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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その17)

2023/08/01

裁決書の17頁から23頁までは、争点の確認表(以下、「確認表」という。)における争点整理に従って1から4までの審判所の判断を縷々記載しています。当該確認表に記載されるべき争点整理は、本来、事実に基づいて租税行政庁(原処分庁)と納税者(請求人)双方の主張を、偏ることなく、厳正、適確に表記することが求められているものです。しかしながら、審判所が当該確認表に記載して争点としているものは、今回も、「初めに結論ありき」の下、租税行政庁にとって不都合な事実は徹底的に排除し、自らに都合のよい判断(裁決)を示すべく、真実に存在する事実からは離れ、請求人が証拠をもって示した正当な主張ないし意見の殆ど全てを捨象し、後に審判所が判断ないし対応し易い事象のみを、敢えて争点として設定しているのが実情です。

 

それらの大部分については、既にこれまでの当税務コラムで根拠を示して指摘し、反論を含めた論説をしており、内容も重複することからここでは触れるに止め、それ以外の争点に関わる重要と思われる記載について、以下では請求人が特に強調したい部分に注力して検証及び論説したいと思います。先ず、ここで再々度確認しておきたいのは、本審査請求の本質は、飽くまでも、原処分庁が不公正な(虚偽の)事実認定に基づいて、故意に不正な更正処分を行って、不法な税額を徴収したことの是非及び当該税額の請求人への還付手続として更正の請求を指示(誤導)したことの当否並びに当該誤導した更正の請求手続の期間制限として通則法が規定する5年間が確保されていたか否かであり、それが、すなわち本来の争点となるべきものなのです。審判所が作成した確認表からは、自らを含む租税行政庁にとって有利な判断を示す意図をもって、恣意的に、敢えて本来あるべき論点をずらし、すり替えることによって、「はじめに存在していた結論」を導くために不可欠な論点を「争点」として設定していることが強く窺われます。

 

このような形で審判所が争点として掲げているものは、上記理由により設定されたものであるところから、本来、代理人として論評するまでもありませんが、敢えてそれらに触れるとすれば、裁決書における争点1のイ「検討」として、「…不適法な更正の請求と認められる」については、既に、前回までに論説、詳述しているとおりです。続くロ「請求人の主張について」においても、「至平成27年3月各更正請求は、いずれも通則法第23条第1項に規定する期限を経過した不適法な更正の請求であることから、この点に関する請求人の主張には理由がない」としており、ここでも、審判所は論点をずらし、不都合な事実には徹底的に無視を決め込むつもりのようですが、当該判断には、その前提に誤りがあります。それと言うのも、本審査請求には、審判所が判断を避けている「至平成25年3月各更正請求」が含まれています。これこそは、後にも触れるとおり、原処分庁の作為による不正な更正処分であることが明白であるにも拘らず、審判所は「請求人の主張には理由がない」と十把一絡げにし、至平成25年3月各更正請求も含めた判断をしており、事実認定及び法解釈を誤っています。そうすることで、審判所は、論点をずらし、租税行政庁にとって不都合、不合理な当該事案等の判断には黙したまま、実質的に、原処分庁の判断を無限度に受け容れ、認容して「お墨付き」を与え、「請求人の主張には理由がない」と判断しているのです。と言うことは、「請求人の主張には理由がない」のではなく、むしろ理由がないのは、審判所を含む租税行政庁の主張と言うことになるのではないでしょうか?

 

また、審判所は、請求人が主張する「法律上の障害」という自らにとって重大でかつ不都合な事実については全く検討した様子もなくスルーし、敢えて触れることを避けています。しかしながら、更正の請求ができるということは、更正の請求をする権利を行使することができることであり、当該権利を行使するに当たって法律上の障害がないことを意味する重要な概念ないしはターム(用語)なのです。請求人がそれを指摘、主張しているのに対し、審判所がこのタームに全く触れていないことから、法的には、これを認めたと評価されるところです。審判所が判断をするに当たって、自らを含む租税行政庁の虚偽主張に基づく論理構成の矛盾や誤謬等は、重大でかつ不都合な論点でもあることから、前回の税務コラムでも指摘していますが、更に、この後においても触れることにします。

 

既に見たように、審判所の争点1については、その審理過程における論理矛盾ないし背理があり、法解釈に当たっての法倫理ないし法哲学(道徳)的視点からの吟味、検討も欠如していることから、その判断は法的安定性を欠き、請求人を含めた納税者(国民)に対する、説得力を極めて欠くものです。また、本件通知処分と直接的で密接不可分の関係にある一連の原処分庁による当初更正処分に対する請求人からの更正の請求のうちの一部、約2,300万円(地方税を含む。)を既に還付し、その余の更正処分に係る事案については、その処分の根拠、その処理に係る彼我の差異の合理的理由すらも明らかにしておらず、剰え、「法律上の障害」を考慮することなく、審判所を含む租税行政庁は、更正の請求をすることができる期間(5年)の経過のみを主張しているものです。

 

また、「還付請求権」が、前回のコラムで述べたように、審判所が括弧内で示している「過誤納金」とすると、原処分庁がした、請求人の取引につき、借方の外注費のみを否認し、なかったものとし、貸方の売上はそのまま他の売上に合算し、売上に係る法人税額及び消費税額として予納額から充当していた上記の平成25年3月期の場合、当該充当額は、「誤納金である公法上の金銭請求権が既に存在する場合」に該当し、当該充当額たる誤納金は、国や地方公共団体にとっての不当利得であり、遅滞なく還付しなければならないことになります(通則法56条1項、地方税法17条)。若干敷衍すれば、原処分庁はこの取引を否認するに当たり、悪意で、借方の外注費だけを否認し、取引がなかったものとした一方で、貸方の売上はそのまま他の売上に合算しており貸借は均衡せず、非合理です。

 

取引を否認するのであれば、貸方の売上もなかったものとしない限り、貸借は均衡することはありません。こうして、原処分庁(租税行政庁)は、故意に、調査額と申告額との間に差額を生じさせ、当該差額は売上計上漏れとしており、審判所はこの処理にもお墨付きを与え、実質的に二重の許されざる誤りを犯す結果となっているのです。凡そ簿記・会計業務に携わる者の基礎的知識として、貸借均衡の原則の理解は常識であり、平成25年3月期について言えば、決算書上の消費税の計算は、当然に、借方の外注費を1,000万円減少させるのであれば、貸方の売上も1,000万円減少させなければならないのです(2021/06/06税務コラム)。

 

再三触れているように、原処分庁は、外注費の否認に伴う更正処分に係る法人税額及び消費税額を機械的に予納額から充当した上、請求人のそれらに対する累度にわたる是正要求を黙殺しており、その部分のみを取り上げても不適正、不適法であることは明々白々です。更なる問題は、他の決算期においても同様の故意的誤処理が随所にみられ、それらの個所を含めて請求人が再調査の請求をしていたのに対し、原処分庁は、当初処分を取消し、(処分理由を差し替えて)再更正処分を行うとともに、「再調査の請求を却下する」との「決定」を行い、審判所は、「当審判所において…計算すると、本件更正処分の額と同額となる」として、原処分庁の当該処理を容認するなど、疑惑、欺瞞に満ちた判断(裁決)をしていることです。結果として、請求人の本件各更正請求においても、原処分庁は、虚偽主張を更なる虚偽事実や虚偽主張で糊塗し、それらの、いわゆる累犯を審判所が与えた「お墨付き」で覆うとともに免罪符としていたことは、想像するに難くありません。

 

そうだとすれば、原処分庁や審判所を含む租税行政庁は、請求人が、前々回においても触れているとおり、通則法23条1項の反射効ないし反射的法益という法理としてだけではなく、法倫理的ないし法哲学(道徳)的観点からも、納税者に5年の期間内に更正の請求を行い得る機会を享受させることなくして、「通則法第23条第1項に規定する期限を経過した不適法な更正の請求」との主張をできる筈もありません。更なる考慮要素としては、再三にわたり触れているとおり、請求人の再調査の請求に対して原処分庁は、標準的な審理期間を遥かに超えて再調査の請求書提出後1年9ヶ月後に「決定」を出しており、その間、原処分庁は、事実上、不作為であったのです。そして、これに係る審判所の本件裁決が出されたのは、5年を疾うに過ぎた、申告期限からはそれぞれ9年、8年及び7年の経過後なのです。

 

すなわち、請求人が、本来、通則法23条1項によって保護されるべき法益である法定申告期限から5年間の更正の請求ができる期間は、その当初からマイナスの数値となっており、更正請求ができる期間が確保されていなかったことを意味しています。原処分庁の本件に係る主張は、審判所が如何なるレトリックを駆使して庇おうと、不適法な更正処分、これによる違法な課税、それに対する法定された手続に則って請求人がした不服申立を、実質的に、再調査することもなく放置し、その「決定」を意図的(故意)に引き延ばした結果、納税者の権利である「更正の請求をすることができる期間」を徒過させたことは動かし難い事実です。審判所を含む租税行政庁が、「更正の請求をすることができる期間を経過している」と、論点をすり替え、詭弁を弄している事実等は、決して、国民(請求人を含む納税者)が支持するものではないことを強調するものです。(つづく)

文責(G.K

 

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