税務コラム
その裁決書の写しは、主文を「審査請求をいずれも棄却する」とし、令和4年11月26日土曜日の午後に審査請求人(代理人)宛に送達されました。これまでの税務コラムで述べてきた先行裁決に続いて、今回の裁決も、原処分庁の間違ったないしは偽り、違法な事実行為、法律行為のいずれも認めたことを意味するものです。仮に、本審査請求においても、原処分庁の故意による偽りの事実誤認による(行政)指導等の事実行為や法律行為等を基にした処分を審判所がそのまま認容し、それらに存在する明白な嘘や虚偽主張及び行為等が罷り通るのであれば、審判所の職権調査及び審理は有名無実、「国税不服審判所」の制度そのものが全く機能不全に陥っていることを意味します。また、そうだとすれば、本件のように意図的な虚偽認定に基づく誤った課税処分等の公権力の行使によって納税者の権利が侵害された場合における国税不服審判所の使命である“公正な第三者的立場”で「納税者の正当な権利利益の救済を図る」ことなど望むべくもなく、その設立の趣旨及び存在意義は、全く意味をなしません。
ともあれ、以下、札幌国税不服審判所から本部の審判所長名で請求人(代理人)に送達された今回の裁決について検証したいと思います。先ずは、上記先行裁決及び本裁決とも“始めに結論ありき”の判断が示されたと思われ、これが国税不服審判所の判断の限界ではないかと考えられます。と言うのも、本件法人税等及び消費税等の更正処分に先立って、被告人を納税者とする法人税法等及び消費税法等違反事件としての刑事裁判が提起され、当該訴訟に国側が勝訴している事実があります。このことから、先行裁決及び本裁決において原処分庁(国側)の主張を認容することが審判所にとっての“必要にして最低限度の条件”であり、その「使命」が始めに存在していたと思われるからです。そこに原処分庁が納税者(請求人)に対する「嘘」や故意ないし故意的誤認によって誤った(行政)指導等の事実行為及び誤った法律行為等を重ねる必然性があり、審判所は別件の有罪判決となった、その司法判断を何が何でも維持せざるを得なかった事情があったものと思われます。
そこで、審判所はその「使命」を果たすべく、一方的、恣意的に、原処分庁による虚偽主張や法令無視の主張を容認するばかりか、これを擁護、裏打ちし更なる補強をし、裁決をするに都合のよい事実のみをピックアップし、請求人主張の審判所を含む租税行政庁にとって不都合な真実は悉く捨象し、自らの認定事実としています。因みに、刑事裁判における公訴事実は一連の先行審査請求において争われた事実とニアリーイコール(ほぼ同一)であり、また、当該先行審査請求に係る裁決書には、請求人の指摘によって約5,400万円の故意的と思われる単純な誤りがあることを審判所が認め、原処分庁は当該額を請求人に還付しています。と言うことは、曩の刑事裁判における公訴事実には誤りないし偽りが存在し、判決は当該公訴事実を前提としていることから、その司法判断は不当であることが明らかです。その他にも、これまでの税務コラム「更正をすべきと認められない旨の通知処分に対する審査請求について」で縷々述べているとおり、原処分庁の主張、処分には明らかな偽りや誤りがあるにも拘らず、審判所は、以下に見ていくように原処分庁を擁護して、最終的には、一審判決の司法判断を維持するべくその「使命」を果たしています。
刑事裁判においては、一審で有罪となったものの、納税者(請求人)は、決して、当該一審判決を無限定、無批判に納得して受け容れてはいません。それは、当該刑事裁判においても同様でしたが、裁判(控訴審)で争うための原始徴憑類、帳簿等の証拠書類等が原処分庁及び検察庁に悉く押収されていて、被告人としての納税者側には圧倒的に不足しており、当該裁判で勝訴する見込みが薄いと思われたこと。第2に、年度を超えて租税行政庁(国)と争っていることでの請求人の法人としての対外的な業務に多大の悪影響が及ぶ懸念があったこと、また、法人内部にも人的に少なからぬ動揺があったこと等の事情があったことから、納税者は控訴を断念しています。
ともあれ、裁決書に沿って、審判所が認定した事実のうち特記すべきと思われる事項について述べたいと思います。原処分庁は、平成29年10月6日付で、平成25年3月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分を行い、また、平成29年11月22日付で法人税、復興特別法人税及び消費税等の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をしました。これに対し請求人は、上記法人税の青色申告の承認の取消処分に不服があるとして平成29年11月24日に、また、上記法人税、復興特別法人税及び消費税等の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分の各処分に不服があるとして平成30年1月18日に再調査の請求をしました。
請求人のこれらの再調査の請求に係る主張、指摘を受けて、原処分庁は上記法人税の青色申告の承認の取消処分、法人税、復興特別法人税及び消費税等の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を、令和元年10月7日付で上記の各処分にはいずれもその通知書の記載が不十分であったとして、いずれも一旦取り消すとともに、改めて、同日付で平成25年3月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下、「本件青色取消処分という。)、それ以外の上記法人税等の各更正処分(以下、「本件法人税等各更正処分」という。)をしました。これらの処分のうち、青色申告の承認の取消に関しては、その理由付記が法の求める基準を満たさず、理由付記に瑕疵がある場合には、その処分は取消しの対象となり、その後の不服申立て以降の段階で理由を追完しても当該瑕疵が遡って治癒されることがないことについては、学説、判例ともに異論はないところです(最判昭和47年3月31日、最判昭和47年12月5日参照)。何故なら、仮に、これが無制限に認められると、いわゆる“後出しじゃんけん”になり、納税者の権利擁護の観点から禍根を残すことになるからです。
とりわけ、本件青色取消処分及び本件法人税等各更正処分においては、請求人が再調査の請求に際して、その違法性を指摘して始めて原処分庁は当該違法性を認識して、一旦、処分を取り消した上で再度、通知書の記載を追完して処分を行っており、しかも、その間、1年9カ月を費やしており、行政の不作為責任が問われる事態となっていたことからも、本件青色取消処分の違法性は際立っており、また、その他の上記法人税等各更正処分についても、同様に禁じ手であると考えられます。加えて、本裁決書における認定事実には、これらを含めた租税行政庁にとって不利な事実の記載は全くなく、本裁決書を読む限り、ごく一般的な審査請求事案における審判所の認定事実を思わせるもので、原処分庁を間接的に擁護する記載となっています。
本裁決書のこの後のなお書きとして、「本件法人税各更正処分のうち平成27年3月期の更正処分に係る通知書の更正の理由には、①請求人の総勘定元帳を確認したところ、請求人の売上高と認められる金額と、請求人が益金の額に算入した売上高との間に差額が認められることから、当該差額を売上計上漏れとして所得の金額の計算上、益金の額に算入する(以下、「本件売上認定額」という。)、②請求人の関係法人であるHS社は法人としての事業の実体を有していないと認められるところ、同社の総勘定元帳に計上されている平成26年4月分から平成27年3月分までの給与手当の金額と給与明細書一覧表の支払額に差額が認められるが、当該差額はA氏及びその妻であるC氏の申述により、請求人の受注工作資金を捻出するために、支給事実のない架空の賃金を計上したものと認められるから、給与手当の過大計上額として、請求人の法人税の所得の計算上、損金の額に算入されない(以下、「本件過大計上額」という。)」
「③本件過大計上額は、C氏がA氏から元請先に用立てる資金を捻出するよう金額の指定を含めて指示を受け、当該金員をA氏に手渡した旨申述しており、A氏もC氏から当該金員を手渡しで受け取った後、取引先へ渡していた旨申述している事実から、受注工作費として元請先に支出した金額であると認められるため、接待交際費の計上漏れとして本件過大計上額相当額を損金の額に算入する、そして、④上記③の接待交際費の計上漏れとした金額を基に損金不算入額を再計算した結果、新たに損金不算入額が算定されたため、法人税の所得の金額に加算するなどの記載があった。」との記載があります。しかし、裁決書の上記認定事実の記載にも恣意的な悪意を有する虚偽記載及び誤導が認められ、国税不服審判所の「公正な第三者的立場」で裁決を行うとする国民向けのアナウンスには甚だ疑問があります。(つづく)
文責(G.K)