや社会保障財源を確保するための消費税増税という根拠が崩れ、逆進性を高めることになる軽減税率導入の犠牲となり、「本末転倒」の事態となって安定的な「恒久財源」どころではありません。

 

そうなると、6000億円は増税で穴埋めするしかないことになり、その最有力候補として挙げられるのが、たばこ税の増税ということになるでしょうか。たばこ税は、現在、1本当たり約12円(20本入り1箱で約240円)課税されていますが、これを1本当たり3円引き上げると、年に5000億円前後、税収が増えると試算されます。しかし、この案は自民党が、来年7月の選挙時の愛煙家や葉たばこ農家の票を失う危険性が考えられます。

 

では、相続税についてはどうでしょうか。相続税は、消費税の軽減税率導入で多くの事務負担を強制することになると思われる中小企業の事業主(納税者)に、今年1月、基礎控除額をこれまでに比して40%も縮減(増税)したばかりなのに、この上さらなる増税をお願いしますとはいい難く、仮にそれを受け入れてくださいといえば、やはり自民党は、来年の選挙時には有権者(納税者)から手痛いしっぺ返しが来ることが懸念されることになります。

 

そうすると、残された有力な財源としては所得税ということになります。所得税の場合は、所得控除を見直すことにより個人的事情を税額に反映させることができることから全ての人が増税とはならないようにすることもできます。すなわち、低所得者には減税、低所得者より多くメリットを享受する高額所得者には増税とすることで消費税の逆進性を解消することも方策の1つとしては考えられます。

 

ともあれ、財源探しの本格的な議論は、来年7月に参議院選挙が控えているだけに、大混乱に陥るような事態を選挙前は避けようとする気運が高まるものと思われます。そうなると、最も安易で、しかも現実的な方策としては、インボイス制度導入までの不足する財源分6000億円をつなぎ国債を発行して賄うという着地点が考えられることになるのでしょうか。いずれにしても、税制改正は、国家や為政者(政治家)のためのみではなく、納税者の視点を考慮し、その内容は、簡素で分かりやすい制度の確立につながるものであって欲しいものです。

文責 (G・K)

 

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