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更正をすべきと認められない旨の通知処分に対する審査請求について その2

2022/05/08

今回は、原処分庁が行った平成253月期、263月期及び273月期についての法人税の更正処分のうち、平成253月期の売上計上漏れとして4,516,552円を当年度の所得金額に加算している事実について取り上げ、検討したいと思います。原処分庁は、更正通知書において、「請求人の総勘定元帳、請求書控及び売上先が発行する支払通知書を確認したところ、請求人の当事業年度の売上高は、759,954,536円と認められるため、当該金額と請求人が当事業年度の益金の額に算入した売上高755,437,984円との差額4,516,552円は売上計上漏れとして、当事業年度の益金に算入」するとしています。

 

しかしながら、原処分庁の当該売上計上漏れの算出金額、根拠、方法が曖昧なため、それらの自平成253月期至273月期につき問い合わせたところ、上記更正通知書では、「総勘定元帳、請求書控及び売上先が発行する支払通知書を確認した」としながら、令和 2 1 17 日付答弁書では、「C氏及びI税理士が申述する計算方法によらず、本件利益調整額の算出に当たっては、総勘定元帳、売上に係る請求書控え、支払通知書等を基に売上額を算定し、当初売上計上額との差額を本件利益調整額(繰り延べ分)として算出した」と回答しました。しかも、「売上の繰り延べ」を「利益調整額」と言い換えるレトリックを用い、請求人の悪質性を殊更イメージさせ誇張をする印象操作をするものでした。

 

ところが、これについて令和 2 3 13 日付の意見書では、「請求人が発行する請求書控え、売上先が発行した支払通知書、請求人の取引先から請求人の金融機関の口座に入金された金額・・・を根拠として」請求人の各期の売上高として加算する金額を計算し、認定したと主張を変遷させました。更に、審判所を経由して質した求釈明に対する令和 2 6 30 日付回答書では、「取引先(売上先)の売上高の認定に当たって、入金額により算定したとするもの、あるいは消費税額を加算して認定したとするものもある」とその主張を変遷させ、その回答自体は二転三転しました。その上、取引先ごとの売上高の算定根拠も異なることから、請求人を含む他の者が、後に容易にその算定根拠を理解し、算出額について検証することができない回答内容でした。

 

租税がこのような曖昧な根拠で、憲法が保障する国民の財産権をいとも容易く侵害され、国家の手に移されることがあってはなりません。判例によれば、「租税とは、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてではなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付であ」り、その課税権を行使するためには、法律の根拠を必要とし、そのことを租税法律主義と言っています。その租税法律主義の具体的内容として、課税要件明確主義(課税される租税をどのような手続きで徴収するかを法律で定める際に、その定めは一義的かつ明確でなければならないとする考え方であり、「一義的」とは、それ以外に解釈することができないとするもの)や手続的保障原則(租税の賦課・徴収は公権力の行使であるから、それは適正な手続で行われなければならず、また、それに対する争訟(不服申立てや租税訴訟)は公正な手続で解決されなければならないという原則)です。

 

原処分庁が、平成253月期ないし平成273月期の3事業年度において、「売上計上漏れ」と指摘し、所得額に加算しているものの本質は、売上の「繰り延べ」、すなわち「期ズレ」に他なりませんが、その態様は一様ではありません。本件更正の請求以前にも、請求人は、原処分庁に旧関与税理士Iが悪意をもって(税金を誤魔化そうとして)期ズレをさせる会計処理をしていたのではない旨を伝えています。と言うのも、原処分庁(国税局職員)の質問にI税理士は、「売掛金の前倒しや費用と収益を同額増加させ(借方外注費、貸方売上と仕訳し、それぞれ同額計上)、利益は変えることなく、売上を増やし」ていました。「売掛金の前倒しは翌期の売上が今期に計上され、翌期はその分売上が減るので長い目で見れば同じだと思っていました」。「売上に下駄を履かせるのも利益額は変わらないため税額に影響はないので気にしていませんでした。」と応答しているからです。これは、I税理士の事実誤認による期ズレであり、原処分庁主張の悪質性を殊更イメージさせる利益調整ではなく、当然ながら、重加算税の対象となるものではありません。

 

原処分庁に対する更正の請求書において、請求人は、更正をすべき理由として、「原処分庁は、請求人に対する法人税に関する更正通知書において、平成253月期の更正の理由の売上計上漏れとして、総勘定元帳、請求書控及び売上先が発行する支払通知書を確認してその合計759,954,536円と申告額755,437,984円との差額4,516,552円が算出されたとして、この差額を売上計上漏れであると認定して、当事業年度の所得金額に加算している。

しかしながら、原処分庁の当該売上計上漏れの金額の認定及びその根拠並びにそれぞれの事業年度の所得金額への算入については、法人税法第22条第4項の一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によって行われたものではなく、平成30510日、別件の税法違反事件の第10回公判期日の法廷における検察側(国側)の証人としての国税局査察部門の査察官であったHK氏の供述に依拠した不確定、不確かな金額である。」としています。

 

HK氏は、自身が平成2810月、請求人の査察調査を担当した内容等について以下の供述をしており、そのうちの原処分庁に都合のよい部分のみを摘み上げ、これを誇張して処分理由としています。すなわち、「ここでいう除外というのは、翌期に繰り延べていたという理解でよろしいんでしょうかね。」との被告側弁護人OK氏の尋問に、HK氏は、「まあ、そうですね。翌期の申告が確定すれば、そういうことになるんじゃないでしょうか。」と答えています。

 

つまり、HK査察官は、そもそも本件更正処分の基因となった査察調査において、脱税と同視すべき典型的な売上除外を意味する「売上計上漏れ」が確認されたことを供述しているのではなく、次期への売上の繰り延べ(期ズレ)があったことを供述、証言しているのです。それは、原処分庁が悪質性を強調すべく主張する当該「売上計上漏れ」の原因は、請求人が法人税を免脱したもの、ないしはしようとしたものとは根本的に異なり、当時のI関与税理士の会計思想ないし会計哲学、若しくは税務処理に関する考え方の認識の誤りから生じたものであり、翌期への繰り延べ分、いわゆる期ズレであったことを意味しているのです。

 

この点で、そもそも請求人が、偽りその他不正の行為をなしたものではなく、I関与税理士の事実誤認による売上の繰り延べであるところ、原処分庁は事実を歪曲し、誇張し、課税する意図をもって請求人の悪意の「売上計上漏れ」と認定したものであり、その認定自体が誤りである上に、課税標準となるべき金額すらも確定しているものではなく、更正処分の対象となる「売上計上漏れ」としての正確な額すらも確認されてはいません。HK査察官が認識し、供述するように、請求人に係る平成253月期から平成283月期までの間における売上の額は、当該期間において加減算されて平準化し、しかも、いずれも翌期に係る申告を確定させ、それに伴う法人税も納付済みであることから、「売上計上漏れ」として当該年度の所得の額に加算した額は、同額を減算、還付しなければ根拠のない課税負担を国民(納税者)に押し付けることになります。

 

すなわち、同査察官の供述が示すとおり、本件のような変則的期中現金主義を採る会計処理にあっては、上記のように調査額と申告額との差額をもって「売上計上漏れ」を算出することは不可能、かつ誤りと言えます。何故なら、試算表の買掛金、未払費用等の残高が決算修整されるまでは、消滅することなく貸方に残されたままになっているからです。また、業種の特殊性から、工期の中途での一部設計変更、再変更、追加工事、それにまで至らない手直しレベルの追加等がつきものであり、その度毎に請求書等の書類が作成されることになるからです。それらの帳票類のみを根拠に、本来廃棄すべき請求書等までも含めて積み上げ計算すると、現実の売上額からはどんどん離れていくことになります。

 

HK査察官が、いみじくも供述したとおり、算出された額は前期末からの繰越額を差し引きしても、常に23千万円の開差があるのも当然です。このような、超推計的概算額が課税標準とはなり得ないのはもとより、更正処分等の課税をするための課税要件を充足するものではないこともまた明白であり、これがI税理士が採用していた変則的期中現金主義による会計方式の当然の帰結でもあります。(つづく)

文責(G.K

 

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