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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その7)

2023/03/01

(前回の続き)

そうだとすれば、消費税法30条7項(以下、「法30条7項」という。)の解釈、適用に当たっては、徒に拡張すべきではなく、飽くまでも立法趣旨に沿って、仕入税額控除制度の理念に即して行わなければならない。況や、消費税法には「行為計算の否認規定」がないにも拘らず、法人格を全く異にする二次下請法人(税務当局は関係法人と呼称している)への外注費を否認し、当該外注費を発注元の法人の給与として引き直して計算することは、同条同項の射程を遥かに超えて、これを誤って解釈、適用するものであり、立法趣旨及び制度理念からも明らかに逸脱するものといわねばならない。本件事件において、検察官は、被告法人とその下請法人(関係法人)との実質的一体性を根拠として、被告法人が下請法人に対して支払った「外注費」=「人件費」であるという理解のもとに、「外注費」として支出した金額は一切課税仕入れには当たらないと主張している。

 

ところが、「外注費」の中には、人件費以外の課税仕入れに相当する支出、例えば、二次下請としての関係法人の利益、地代家賃、福利厚生費、旅費交通費、車両費、現場経費、三次下請以下の代金等への外注費その他の経費や雑費等の営業経費等の多くの課税仕入れに該当する支出が含まれている。したがって、仮に、実質的一体性を根拠とする「引き直して計算=付け替え計算」を是とする立場に立ったとしても、「実態的」には、これら課税仕入れに相当する支出を控除しなければ正しい税額(検察側の視点からは逋脱額)は算出できない。この点について、検察官は、消費税法において実質主義的な論理解釈(拡張解釈)をしていながら、法30条7項についてのみ文理解釈によって、厳格に「帳簿及び請求書等の保存」がないから、「外注費」のすべては課税仕入れに該当しないと主張する。

 

しかし、租税実体法である消費税法の違反に該当しない範囲についてまで、同条項の形式適用を根拠として処罰の対象とすることは、刑罰法規適用の謙抑性の見地から見ても聊か不合理に過ぎるように思われるところである。しかも、本件事件においては税務当局や検察官が下請法人(関係法人)の帳簿や請求書を精査したうえで被告法人への「付け替え計算」をしているのであり、法30条7項の「消費税を円滑かつ適正に転嫁する」という制度趣旨は、事業者による算定を経ずとも公的判断として充足し、実質的に顕現化しているといえる(但し、税額計算における正確性は別である)。

 

また、被告法人と下請け法人は別法人であるから、そのことを前提に、それぞれの法人において経理処理を行い会計帳簿が作成されていたのであるから、そもそも被告法人が自らに宛てた帳簿や請求書など存在する筈もなく、これらの保存を求めることは、不可能を強いるものであるのと同時に二重帳簿の作成をも強要するものであり、著しく合理性を欠くものである。かような不可能を回避するには、法30条7項を解釈するに当たって、下請法人の帳簿や請求書をもって同項にいう事業者の「帳簿及び請求書等」と読むほかないが、下請法人においては、かかる「帳簿及び請求書等」は、適切に保存されていたのである。

 

以上のとおり、①行為計算の否認規定のない消費税法の適用にあたって「付け替え計算」することはできない。②仮に「付け替え計算」をするとしても、「実態」にしたがって、「外注費」のうち課税仕入れに当たるものとそうでないものとを区分して逋脱額を計算すべきである(そうしない検察官の立論は刑法の謙抑性の原則、罪刑法定主義に反する)。③事業者による算定を経ずとも適正な課税仕入れの税額が公的に顕現化している(税額計算の正確性を別として)。④法30条7項を形式的に適用して「被告法人(事業者)の」帳簿及び請求書等の保存を求めることは不可能と不合理を強いることになる。⑤この不可能、不合理を回避するためには、「下請法人の」帳簿及び請求書等をもって同項にいう「帳簿及び請求書等」と読むほかないが、下請法人においてはこれらが適式に「保存」されている。

 

4.消費税の納税義務の免除と新設法人

(1)小規模事業者に係る納税義務の免除規定

平成23年6月の消費税法改正前の同法9条1項は、「事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。…(以下略)」となっており、新設法人については基準期間が存在しないため、設立1期目及び2期目は原則として免税事業者とされていた。なお、基準期間とは、同法2条1項14号の規定により、原則として、個人事業者であれば2年前、法人はその事業年度の前々事業年度である。すなわち、改正前の課税事業者となるか否かの判断は、基準期間である2年前の課税売上高が1,000 万円を超えたか否かという基準のみであった。

 

 5.基準期間(免税期間)内における法人の開廃業

(1)基準期間の必要性

消費税法における「基準期間」の必要性については、消費税が転嫁を予定している税であることから、過去の一定の期間における課税売上高によって納税義務の有無を判定し、事業者自身が予めその課税期間の開始前に課税事業者か否かを判定、認識する必要があることによる。すなわち、わが国は申告納税制度を採用しており、確定申告をする際に当年の売上高による判定であれば、年末まで納税義務の判定ができず、前年の売上高による判定であれば、確定申告により売上金額が確定するまで納税義務の存否が不明確であり、売上高に消費税率を乗じて取引の相手方に請求すべきか否かも明らかではない。

 

したがって、必然的に、基準期間による判定が年初までに金額も含めて確定している前々年(前々事業年度)の売上高で判定することになる。これはわが国の消費税の制度設計上の問題(限界)であり、このような制度を採用した結果、例えば、1期目の課税売上高が3,500万円、2期目の課税売上高が4,500万円であったような場合でも、免税事業者に該当する。つまり、1期目、2期目にどれだけの課税売上高があったとしても消費税を納付する必要はなく、課税事業者となるのは3期目からということになる。また、旧法では、新設法人が開業2期目の終了時点、すなわち免税期間の終期に廃業し、新たに新設法人を開業し、4期目の終了時点で廃業、以後これらの開廃業を繰り返したような場合であったとしても、法律上は、当該法人等は免税事業者となり、消費税を納付する義務はない(法規範としての限界、訴訟条件の缺欠)。そのことは、以下の改正法を施行することになったことからも理解できよう。

 

(2)特定期間の創設

改正法では、前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例として、平成25年1月1日以後に開始する年又は事業年度から適用するとして、消費税法9条の2で、「個人事業者のその年又は法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が千万円以下である場合において、当該個人事業者又は法人…(略)のうち、当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が千万円を超えるときは、当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、同条第1項本文の規定は、適用しない。」とした。これにより消費税法の網の目はかなり縮小化されたものの、依然として合法的な制度上の瑕疵は存在したままであり、仮にこの部分についての抜本的な解決を目指すのであれば、命令禁止規範としての立法的措置によるしかないところである。なお、ここでの特定期間とは、個人事業者の場合は、その年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいい、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間を指す。

 

第2章 租税法と租税刑法の交錯とその問題点

1.財産権の保障と租税法律主義

財産権の保障は、近代市民社会において最も強く要請されている憲法的価値のひとつである。その国民の私有財産権に対する侵害規範としての性質をもつ租税法は、国民の総意の代表である国会が定めた法律によってのみ負担するとする考え方が、いわゆる租税法律主義であり、その意味で、租税法律主義は近代法治主義における租税法分野での表現といえる。しかし、一面において各種の租税法規範は、国家や地方公共団体が、財政収入確保を含む公共の利益という行政目的達成のために、一般司法的規範とは異なった命令、禁止を行うことによって法体系を形成する。その意味では、租税刑法は当該租税法規範の指導理念を基本的原理となすものであるから、行政刑法でもあるともいえ、租税刑法と租税法との関係は、一般法と特別法との関係ということができ、租税法が第一義的に適用され、租税刑法は第二義的にその補完的作用をなすことになるとも解釈できよう。

 

2.行政犯と刑事犯の本質的相違

行政法学の学問領域では、伝統的に「行政犯」と「刑事犯」とを分けて捉え、前者を「法定犯」、後者を「自然犯」とし、そして、それらに対して加えられる強制力をそれぞれ「行政罰」、「刑事罰」と呼び、区別する考え方が取られてきた。行政刑法概念をわが国で初めて著した美濃部達吉氏によれば、行政刑法の領域を「一面において行政法の範囲に属し、一面的においては刑法の範囲にも属」すると説明し、行政刑法は2種類の法的性格を併せ持つとしている。これは人間の社会的共同生活関係における類型性の分類、すなわち一般的生活関係と特殊的生活関係とに分けることで説明できる。このうち、一般的生活関係の命令禁止規範に対する一般刑罰法が一般刑法であり、特殊的生活関係の命令禁止規範に対する特殊刑罰法が特別刑法と呼ばれることになる。(つづく)

文責G.K

 

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