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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その3)

2023/01/04

一般に、任意の税務調査は税務署が担当し、調査対象の規模が大きく、また強制調査(査察調査)を伴うものであれば国税局が行うものとされています。国税局の強制調査により、逋脱(脱税)の事実があると認定されれば、検察庁に対しての逋脱容疑の告発の手続がとられ、その告発を受けて、検察官に逋脱事件の捜査が引き継がれ、刑事手続が開始されることになります。その際、逋脱の嫌疑がある者は、逮捕されるケースがありますが、その場合の被疑者は、逮捕・勾留期間中に自白しているケースが殆どのようです。それと言うのも、租税逋脱事件の捜査は、事前の税務調査(査察調査を含む)、が相当程度綿密に行われた上に、検察の捜査も加わっており、当局によって既に証拠固めされているからです。

 

したがって、仮令、否認事件であったとしても、弁護側の保釈請求を認めてもその実害は殆どなく、本件のように、5度にも及ぶ保釈請求に伴う裁判所の求意見に対して、その度ごとの検察側のステレオタイプの「逃亡の虞」、「罪証隠滅の虞」を理由とする反対意見は、嫌がらせにも似て、「人質司法」の謗りを免れないものと言えます。本件通知処分の基ともなり、これに先立つ本件租税法違反被告事件においては、逋脱嫌疑(容疑)で告発がなされた段階でも、事程左様に税務署や国税局による調査が既に終了しており、それに伴って大量の証拠資料等が押収されていました。それらの中に、直接証拠を示す物件がなかったと思われ、本件租税法違反被告事件においては、検察官の判断によって被疑者A氏及びその妻である被疑者C氏が逮捕され、しかも1年を超えて勾留されました。

 

このことから、本件租税法違反被告事件では証拠隠滅や逃亡の可能性が高いと検察や裁判所が考えていたものと思われますが、実際には、本件では、告発がなされた段階では税務署や国税局による調査が既に概ね終了しており、それに伴って原始徴憑類、帳簿等の証拠書類等は原処分庁及び検察庁に悉く押収されていたことからも、証拠隠滅や逃亡の可能性は限りなくゼロに近いものでした。むしろ、本件のような否認事件においては、勾留中の被疑者に対する自白の期待外れないしは被疑事実を認めないことへの懲罰的な目的があるようにさえ思われるところです。また、本件租税法違反被告事件においては、勾留されたまま公判請求がなされ、正式裁判に移行しています。

 

本件事件を含む租税逋脱事件として告発をされると、テレビドラマ等に見られるように、被疑者(納税者)は、ほぼ例外なく起訴され、その結果も、有罪判決を受けることが殆ど(ドラマ上では99.9%)であるため、自身の十分な防御活動を行うためには、課税当局による検察庁への告発前から、対策を講ずる必要があるように思われます。そして、そのような場合、任意調査の段階であれば修正申告の勧奨への速やかな対応によって、事件の無用な拡大を防止するような行動をすることが重要であると考えられます。また、専門の国税査察官や検察官による取調べを受けてそれに答えているうちに、逋脱の認識(故意)を認めたかのような内容の供述調書に仕立て上げられてしまうケースも数多く聞かれています。

 

事実、後に詳述するとおり、A氏及びC氏も1年を超えた勾留期間中に逋脱の故意性について、本人らはそれを認めていないにも拘らず、認めたかのような内容の調書が巻かれて(作成されて)います。加えて、本件租税法違反被告事件は、査察調査の段階から「特異な経過」を辿っていると思われるところから、代理人の視点はもとより租税法学者としての視点からも気付くことを可能な限り平易に述べてみたいと思います。本件のような租税逋脱事件については、時偶、新聞紙上で目にすることがありますが、その場合、大抵、「課税当局の見解と我が社との見解に相違が見られましたが、当局の指摘に従って修正申告し、既に納税も済ませています。」とのコメントが掲載されるもので、この種の事件で逮捕・勾留されるケースは殆どありません。

 

他方で、本件租税法違反被疑事件においては、本コラム(その2)で述べたように、当局の指摘に従って約11千万円の国税本税の予納をしており、況して会社(納税者)の代表取締役A氏と専務C氏が逮捕、拘留され、両名とも被疑事実を否認したまま1年以上も経過しているケースは、皆無ではないかと思われます。また、札幌国税局の査察調査による租税逋脱の嫌疑での告発を受けた、本件租税法違反被告事件の公訴事実は、「人件費を外注費に仮装し、もって不正の行為により消費税を免れた」及び「売上の一部を除外するとともに、架空の外注費を計上するなどし、もって不正の行為により法人税を免れた」とするものです。しかし、札幌国税局が検察庁に告発した租税逋脱「不正の行為により税(金)を免れた」とする犯則事実(嫌疑)が真実に存在したのかは極めて疑わしいと思われます。

 

第1に、税金を免れたと言うのであれば、その分の現金ないし有価証券を含む現金等価物が存在していなければなりません。しかしながら、札幌国税局の査察調査の一環として納税者の自宅を含む関係個所を2度にわたって入念に捜索していますが、それら(タマリ)は何れの場所からも発見されていません。第2に、被疑者らの自白がありません。第3に、逋脱に結び付く直接証拠の提示が一切ありません。本件租税法違反被告事件において、租税逋脱が争われるのであれば、現金等価物等の存在及び逋脱額の確定等の直接証拠が示されなければなりませんが、検察側は間接証拠を示すのみで、直接証拠の提示については、立証面の困難性から断念したものと思われます。これに加え、後に詳述するとおり、原処分庁が検察庁に告発した「売上の一部除外」額ないし「架空の外注費計上」額は、原処分庁によって作出、捏造されたものであることから、これらを認定した一審判決は誤りであり、その意味においては冤罪の可能性があると考えられるところです。

 

「売上の一部除外」及び「架空の外注費を計上」について、会計では売上を把握するために取引を勘定科目を使って借方と貸方に仕訳して記帳し、決算書に反映させますが、このとき借方と貸方の額は常に同額でなければなりません。ところが、原処分庁が「売上計上漏れ」ないし「売上の一部除外」として検察庁に告発している額は、納税者の申告額と調査額との差額であるとしています。また、「外注費の過大計上」及び「外注費の二重計上」として告発している額について、原処分庁は、取引を否認して当該取引がなかったとしていることから、借方(外注費)の額のみを減額し、貸方(売上ないし売掛金)はそのままにすれば、貸借は同額にはならず、論理必然的に借方と貸方には差額が生じ、それが増大することになります。すなわち、上記の「売上の一部除外」ないし「売上計上漏れ」額及び「外注費の過大計上」及び「外注費の二重計上」額は、実際には存在せず、原処分庁の悪意によって作出された虚構、虚偽事実と言えるのです。

 

他の視点からしても、法人(会社)を代表する立場の人物(社長、専務)にそのような逋脱を画策する暇があるのでしょうか、そんなことをする位なら、本来の業務に専念するのが一般的な経営者の姿であると考えられます。現に、その類の相談(如何にすれば税制上有利か、節税が図れるか等)は、その企業、団体の顧問弁護士なり関与税理士が専門的に担当していることが一般的です。かつて、「森友学園」からの献金問題をマスコミから質問された当時の総理夫人も、「現金の支出入に関しては、全て税理士に任せており私は把握していません」とする趣旨の回答をしています。

 

また、法的視点からも原処分庁の行為は問題があると考えられます。本件租税法違反被告事件において被告人とされたA氏とC氏は、夫婦二人三脚で事業を開始し、寝る間も惜しんで働き、今日の法人規模にしたもので、その間一貫して、関与税理士に法人の会計、財務、税務申告等の業務を全面的に委任し、当該税理士がそれらの業務を行っていました。ところが、平成2710月に札幌南税務署の税務調査が行われ、その後、札幌国税局調査査察部(通称マルサ)の査察調査に引き継がれた後、租税逋脱嫌疑で検察庁に告発され、同時に行政処分としての青色申告の承認が取り消されています。青色申告に関して札幌南税務署は、「初めてのことでもあり、署長宛に申述書(誓約書)を提出して下さい、そうすれば今回は指導に止め、青色申告の承認の取消は行いません。」と確約して納税(義務)者から関係書類等を提出させ、僅か2カ月足らずで、その行政指導ないし確約を反故にしています。

 

原処分庁は、「税務調査時の調査官の発言は、署長その他責任ある者の見解ではなく、仮に前回調査担当職員が請求人(納税者)の主張どおりの応答をしたとしても、原処分庁が信頼の対象となる公的見解を表示したことには当たらない。」とし、平然と租税行政庁の責任を回避しています。剰え、国税通則法74条の2ないし74条の6までに規定を置く税務調査時の担当職員の質問検査権を自己否定するばかりか、民法1条2項の禁反言の原則(信義則)を無視する重大な法令違反を犯しています。

 

検察庁はと言えば、当該告発を受けて平成29年2月に逮捕、3月に起訴しましたが、その後猶も身柄拘束は続き、結局、勾留が1年以上も続いたのは曩にも述べたとおりです。その間の(副)検事による取調べでは、「あなた方はお客から預かった消費税を横領しているんだよ、国に納めないでだよ。これ横領罪だよ!」と言って被疑者に消費税を故意に免れていたことを認めさせるべく、脅迫まがいの取調べが行われたりしています。このような被疑者(納税者)に対する取調べの状況は、予め弁護人を通じて渡されている「被疑者ノート」により、担当検事から取調べを受けた内容及びそれに対してどのように応答したかを克明に知ることができます。どうやら、当該担当(副)検事は、消費税法を知らずして被疑者の取調べを行っていた疑いが濃厚です。

 

何故なら、消費税の納税義務者は事業者であって、消費者ではなく横領罪が成立する余地はありません。消費者は事業者に消費税を預ける関係にはなく、事業者は消費者から消費税を預かる関係にはありません。消費者が消費税分を払ってくれようが、くれまいが事業者は法律に従って売上に応じた消費税を国に納付しなければならないからです。このような情況から、勾留期間中に逋脱の故意性につき被疑者らが認めていないにも拘らず、認めたかのような内容の調書が巻かれていたことに危機感を抱いた代理人は、平成29年2月9日付で札幌地方検察庁の担当検事NM氏宛に、平成30年2月26日付で札幌地方裁判所刑事第1部合議係宛に「意見書」を提出しています。若干、長いのですが、次回以降に順次掲載することにしたいと思います。(つづく)

                                  文責(G.K)

 

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