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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証(その15)

2023/06/29

裁決書14頁は、「当審判所の判断」(1)法令解釈イとしての「通則法第23条第1項及び同条2項の意義」についての()通則法第23条第1項につき、「申告納税制度の下において、課税関係の早期安定と税務行政の効率的運用等の要請を満たす一方で、納税者の権利利益の救済を図るため、一定の事由及び期間に限って更正の請求を認めることとしたものと解される。」及び()通則法第23条第2項につき、「申告時には予知し得なかった事態その他やむを得ない事由がその後に生じたことにより、遡って税額の減額等をすべきこととなった場合に、同条第1項の更正の請求期間である法定申告期限から5年を経過していることを理由に請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果となることから、例外的に更正の請求を認め、納税者の保護を拡充しようとしたものと解される。」とする通則法23条1項、2項それぞれの趣旨に対する認識を明らかにしています。審判所の当該趣旨に対する認識自体に特に誤りはありませんが、それらの認識と実際に審判所が示した判断(裁決)に至る立論過程には乖離がみられることからかなりの違和感があります。

 

それと言うのも、上記()()の審理過程における立論及び本裁決の論理が成立するのは、飽くまでも一般的な納税者の自発的な「更正の請求」を対象とした場合であって、本件のように租税行政庁(原処分庁、国税局査察部)が主導して虚偽の事実を作出し、不正、不当な法の解釈・適用に基づき更正処分を行って徴収した税の還付(返還)手段に係る行政指導として強引に納税者に行わしめた更正の請求の可否及び当該還付に係る更正の請求をすることができる期間制限としての法定申告期限から5年を経過しているか否かを対象として判断しているものではないからです。つまり、審判所において本件審査の対象とすべきは、原処分庁が意図的に不正な更正処分を行った結果、これにより発生した税額の請求人への還付手段として更正の請求を指示したことの当否及びその有効性、更には更正の請求ができる期間としての5年が確保されていたか否かが判断されなければならないのです。何故なら、当初(令和3年3月1716時)、請求人は原処分庁に対して通則法56条1項の適用を求めていたのに対して、原処分庁は更正の請求をすることを強制的に指示しており、かつ、同条項が、「過誤納金があるときは、国税局長、税務署長等は遅滞なく、金銭で還付しなければならない」と法定しているからです。

 

審判所が() ()において、通則法23条1項、同条2項の条文の意味内容を客観的かつ具体的に明確化する作業をすることには何らの異論もありませんが、その作業において、意図的に論点をすり替えて、審判所を含む租税行政庁に有利な裁決を出すべく勝手な法の解釈・適用をすることはあってはならず、認められるものでもありません。審判所は、前記() ()をまとめ、 () として「以上のような通則法第23条第1項及び第2項の規定の趣旨に鑑みると、これらの規定に基づき更正の請求をすることができる事由及び期間は、安易にその準用ないし類推解釈をすることは許されずその文言どおりに解すべきである」としています。このような条文の文理解釈を採ることで、審判所は、この後における争点の検討の結論に、一般論としての解釈論を導き、それを裁決に反映したいようですが、本件のように、原処分庁(租税行政庁)が真実には存在しない虚偽の事実を作出、不法行為(課税権の濫用)による更正処分を行っているような場合、それを法に照らして強引に文理解釈して結論を導いたところで、それは、租税法のみならず他の関係法令の規定にも抵触する事態となるだけであり、より重大な問題を惹起するのみと思われるところです。

 

すなわち、通則法23条1項及び2項の趣旨の文理解釈は正しいとしても、租税行政実務の現場で生起している実際の問題として、租税行政庁(原処分庁、国税局査察部)は、捏造した事実を該当条文に当てはめて結論としており、審判所は、その問題に気付かずか、それらをそのまま受け容れているところに、本件の潜在的「澱」とも言うべき本質が内在しているのです。そしてそれは、大阪国税不服審判所の平成27年2月9日の裁決である「納税者の権利利益の救済を図るため、一定の事由及び期間に限って更正の請求を認め、また、納税者の保護を拡充しようとするもの」との当該条文の趣旨解釈からも大きく逸脱するものです。審判所は、一定の「期間に限って」としながら、請求人がした不服申立てに係る判断(決定)を先延ばし放置した原処分庁の不作為による期間の徒過には目を瞑り、結果として、本件に先立つ先行裁決を、5年を疾うに過ぎた、申告期限からそれぞれ9年、8年及び7年が経過した後に出しているのです。

 

「更正の請求をすることができる事由及び期間」をその文言どおりに5年と解すことができるのは、通則法23条1項の反射的効果として納税者が5年の期間内に更正の請求をすることが可能な環境、条件等が整備されていることが前提とならなければなりません。然るに9~7年もの期間、租税債権債務をめぐって原処分庁と納税者(請求人)間に争いがあったこともさることながら、原処分庁の不作為で納税者(請求人)からの不服申立てに対する判断(決定)を適正な期間内に示すことができなかったことが主な原因ないし理由なのです。かような状況下にあってすら、猶も、原処分庁は強制して、納税者(請求人)に、その請求の棄却が想定される「更正の請求」を行わせており、しかも、その時点では処分及び税額も確定しておらず、請求人が更正の請求をしようにもなし得ない状態、いわゆる「法律上の障害」のある、権利はあっても、その行使が不可能な「更正の請求」を行うことを強制する行政指導をしているのです。

 

結果として、請求人は更正の請求を行うことになったので、当該「法律上の障害」のある期間(申告期限から9年、8年及び7年)は、当然、更正の請求ができる期間(5年)から除かれなければならないことになりますが、そうすると、更正の請求ができる期間はマイナスの値となり、結果として、更正の請求ができる期間が確保されていないことを意味します。然るに、原処分庁の強制的な行政指導に応じ、更正の請求を行った納税者(請求人)に対する審判所の判断(裁決)は、納税者に保障された権利(更正の請求ができる期間としての5年の確保)を与えないどころか、還付請求権と言う納税者が享受すべき正当な権利利益をも奪うものとなっているのです。

 

次に審判所は、裁決書15頁のロで、通則法第23条第1項に規定する「国税の法定申告期限から5年以内」の意義についてとして、「通則法第23条第1項に規定する『国税の法定申告期限から5年以内』について、通則法第2条《定義》第7号は、法定申告期限とは、国税に関する法律の規定により納税申告書を提出すべき期限をいう旨規定している。また、通則法23条第1項が規定する『5年』という期間は、更正の請求の手続きをすることができる期間を規定したものであり、この期間は、通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》の規定により暦に従って計算されるものである。そして、上記イのとおり、通則法第23条第1項の規定はその文言どおりに解すべきであることから、更正の請求をすることができる期間は暦に従い、法定申告期限から5年以内に限られると解するのが相当である。」との判断を示しています。

 

上記ロの通則法23条1項に規定する「国税の法定申告期限から5年以内」の意義については、ここまでに請求人が再三に渡って触れ、今回の税務コラムでも述べているところでもあり、ここでは割愛したいと思います。更正の請求の手続きをすることができる期間につき、審判所は、通則法23条第1項が規定する「5年」という期間は、更正の請求の手続きをすることができる期間を規定したものであり、この期間は、「暦に従って計算されるものであ」り、更正の請求をすることができる期間は暦に従い、法定申告期限から5年以内に限られると解するのが相当である」と、法令条文を文字通りに解釈する文理解釈を採っています。そうすると、原処分庁が強制して請求人に行わしめた通則法23条1項に規定する期限を経過した本件の「更正の請求」についてもそのことが言えるのか、そうだとすれば、原処分庁は最初から矛盾する行政指導で強制し、納税者を欺罔する目的で、当該更正の請求を行わせていたことになり、審判所はそれを容認したことになります。

 

加えて、請求人が既に述べている租税行政庁(原処分庁)の不作為によって徒に不服申立てに係る決定及び裁決を引き延ばしてきた結果、暦に従って計算されるべき法定申告期限から「5年」という期間を徒過させて、請求人(納税者)の権利を奪っている事実は、審判所が示した上記の文理解釈に至る判断要素とは大きく矛盾、乖離することになり、租税行政庁の判断(決定及び裁決)に至る立論には背理があり、矛盾が存在することとなります。(つづく)

文責(G.K

 

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