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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その9)

2023/04/01

そもそも、筆者が本税務コラム(その4~8)に掲載している意見書を札幌地検及び札幌地裁に提出したのは、既に述べているとおり、別件の租税法違反被告事件の公訴事実とされている札幌国税局の告発内容をなす査察調査が、その着手段階から「異常な経過」を辿っていた上に、その調査結果(認定内容)には多数の真実に存在していない事実及び多額の税額計算の誤り等が含まれていたからです。それにも拘らず、札幌地検はそのまま引き継ぎ逋脱事件として公訴提起しており、その手続面ないし租税刑法の解釈・適用面における誤りが何ら糺されることはなく、租税法学者たる実務家としての代理人は重大な懸念を抱いたからです。すなわち、行政刑法(租税刑法)であっても、犯罪構成要件の大部分は、行政法規(租税法)上に規定が置かれているために、その解釈は、必然的に当該行政法規の概念や解釈そして法目的に依存し、一定の制約を受けると考えられるからです。

 

然るに、札幌国税局の査察調査は、当初から租税法はもとより他の法令等をも無視した強引、かつ杜撰極まるものであり、それに基づいて告発を受けた札幌地検は何らの疑義を差し挟むことなく、また、違法性に気付くこともなく、加えて、弁護団を含めた他の法曹関係者においても誰一人としてそれらの問題点を指摘する者もなく、当該告発後の手続きが進行していたのです。飽くまでも憶測の域を出るものではありませんが、「始めに結論ありき」の下、これほどの行政(国税当局)、司法(検察庁・裁判所)を巻き込む大掛かりな、いわゆる「国策捜査」が行なわれた背景には別件の政治マターによる事案(捜査)絡みであったことが強く疑われるところです。札幌国税局が、幾重の重大な虚偽を内包した告発を行い、それをそのまま受け容れた札幌地検は、対象法人の代表取締役(A氏)と同専務取締役の(C氏)を逮捕、身柄を勾留したままで起訴し、そのまま1年以上の歳月を徒過させ、その間、札幌地裁は弁護側からの保釈請求を5度にわたって却下しているのです。

 

それらに加えて量刑についても、その「異常な経過」を前提としているのはもとより、その他の数多くの法令等や納税者の権利を無視した行為、判断(認定)についても然り、それらの内容及び経過等の詳細については、これまでの税務コラム「税法違反被告事件の裁判を傍聴して」No.3(2018/02/21)から「いわゆる理由なし通知処分に係る裁決の検証」(その9)(2023/04/01)までにおいて繰り返し述べているとおりです。将に、租税法学者たる実務家の視点からは、「ここまでして行政府や司法府の役人等は『自らの立場とその組織』を守ることに固執するのか、守るべきは『国民』ではないか」と唖然とするばかり、信じられないような事態や光景を初めて目の当たりにする経験でした。

 

代理人が本件に係る調査対象法人の取引金融機関の支店長からの依頼を受けて当該法人の顧問税理士(税務代理人)を受任した時点では、札幌南税務署による税務調査を引き継いだ札幌国税局の査察調査は既に終了しており、その結果は、逋脱(脱税)事件として札幌地検に告発される直前の時期に当たっていました。その時点では、代理人の手許には当該事案の内容を示す資料もなければ情報もない中での代理人受任であったため、原処分庁に本事案の実態、実情を質問しても明確な説明や根拠等は示されることなく、それらに対する回答は二転三転と変遷するばかり、当初は、地検検事による連日の被疑者への尋問内容を「被疑者ノート」を通じて概要を把握する、何とも「隔靴搔痒」の感のある歯痒い状況でした。その後、弁護人を通じて札幌地検に証拠資料等の数度にわたる開示請求を経て、漸く本件事件の概要を徐々に知ることとなったものです。そしてこの事態は、公判における弁護側の攻撃防御を不利に作用させたことは言うまでもなく、検察側(国側)の誤った税額提示及び理不尽な主張ないし立証に、臨機に十分な反論をすることを不可能とし、とりわけ、一見して判別可能な約5,400万円を超える売上の誤認定及び他の税額認定の誤りについては、殆どノーチェックの状態で公判が進行していく結果を許すこととなりました。

 

また、筆者(税務代理人)は、弁護側の証人として出廷し、租税法学者の視座から本件事案の国税当局及び検察側の対応ないし租税法の解釈・適用に関し幅広く証言する予定となっていました。ところが、期日の直前になって裁判長裁判官から、本件については「事実に関してのみの発言(証言)を許可する」との指示を受け、本件との関係で肝心な租税法の解釈、適用についての証言をすることは許されませんでした。すなわち、事実認定されている事柄についての極めて範囲を縮小、限定して証言するに止められ、本件証人尋問にも国側の見えない意図や圧力に虚脱感ないし無力感を覚えました。結果として、札幌地裁は、消費税法及び租税刑法の解釈・適用並びに多額の税額計算の誤り等には、いずれも何ら触れることなく、本件租税法違反被告事件を「被告会社を罰金2,500万円、被告人Aを懲役2年に、被告人Cを懲役1年6月に処し、裁判が確定した日から3年間それぞれその刑を猶予する」と判決しています。

 

この判決には、代理人として到底納得できるものではありませんでしたが、既に述べているとおり、主として二つの事情から控訴を断念しました。その一つは、控訴審で争うための原始徴憑類、帳簿等の証拠書類等が原処分庁及び検察庁に悉く押収されていて、被告人としての納税者側には決定的に不足しており、当該裁判で新たな証拠を示して勝訴する見込みが薄いと思われたこと。その二つは、被告(納税者側)の業種上の事情、すなわち、長く国と争うことによる、大手元請事業者からの指名、取引の敬遠、停止等の懸念及び風評被害等の考慮、また、法人内部にも人的に少なからぬ動揺があったこと等の事情があったことが挙げられます。こうして、本件租税法違反被告事件は、実質的に国側の勝訴で幕を下したのですが、そのことがその後の関連する一連の事案、すなわち本刑事裁判と並行する形で進行していた行政処分としての法人税等及び消費税等の更正処分、それを受けた納税者(請求人)側からの再調査の請求及び審査請求等の不服申立における判断(決定及び裁決)に重大な影響を与えたと考えられます。その意味で、札幌国税局調査査察部の判断(事実認定)は、その後に生起した全ての関連争訟事案の大宗ともなり、本件「理由なし通知処分」に係る裁決にも重要かつ重大な影響を与えるものとなっているだけに、その内容は、真実に存在する事実のみを認定し、かつ公正で、租税正義に適うものであるべきものでした。しかしながら、札幌国税局調査査察部(原処分庁)の事実認定の実態は、ここまでの税務コラムで述べているとおり、多くの明らかな虚偽ないし嘘が存在し、極めて残念に思われるところです。

 

その典型例として、国税通則法74条の112項によれば、「調査を行った結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする」と規定されていますが、原処分庁である札幌南税務署及び北税務署は本件事案においてこれを失念したかスルーしていました。後日、代理人からの「国税通則法を無視した更正処分は問題である」との主張を受けて、両税務署の統括国税調査官らは、平成29111010時頃、代理人に対し本件税務調査の結果及びそれまでの経緯、更正決定額、その理由、関係法人に関する事項等の詳細を説明したとする全くの「嘘」の主張を展開した上、「修正申告について」なる教示文書を手交したとして偽造した書面を開示しており、請求人がそれを指摘するも審判所は、捏造した文書を真正な文書として認定しているのです。

 

札幌南、北両税務署の統括官らの上記の主張が、明白な「嘘」である証拠は、統括官らが代理人に説明をしたと主張する日時の19日後の平成2911291650分、当該事案担当の実質上の責任者である札幌国税局調査査察部査察第三部門の主査ST氏から、「本件税務調査の結果及びこれまでの経緯等についての説明をしないことになりました。」とする趣旨内容の電話連絡を代理人は受けているのです。この事実についても、代理人(審査請求人)は、審判所長宛に口頭及び文書において累度にわたって伝え、国税通則法971項(審理のための質問、検査等)をするよう求めており、当該審判所長が調査権限を行使すれば事実が容易に判明するにも拘らず、不作為を通した上で原処分庁の主張を認定しており、審判所の法令を無視ないし軽視した対応に不信の念を抱いているものです。

 

因みに、本税務コラム(2022/12/21掲載)で触れたとおり、上記の査察第三部門の主査ST氏は、「一連の検察庁への告発業務が終了し、処分庁である札幌南税務署に修正に向けての業務が移行する段階で、修正申告に関する打ち合わせ及び処分庁からの修正の勧奨並びに(税務)調査結果等の説明があります。また、その時までに、当国税局調査査察部からも同様の説明をすることになりますので、二重に説明することになりますが我慢して聞いて下さい。」と、かつて代理人に告げていました。しかし、いくら待っても、札幌国税局及び札幌南税務署のいずれからも、その法定の説明義務(国税通則法74条の11第2項)が果たされることはなく、平成291129日になって、代理人は同税局査察第三部門の主査ST氏から件の電話連絡を受けたものです。その後、代理人は審査請求において、「国税通則法の規定(74条の11第2項)を無視した更正処分は無効である」と主張したことを受けて、あろうことか、原処分庁は、「同規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はない」と開き直り、審判所は「調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならない」として、納税者の正当な権利保護をするどころか、原処分庁の明白な誤謬をも擁護する、驚くべき判断(裁決)を示しています。

 

法文に明文化する必要性が存在するからこそ、国税通則法74条の11第2項の規定が置かれているのであり、これを原処分庁の調査担当職員が自らに都合がいいように、恣意的な判断をして、「更正決定額及びその理由を納税義務者に説明しなくてもよい」と解釈することはできず、明らかな公権力の濫用に当たると思われます。すなわち、当該規程は、「調査結果について増額更正する場合に更正決定額及びその理由を納税義務者に説明しなくてもよい」とする規定ではないのです。国税通則法は、第1条においては、その目的を、「国税に関する法律関係を明確にするとともに、税務行政の公正な運営を図り、もつて国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資すること」としているのです。(つづく)

文責(G.K

 

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