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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その8)

2023/03/13

(前回の続き)

このように見ていくと、社会的共同生活における一般の生活関係からその類型性の特殊なことに着目してピックアップした租税関係を規律する第一次的な法規範が、特別法としての租税法、一般的生活関係の命令禁止規範に対する一般刑罰法が一般法としての租税刑法ということになる。行政犯と刑事犯との区別については、刑事犯は故意を犯罪の成立要素とするが、行政犯については故意と過失とを問わず、命令違反の事実を罰するのであって故意を要しないとし、「形式上は等しく犯罪として、刑罰の制裁が科されているとしても、その犯罪たる所以が一に行政法上の命令又は禁止に違反したことにある場合は、その行為の性質において、明かに一般の犯罪行為と区別されなければなら」ないとされる。また、美濃部氏は、行政犯と刑事犯の「本質」の違いに着目してこれを強調し、形式上犯罪とされる行為も「刑事犯に該当するもの」と「実質上の行政犯に該当するもの」とを区別している。これは、一般的な犯罪行為と特別刑法違反の犯罪行為には、違法性や責任においても質が大きく異なる可能性があることを示している。すなわち、行政刑法(租税刑法)であっても、刑法に刑名のある刑罰が規定されている以上は、その法解釈は厳格にしなければならないが、他方で、犯罪構成要件の大部分は、行政法規(租税法)上に規定されているために、その解釈は必然的に、当該行政法規の概念や解釈そして法目的に依存し、一定の拘束を受けることを明らかにしたものである。

 

3.租税逋脱犯(罪)の構成要件

租税逋脱犯は、「偽りその他不正の行為により租税を免れ」ることを構成要件としているが、その文言の解釈については、これまで判例及び学説を通じて議論がなされてきているところである。通説的な解釈としては、「偽りその他不正の行為」は実行行為を、「租税を免れること」は結果を意味し、2つの文言が「により」で接続されているところから、実行行為と結果との間には因果関係があるものとしている。その上で、租税逋脱罪が成立するためには、これに加えて行為者の構成要件に該当する事実の認識(故意)が必要であり、逋脱罪は租税逋脱の意思を要する故意犯として以下のように整理されている。

① 偽りその他不正の行為の認識(偽りその他不正の行為という実行行為がある。)

② 納税義務の存在の認識(租税を免れたという結果が発生している。)

③ 逋脱の結果についての認識(実行行為と逋脱結果との間に因果関係がある。)

④ (上記すべてについての認識(故意)がある。)

 

「偽りその他不正の行為」については、「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいうものと解するのを相当」とする(最大判昭和4211日)とし、「偽りその他不正の行為」とは、具体的には「帳簿書類への虚偽記入、二重帳簿の作成その他社会通念上不正と認められる行為」を意味するとされている(昭和53年3月27日国税不服審判所裁決)。また、逋脱罪の客体は、「偽りその他不正の行為により免れた租税」であり、その逋脱税額の根拠は所得金額である。既述のように、逋脱犯は故意犯であるから、逋脱罪が成立するには納税義務の内容である所得の存在についての認識が必要であり、所得の存在についての認識がない場合には逋脱罪は成立しない。

 

4.概括的故意(指示)

逋脱罪の成立につき、その項目、科目、数額等についての個別的な所得の存在の認識がない場合、認識がある部分についてのみ逋脱罪が成立するとする個別的認識説、所得の一部について認識があれば所得全体について逋脱罪が成立するとする概括的認識説の両説が見られる。下級審の判断では、凡その所得についての概括的な認識があれば足りるとする、概括的認識説を採るものも見られるが、学説、下級審の判断ともに個別的、概括的両認識説を採用するものが相半ばし、この点についての上級審の判断は未だ示されていない。いずれにしても、曩にも述べたように、一般法は特別法の指導理念の支配を受けることになるから、租税刑法も租税法の指導理念によって支配されることになる。そこで、租税逋脱犯ないし租税逋脱罪においても一般刑法理論上の「概括的故意」が適用できるかであるが、結論を先に述べれば、限りなく「否」に近い。通常、概括的認識説ないし故意を適用する場合は、結果の発生は確定的ではあっても、その項目、科目、数額等、具体的な客体が不確定である場合に考慮の対象となろう。これを租税逋脱罪において考慮する場合、結果としての「税を免れて」いることの認識はあるが、逋脱税額の数額等に関しては不確定であるというような場合にこれは当てはまる。

 

しかし、これまでにも述べてきているように、租税刑法における制裁法規の適用は、これに先行する第一次的規範としての租税実体法の指導理念を基本的原理となすものであるから、そこに規定が置かれ、概括的認識説を採ることについての適法性、合理性が認められている場合に限って適用できると考えられる。何故なら、以下に述べるように、租税刑法における概括的認識説と一般刑法理論上の概括的故意とはその概念を異にするものであるからである。概括的認識説は租税刑法特有の概念であって、刑法において一般に論じられる概括的故意の概念とは相違する。概括的故意が逋脱罪にも適用できると主張する研究者を含めた論者は、逋脱税額の正確性、いわばその具体的金額についてまでは認識を要しないとするであろうが、それは逋脱行為者における多数の年間取引によって生ずる収益や損金のすべてについて正確に把握していることが、実際上、不可能であるとの理由も大きいと考えられる。

 

しかしながら、税務調査実務上は、取引ごとにその認識を持っていたか否かの個別的判断がなされ、納税者による確認のもとに「仮装、隠蔽」が認定される。これと同様に、逋脱税額においても、逋脱行為をした者は個々の取引に関する認識は十分に把握していると思われ、敢えて租税刑法に一般刑法理論上の概括的故意の概念を持ち込む余地はないように考えられるところである。関与税理士に逋脱行為の概括的指示をしたとの嫌疑をかけられた者に、自らの納税申告を含めた一連の税務に関する業務を委任していたことを強調して、これを一般刑法理論上の概括的故意があったとして制裁の対象とすることは、上記に述べた理由により、否定的に考えられることから、逋脱犯としての被疑者に一般刑法理論上の概念である概括的故意を適用し、その認識すらもないところに故意があったとすることは、不合理、不公平を招来する。

 

おわりに

法規範は、人の自由を制限して正当な利益を保護すると同時に、不正、不当な国家権力の行使を防止することを目的とするものである。本件事件において代理人は、嫌疑者の告発の段階から法人および個人の弁護人らと共同歩調をとって関わってきたが、租税法を研究してきた者として少なからず疑問に思うところがある。すなわち、第二次的な制裁規範としての租税刑法は、ここまでに述べてきたように、これに先行する第一次的な制裁規範としての租税法の指導理念に支配されることから、本件事件のような行政犯においては、命令禁止規範としての租税法における規定の理解を不可欠とする。然るに、消費税法64条1項は「偽りその他不正の行為により、消費税を免れた者は…(中略)十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。…(以下略)」とのみ規定する。そうすると、「偽りその他不正の行為」に該当しなければ、その行為や計算を否認することはできず、仮に否認した場合でも、本件事件で課税庁や検察が行ったように、工事施工法人である下請法人(関係法人)への外注費を当該工事発注法人である被告法人の行為計算として引き直すことはできない。検察官は、消費税法30条7項の存在を根拠に、工事発注法人が工事施工法人に支払った外注費を否認し、工事発注法人に「帳簿及び請求書等の保存」がないから、発注法人が支払った「外注費」のすべては課税仕入れに該当しないと主張しているが、上に見たとおり、それは明らかな誤りである。

 

法人税についていえば、「架空の外注費を計上するなどの方法により」とするが、本コラムその3で述べているように、売上の一部除外、売上計上漏れ、外注費の過大計上及び外注費の二重計上額は実際には存在せず、税務行政庁が悪性を強調、作出した虚構であり、検察官はその内容・金額を吟味することなくこれを鵜吞みにし、また、真相を見ずして現象面のみを捉えて判断するのは、公権力の誤った行使の最たるものと言えよう。取引を否認するに当たって税務行政庁が、借方を減算し、貸方は加算、その差額を「売上計上漏れ」としているにも拘わらず、これを見落としていること。また、わが国の経済社会における大企業と中小企業の構成比は、大企業が僅か0.3%、残りの大半は中小零細企業であり、このヒエラルヒーの中にあっても大企業の存在意義は絶対的であり、仮令無理な申し出等を受けたとしても、これと取引する者(中小零細企業)はその意向を無視して取引は成立せず、とりわけ建設業関連はそれが顕著であること。税務行政庁及び検察官が、いわゆる「裏金」だとする元請企業の現場担当者からの協力金(一時貸付金)の出捐要請も、元請企業の一次下請企業への死命を制するものであり、これを無視して取引は成立しない。この要請に困惑して、然程、会計、税務処理の知識のない被告人らは私的な金員を出捐し、その処理を自らの関与税理士に相談し、当該関与税理士の判断と処理によって申告がなされたものであり、その処理に非違が存在したとすれば、税務の専門家としての当該税理士の判断ミスが招いた結果であることも見逃してはならない。

 

このような事態(納税者が白紙委任の状態で税理士に税務処理の業務を委任する)をも想定して税理士法は制定され、他の士業にも稀な、52条の「無償独占」の規定が置かれている一つの理由と考えられる。これらの点が考慮され、訴状記載の公訴事実が命令禁止規範としての租税関連法規の理解及び指導理念と租税刑法との関係を検討し、公訴提起なされたものか聊か疑問に思うところである。裁判所におかれては、複雑に入り組む租税法律関係を体系的にご検討、解釈され、公正な判断を示されることを心からお願い申し上げ、それにより租税正義が実現していくことに期待するものである。(札幌地裁への意見書おわり)          

文責G.K

 

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