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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その10)

2023/04/12

今回からは、審判所が示した標題の令和4年1121日裁決に沿ってその検証を進めていきたいと思います。本裁決書の主文は、「審査請求をいずれも棄却する。」とするものです。審判所が、本裁決書において理由とする「事実」のうちの「事案の概要」は、「本件は、原処分庁が、審査請求人(以下『請求人』という。)に対して法人税等の更正処分等を行い、当該更正処分等に係る裁決を経た後に、請求人が、法人税等の納付すべき税額が過大であるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該更正の請求は、更正の請求ができる期間の経過後にされたなどとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。」と表記されています。

 

しかしながら、上記「事案の概要」の表記は、審判所が棄却裁決を出すべく、真実に存在する「事案の概要」を表記せず、敢えて不正確ないし誤った表記をしたものと思われます。そもそも、原処分庁の平成291122日付の更正通知書においては理由附記が不十分であった上に、事実認定及びそれに至る過程の判断並びに計算誤りに伴う税額の誤謬が数多く確認されたことから、再調査の請求においてそれらを指摘したところ、原処分庁は、令和1年10月7日付で青色申告承認の取消を含めて、一旦、法人税等及び消費税等の当初更正処分の全部を取消し、処分理由等を差し替え、追完して同日付で再更正をするという、学説・判例ともに否定する、いわゆる禁じ手を行使したのです。当然ながら、請求人は、原処分庁に対してその手続の正否を含めて再更正についてもその処分内容の再考を求めたところ、原処分庁は、不作為が疑われる1年9カ月もの時間を掛け、漸く、却下決定を出しており、これを受けて、令和1年1122日、請求人は、札幌国税不服審判所にそれらの処分全部の取消しを求めて審査請求を行っています。

 

審判所は、原処分庁が当初の更正処分の全部を取消し、処分理由を追完して新たな処分をしており「内容及び手続に問題はない」とし、当該再更正処分の手続上の違法性を検討することもなく、また、原処分庁の主張を事実上何らの吟味・検討することもなく、そのまま受け容れた上で、税額については、「当審判所の計算と原処分庁の計算した額といずれも同額となる」などと、私法領域であれば当然に善管注意義務違反が問われるであろう極めて適切性を欠く判断(裁決)を示しました。ところが、その中には一見して計算誤りが判読可能な5,400万円を上回る多額の売上計算ミスや、税額計算の誤りに繋がる事実認定等が数多く含まれていました。そこで、原処分庁の当該事案におけるその誤認定が一目瞭然である売上、約5,400万円の処理につき、請求人は、先行裁決書が送達された令和3年3月13日(土)から間を置かず、同年3月16日(火)、原処分庁の審理専門官M氏に連絡した上で、審判所の管理課のS氏にその旨を伝え、職権で還付して欲しい旨を伝えたところ、以下に詳述するとおり、その他の処分の計算誤りと共に更正の請求をするようにとの指示を受けたのです。

 

したがって、本裁決書が表記しているように、当初から請求人自らの意思で、「納付した法人税等の税額が過大であるとしての更正の請求をした」ものではなく、「明らかに原処分庁が判断を誤り、結果として誤って処理し、それをそのまま審判所が認定事実として裁決していたもの」の還付方法を、原処分庁サイドが自らのダメージを最小化すべく能動的に打ち出した解決案なのです。そしてそこには、原処分庁、審判所という租税行政庁の強い意思が介在しており、明らかに事実に反する表記であり、棄却裁決を出す意図をもって公文書たる裁決書に「虚偽表記」をしたものと言えます。ともあれ、請求人は、原処分庁サイドからの指示通り、売上の誤認定額である約5,400万円に係る税額約2,400万円(地方税を含む)及びその他の処分の計算誤りに係る税額に対しての更正の請求を行っています。

 

すなわち、令和1年1122日のいわゆる先行審査請求は、原処分庁が、恣意的ないし意図的に課税要件事実を作出し、それに基づいて誤った更正処分を行い納税額を確定させ、当該納税額を予納分から強制的に充当(納付)する形式をとっており、更正の理由が不明確である上に、税額も誤って算定され過大であったこと等から、請求人は、当該更正処分に対する再調査の請求を経て、審判所に当該更正処分等の取消を求めていたものです。これに対し、「正しかるべき」審判所の判断(?)は、「当審判所の計算と原処分庁の計算した額といずれも同額となる」などと、全く事実に反する裁決を令和3年3月12日付で示したのです。そこで、令和3年3月17日付で、それらの誤謬部分の税額について、原処分庁に、国税通則法56条1項に基づく還付を求めたものです。これに対し、同年3月26日、札幌南税務署審理専門官部門の審理専門官であるM氏は、以下の理由から、請求人の方から更正の請求をするようにと強い要請ないし指示をしたのです。

 

M氏曰く、「当該更正処分は、札幌国税局(査察)マターなので、当時の査察調査に係る一切の資料は当署には存在せず、その資料にアプローチすることさえもできないので、請求人の方から『更正の請求』をして頂けませんか、それしか還付の方法はありません」と。それは、有無を言わさぬ強い語調での指示(強制)でした。請求人は、この原処分庁の強制的指示(要請)に基づいて更正の請求を行ったところ、原処分庁は、売上の誤認定額である約5,400万円に係る税額約2,400万円については、還付の手続を取った一方で、その他の処分の判断及び計算誤り分については、「更正の請求ができる期間を経過した後に行われた」などと主張して、「更正をすべき理由がない旨の通知処分」をしたのです。これに対し、当然、請求人は、通知処分の全部の取消しを求めて審判所に審査請求を行っており、それが標題の「いわゆる理由なし通知処分」の取消しを求める審査請求の実態、真相です。

 

原処分庁を含む租税行政庁は、自らの確固たる意思を介在させて、請求人に強制的に更正の請求を行わしめたにも拘らず、当該請求書面を提出させて暫く経った時点で、前言を翻し、当該更正の請求は通則法23条2項1号に該当せず、また、更正の請求を行うことができる期限(法定申告期限から5年)を経過していることから当該更正は認められないとする主張をしたのです。原処分庁のこの行為は、明白な「信義則」(民法1条2項)に牴触すると思われます。そもそも、本件については、原処分庁が職権でそれらの誤りを正し、還付すべきところ、原処分庁の都合で請求人側に更正の請求を行わせ、その際には、通則法23条1項1号の理由では5年の時効を経過しているので難しい(受理できない)と審理専門官は請求人に言い添えてまでいるのです。このことから、請求人は、当該更正の請求をそのアドバイスの趣旨に従って主位的には通則法23条2項1号としつつも、予備的に同条1項1号に該当する旨を記載しています。しかしながら、原処分庁は、同様の理由である誤処理ないし計算誤りを理由とする当該更正の請求のうちの一部は認めておきながら、その他は認めないと相矛盾する主張をしているのです。

 

このように、原処分庁の主張は、論理矛盾も甚だしく、道義的観点は勿論、法的には、禁反言(信義則)の原則からも決して許容されるものではありません。因みに、原処分庁が当該更正の請求を経て還付した税額、すなわち所得額に意図的に加算していた額は約5,400万円と多額でもあり、これを取り消し所得額から減算し、国税、地方税を合わせて対応する額(約2,400万円)は還付されていますが、これについては、原処分庁が主張する期間経過後の更正の請求によるものであるにも拘らずその還付が行われています。一方、審判所は、「当審判所において計算すると原処分の額といずれも同額となる」と裁決しており、一見して判読可能な約5,400万円もの誤った売上に対する税額計算の誤りを見逃した上に、原処分庁による誤った更正処分を「適法」としており、その意味では、租税行政庁内部で形式的な審理をしたことによる「二重のミス」を犯していたことになり、審判所がその役割を十分に果たしているとは到底評価できず、審判所の存在意義が問われる事態となっているところです。

 

還付に関する更なる疑問は、原処分庁は、当初更正処分額を平成28122日の予納分から強制的に充当しており、その当初更正額に誤りがあって上記の還付をしたにも拘らず、還付加算金の計算の始期が、予納をしていた平成28122日ではなく、前更正処分(令和1年10月7日付)に対する更正の請求をした令和4年5月7日であったことです。これについて、請求人は、原処分庁に「還付加算金」に係る再計算についての申立書を提出し、更正の請求の経緯、予納の時期、還付加算金に係る計算の始期等について申立人(請求人)の考え方及び善処方を考慮するよう要望しましたが、このことについて定める法令は存在しないと、原処分庁は、当該要望を却下しましたが、かかる国家による不当利得は許されず、納税者に返還されるべきものと考えられます。

 

審判所の最重要職務として裁決書の作成が挙げられますが、これに係る文言の表記が、「自らに不都合な事実」を包み隠すための、いわゆる「印象操作」ないし「心理操作」としての意図的な誤表記ないし虚偽表記であってはならず、あくまでも審理の中立性・公正性が保たれ、その正確性、真実性は納税者たる国民に信頼性を与えるものでなくてはなりません。審判所は、「納税者の正当な権利利益を救済すること及び税務行政の適正な運営を確保することを目的とした国税庁の特別の機関であり、審査請求人と国税の賦課徴収を行う税務署や国税局などの執行機関との間に立ち、国税に関する法律に基づく処分に対する審査請求について公正な第三者的立場で裁決を行います。」とする「国税不服審判所」の存立の趣旨を表明したその「看板」は、どうしたと言うのでしょうか?国民の目の届かない所で、今やその「金看板」は汚れ、朽ち果てようとしているのではないでしょうか?(つづく)

文責(G.K

 

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