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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その11)

2023/05/01

また、国税不服審判所はそのパンフレットで、「主要な役職者に、裁判官、検察官を任用‥‥国税審判官には、国税職員、裁判官、検察官のほかに、弁護士、税理士、公認会計士などの民間専門家を任用」していると明示しており、それらの人材は、当然ながら、「更正の請求」の定義ないし法的意義についての基本的知見は他に抜きん出たものがあるやに思われます。しかしながら、「更正の請求」に関する認識は、請求人(代理人)のそれとは異なっているようです。更正の請求は、通常、納税申告書を提出した者が、申告書に記載した課税標準等の税額計算等が法律の規定に従っていなかったことやその計算に誤りがあったことにより、更正処分を受け、その更正後の税額が過大であるとき等の事由がある場合にすることができると規定されているものであり、租税行政庁自らのミスや不都合を包み隠すためのエクスキューズに活用するものであってはならず、公正でなければなりません。

 

加えて、審判所の上記パンフレットの「審査請求よくある質問—Q&A—」は、「審査請求書を収受した後、その審査請求書の記載内容が法律の規定に従っているか否かを形式的に審査し、当該形式審査の結果、審査請求が正当な理由なく法定の期間経過後にされたものなど不適法であって、補正することができないことが明らかなときは却下」の裁決をするとしています。そうすると、裁決書には、「更正処分等に係る裁決を経た後に、請求人が、法人税等の納付すべき税額が過大であるとして更正の請求をした」と表示しているところ、その実態は、租税行政庁(原処分庁)が強制して裁決後に不服申立てに係る争訟手続に違反して(裁決後は訴訟を提起しなければならない)、請求人をして更正の請求を行わしめており、1年を超えた期間をかけて審理するまでもなく、当該審査請求は受付段階で却下されるべきものであり、審判所の裁決は論理性及び法への適合性を欠くことになります。

 

また、前回に引用した審判所の当該パンフレットの、「審判所は、納税者の正当な権利利益を救済すること‥‥を目的とした国税庁の特別の機関であり」以下の文言は、憲法84条の租税法律主義を受け、そして、租税法における当該規定の趣旨を根拠に明示されているものであり、単なる審判所限りの訓示規定や努力義務規定ではないと考えられます。したがって、その規定(趣旨)を軽んじ、若しくは無視する今回の審判所の判断(裁決)は、憲法違反に結び付くものとも考えられます。

 

次に、本審査請求における争点に関し、審判所から請求人宛に令和4年9月9日付で争点の確認表(以下「確認表」という。)が送付されていることから、これについて触れてみたいと思います。当該確認表には争点として、(1) 至平成27年3月各更正請求は、通則法第23条第1項に規定する法定申告期限から5年を経過しているか否か」(争点1)、(2) 「至平成27年3月各更正請求は、通則法第23条第2項第1号の規定に該当するか否か」(争点2)、(3)「本件売上認定額を平成28年3月期の所得金額から減算できるか否か」(争点3)、(4)「本件過大計上額(ただし、本件先行裁決によりその一部が取り消された後のもの)を平成28年3月期の所得金額から減算できるか否か」(争点4)が掲げられています。

 

しかしながら、上記に掲載されている争点は、「はじめに結論ありき」で、それに沿って租税行政庁にとって都合のよい審理過程を経て、都合のよい判断(裁決)を示すべく、真実に存在する事実や請求人の正当な主張ないし意見が全く汲まれておらず、審判所が恣意的に設定していることが明らかです。これでは何のために、貴重な時間を割いて請求人が審判所に証拠を挙げて事実を説明、答弁書や意見書等の主張書面を提出し、審判所はそれらについての審理をするのか、国税不服審判所設置の趣旨、意義は没却され、その存在意義を見出すことができません。一般的に、審判所では、原処分庁と請求人の双方の主張を聴いて適切な争点を設定し、その争点に主眼を置いた調査、審理を行い、審査請求に係る判断を示す裁決は、当該争点に対する判断をすることになっています。そこで若干、長文の嫌いはありますが、審判所が作成した「争点の確認表」に対して請求人が審判所宛に提出した別紙1としての令和4年9月20日付「争点に係る請求人の主張」書面(意見書)を以下に提示したいと思います。

 

「(1)争点の確認表(以下、「確認表」という。)の争点(1)の文章をそのまま文字どおりに読めば(文理解釈すれば)、至平成27年3月各更正の請求は、国税通則法(以下、「通則法」という。)23条1項に規定する法定申告期限から5年を経過していることになろう。しかし、それでは『解答に合わせて問題を作った』と同様、最初から原処分庁の主張に沿った判断を導くための『争点』整理となってしまい、事実及びそれに基づく請求人の主張との間に乖離が生じ、請求人欄の記載内容とも異なってしまうこととなる。本件至平成27年3月各更正の請求の事案の本質は、原処分庁が通則法56条1項を適用すべきを回避して請求人に強引に行わしめたところにあり、更にそれは、令和1年10月7日付当初更正処分及び令和3年3月10日付裁決と深い関係性を有する一連の継続している事案である。したがって、単に、法定申告期限を経過しているか否かを判断するための文言だけではなく、その背景として、原処分庁が当初に更正の請求を行うよう強引な依頼、指導をしておきながら、後に申告期限の徒過であるとし、前言を翻してこれを認めないと主張したこと(禁反言の原則違反)が認められるか否かの民法の側面をも考慮した判断を可能とすべくそのニュアンスが含意されていなければならない。かかる意味合いが文面の何処にも表現されておらず、(1)の文言は、事実及び請求人の主張を反映した表現となっていない。」

 

「(2)上記(1)とも一部共通するが、請求人が、通則法56条1項の適用を求めて原処分庁に赴いたところ、至平成27年3月期の各更正については、札幌国税局査察部門の案件であるところから、原処分庁に調査資料等が存在しないことを理由に、請求人の方から更正の請求を行うよう強引かつ強制的に説得され、その際、通則法23条2項1号を理由とするよう言い添えられた。そこで、請求人は、主位的には通則法232項1号を、予備的に23条1項1号の適用を主張したものであるが、この表記ではそのニュアンスが表現されていない。すなわち、当該更正の請求をするに当たり、通則法23条2項1号に該当することを理由にするよう説得を受けたものであり、請求人はそれに従わざるを得ず、その意味では、納税者が能動的に行った一般的な納税者に対する権利救済制度としての通常の枠組みである『更正の請求』ではないのである。したがって、通則法23条1項1号若しくは同条第2項第1号の規定のいずれかに該当するか否かの判断が示されるべく、そのための文言を文中に取り入れるべきである。」

 

「(3)令和元年10月7日付更正処分は、原処分庁の調査スキルの稚拙性、簿記会計に関する知識不足に基因する故意的判断ミスによる売上認定額の誤認及びそれを吟味、検討することなく、裁決した(「お墨付き」を与えた)審判所の重大な誤謬(連鎖)が明らかであったことから、通則法56条1項に基づき還付請求を行うために原処分庁を訪れたものであり、誤謬が職権で糺される(所得額とされた額から減算できる)のは当然である。しかしながら、この表記では、原処分庁や審判所の双方ともに何らのミスもなかったかの如くの書き振りであり、むしろ請求人の側に落ち度があったものに対する事後処理としての減算ができるか否かのような表現となっている。すなわち、原処分庁が認定した至平成27年3月期各売上計上漏れ(以下「本件売上認定額」という。)は、上記のとおり、原処分庁の調査スキルの稚拙性、簿記会計に関する知識不足に基因する故意性の強い判断ミスによる売上認定額の誤認定である。その上、それらは各決算期を跨いでいることから、平成27年3月期若しくは平成28年3月期のいずれかの所得金額から減算しなければならないが、この表記には、そのニュアンスが何処にも表現されていない。」

 

「(4)かつて札幌国税局査察第3部門総括主査YM氏及び主査AK氏らの指導によって、請求人の関係法人であるとされたHS社の給与支給を請求人の支給であるとしてその計算を引き直し、強引にその悪質性を作出、捏造した上で請求人の代表取締役であったA氏から個人の金員を平成271214日から平成28年1月20日までの間に、HS社宛に強制的に振込入金、清算させて給与手当の過大計上に関する問題の完全かつ不可逆的解決が図られていた。しかし、令和元年10月7日付で請求人に対する更正処分をするに当たり、課税要件が存在しないにも拘らず、偽計、捏造して平成27年3月期の給与手当の過大計上額として、35,536,282円を請求人の所得の金額に加算したものであり、当然に、請求人の所得金額から減算されなければならない。この表記では、原処分庁の犯した法令違反等(別異の法人格を有するHS社の計算を法律の根拠なく請求人の計算としている。また、課税要件が存在しないところに課税処分をしている。)及びそれらにお墨付きを与えた審判所の犯した重大な誤りを前提として本件審査請求が行われている実態が全く表現されていない。」

 

「(5)原処分庁による、事実及び信義則に反する青色申告承認の取消処分に伴う減価償却費の償却超過額と認定された平成27年度3月期の所得金額について、請求人は、以前から主張しているところである。これについて原処分庁は、これまで何らの反論も主張も行っていないことから認容したものと思われるが、この点につき原処分庁は争っていないことから、その意味では可視化した『争点』とはなっていない。したがって、平成27年度3月期の所得金額から減算されるべく裁決を求めるものである。」とする書面を審判所に提出しています。また、審判所から令和4年6月9日付で請求人宛に送付されていた「当事者双方の主張について」とする担当審判官メモに対する請求人の反論を含む主張を、令和4年9月20日付で別紙2(争点に対する当事者双方の主張に係る請求人の主張)として審判所に提出しているので、次回からは当該文書も提示することにします。(つづく)

文責(G.K

 

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