Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その16)

いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その16)

2023/07/13

(前回の続き)

また、審判所は、裁決書15頁のハで「通則法第23条第2項第1号括弧書きの判決と同一の効力を有する和解『その他の行為』の意義について」として、「…判決と同一の効力を有する和解その他の行為の『その他の行為』とは、調書に記載することにより判決と同一の効力を有するものを意味すると解するのが相当である。」との判断を示しています。しかしながら、前回も触れているとおり、審判所において、先ず本件審理の対象(本質)とすべきは、原処分庁が意図的に不正な更正処分を行い、不法な徴収をした税額の請求人への還付手続として更正の請求を指示(誤導)したことの当否及び当該更正の請求ができる期間としての5年が確保されるものであったか否かが判断されなければならないのです。審判所は、ここでも、敢えて論点をずらすことによって、論点(争点)のすり替えを行っています。

 

そもそも、論点は、租税行政庁(原処分庁)と納税者とが健全な議論をするための命題となるべきものであり、当該命題に沿って意見を出し合い、その意見に反対するのであれば、根拠を示して正当な反論をする必要があり、その際の対立する論点が争点となるのです。そのために審判所が行う争点整理は、争点に対する租税行政庁、納税者双方の主張が偏ることなく、厳正、適確に整理することが求められます。ところが、審判所が、「争点の確認表」(以下、「確認表」という。)に記載した争点は、「初めに結論ありき」の下、租税行政庁にとって都合のよい審理過程を経て、都合のよい判断(裁決)を示すべく、真実に存在する事実からは離れ、請求人の正当な主張ないし意見を悉く捨象、審判所が対応、対処しやすい事象のみを敢えて争点として設定しているのです(2023/05/01税務コラム参照)。

 

本件における通則法23条1、2項の適用をめぐる事実関係は、請求人が、同法56条1項の適用を求めて原処分庁を訪れたところ、至平成27年3月期の各更正については、札幌国税局査察部門の案件であり、原処分庁(南税務署)には調査資料等が存在しないとの理由で、請求人から更正の請求を行うよう強制的な指示(誤導)を受け、その際、通則法23条2項1号を理由とするよう指示されていたのです。そこで、請求人は、主位的には通則法232項1号としつつも、予備的に23条1項1号の適用を主張していたのです。かような審判所による論点(争点)のすり替えが行われている確認表の表記では、請求人の主張するニュアンスが正確、適正に反映されておらず、当該確認表上の字面だけからでは、審判所の適正な判断は望むべくもありません。

 

すなわち、請求人が更正の請求をするに当たり、原処分庁は、悪意で、当該請求の棄却裁決が予め想定される通則法23条2項1号に該当することを理由とするよう強制的誤導を行い、請求人がこれに従わざるを得ない状況を作出したのです。その意味で、納税者が自発的に行った一般的な納税者の権利救済制度としての通常の枠組みである「更正の請求」ではありません。したがって、先ずは、原処分庁が、通則法56条1項の適用を回避して誤った行政指導を強行した結果としての「更正の請求」は手続法上、適法か否かの判断が、その従たる位置づけで、当該更正の請求ができる期間制限としての5年が確保されていたか否かが、そしてそれらに後れて通則法23条1項、2項についての判断が示されれば足ります。請求人(代理人)は、それらのことが確認表から判読できる文言にするよう、意見書をもって審判所に求めていたのに対し、審判所はこれを黙殺し、租税行政庁にとって都合のよい判断を示すべく、明らかな「論点のすり替え」を行ったものです。

 

そのことから、審判所が主張していたそれまでの文理解釈を離れて、通則法23条2項の「その他の行為」を趣旨解釈して判断を示す必要性や優先度は低く、加えて趣旨解釈は、基本的にその法令の目的や趣旨に重点を置き常に結果の妥当性を確認しながら解釈する必要があるとされます。そうだとすると、審判所が示した判断、すなわち、判決と同一の効力を有する和解その他の行為の「その他の行為」については、通則法第23条が納税者に対する救済法という性格を持つ以上、ある程度広義に解釈(拡張解釈)して納税者を救済する必要性こそは認められるものの、逆に納税者が放置されるようなものであったり、租税法律主義及び租税公平主義から逸脱するものであってはならないのは当然の理です。

 

「その他の行為」とは、本件の場合、判決と同一の効力を有するような「裁決」が含まれると考えられます。何故なら、裁決は、審査請求人及び参加人を拘束する効力を有するだけでなく、広く関係行政庁をも拘束する行政庁(審判所すなわち租税行政庁)の覊束行為である点で「判決と同一の効力を有する」ような「その他の行為」と考えられるからです。

そして、本件裁決は、原処分庁の虚偽事実に基づく判断をそのまま審判所の認定事実としており、通則法23条2項1号の「…判決と同一の効力を有するような『その他の行為』である『裁決』により、当該計算の基礎としたところと異なることが確定」したときに該当することを理由として更正の請求をすることができると考えられます。また、文理解釈を唱えていた審判所が、一転、ここでは趣旨解釈を採ることとした理由ないし必要性についての何らの説明もなく、そのように解することは審判所を含む租税行政庁を利する以外に特段の重要性も見出せないことから、審判所の当該判断は詭弁の類というほかありません。

 

続く裁決書16頁のニでは、「通則法第74条に規定する還付請求権の意義について」として、「通則法第74条は還付請求権を発生させる根拠規定ではなく、各税法の規定により確定した還付金又は過誤納金である公法上の金銭請求権が既に存在する場合の規定であり、この請求権は、確定税額が過大であっても、そのことから法律上当然に発生するわけではなく、更正の請求を受けるなどして減額更正がされ、確定税額が是正されることによって初めて発生すると解するのが相当である。」としています。しかしながら、ここでも審判所が「相当である」と解した根拠が示されておらず、租税行政庁にとって都合のよい判断を示しただけの主観に止まります。また、「還付請求権」についても、直接その定義を置いた(意義について触れている)法令等の根拠も示していません。加えて、本件通知処分と直接的で密接不可分の関係のある一連の原処分庁による当初更正処分に対する請求人からの更正の請求のうちの一部、約2,300万円(地方税を含む。)を還付し、その余については、処分の当否を含む差異を明らかにすることもなく、また、「法律上の障害」を考慮することなく、更正の請求をすることができる期間(5年)の経過を主張しています。

 

「還付請求権」を審判所が示した上記かぎ括弧内の「過誤納金」とすると、原処分庁が、悪意で取引を否認しているようなケースで、例えば、本件通知処分と密接不可分の関係で、一連の当初更正処分の一部である請求人の取引を、外注費1,000万円につき請求書がなく架空外注費であるとして借方の外注費のみを否認しています。しかしながらこの取引は、同日、同額の売上が貸方に計上されており、損益は0となるにも拘らず、原処分庁は、売上に係る法人税額及び消費税額として予納分から充当しており、当該充当した額は、「誤納金である公法上の金銭請求権が既に存在する場合」に該当すると考えられます。会計学上は、決して正しい仕訳とは言えませんが、当時の関与税理士は次の処理をしていました。

25/3/31(借方)外注費10,000,000 (貸方)売上10,000,000 

 

原処分庁は、上記の取引において借方の外注費だけを否認して、貸方の売上はそのまま他の売上に合算していたことから、平成25年3月期の決算書上の消費税の計算は、当然に、借方外注費を1,000万円減少させるとともに、貸方売上も1,000万円減少させなければなりませんが、原処分庁は、悪意でその処理を行っていません(2021/06/06税務コラム参照)。これについては、原処分庁に対し、請求人(代理人)が何度も是正を求めましたが、応じなかったことから、当初更正処分におけるその他の不適正、不適法が明らかな部分を含めて再調査の請求をしています。これに対し原処分庁は、当初処分を取消し、処分理由を差し替えて再更正処分を行うとともに、「再調査の請求を却下する」との対応をとり、結局のところ、これについての何らの是正も還付もしませんでした。それにも拘らず、審判所は何処を見て審理、判断したのか、原処分庁の当該処理を、「具体的に記載されている」とし、 無限定に容認する、通常は、考え難い誤ったお墨付き(先行裁決)を与えているのです。

 

過誤納金は国や地方公共団体にとっての不当利得であり、遅滞なく還付しなければなりません(通則法56条1項、地方税法17条)が、そのうちの過納金の場合には、係争している納税申告や更正処分等が減額更正若しくは判決等により減額ないし取消されて、はじめて、納税者は不当利得返還請求権(還付請求権)を主張、行使でき、誤納金の場合にはそのような手続を要しないとされます。そうすると、上記のように原処分庁が故意で真実に存在しない事実等に基づき否認し、虚偽の課税要件の充足を作出して更正処分を行い徴税していたような場合は、当該徴税額は誤納金に該当し、通則法第23条第1項を持ち出すまでもなく、同法56条1項の規定により、「国税局長、税務署長は、還付金又は国税に係る過誤納金があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない」ことになり、その際に参照すべきは、同法74条1項の規定と言う建付けになると思われます。よって、審判所が示した本件通則法741項に係る基礎的判断の審理過程にも、誤解や論理構成及び立論の矛盾や背理が存在し、その裁決には多くの疑問が残ります。(つづく)

文責(G.K

 

金山会計事務所 ページの先頭へ