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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その18)

2023/08/15
裁決書の18頁から19頁にかけて、「至平成27年3月各更正請求は、請求人が、原処分庁に対し、通則法第56条第1項に規定する還付金等を金銭で還付する義務を履行するよう求めた結果、原処分庁の面接担当者から更正請求書の提出を要請されたために提出したものであるにもかかわらず、法定申告期限から5年を経過していることを理由とした本件各通知処分がされたことは、信義則に違反している旨主張する。」「しかしながら、至平成27年3月各更正請求に対応する各事業年度等の税額の還付を請求するための手続は、通則法第23条第2項に規定する更正の請求によるほかないことから、原処分庁の面接担当者が請求人に対し更正の請求手続を説明することは一般的なことであり、また、仮に更正の請求をしたとしても、その請求のとおり更正されるかどうかは通則法第23条第4項の規定に基づく調査によって決まることからすれば、本件各通知処分が信義則に違反して行われたとは認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。」との記載があります。

而して審判所は、「原処分庁の担当者が請求人に対し更正の請求手続を説明することは一般的なことであ」るとして、ここでも論点のすり替えを行って租税行政庁の責任を回避すべく、欺瞞に満ちた言い逃れの主張を繰り返し(詐術を駆使)、誤った判断を導いています。再度触れますが、審判所が主張する上記の論理が成立する前提条件は、飽くまでも納税者側の一般的・自発的な「更正の請求」及びその後の税額の還付を請求するための手続を対象とする場合であって、本件のように租税行政庁(国税局査察部及び原処分庁)が故意に虚偽の事実関係を作出し、不正、不当な法の解釈・適用に基づき更正処分を行って徴税(予納額を充当)した場合の還付を対象とするものではないのです(2023/06/29税務コラム)。

確認しておきたいのは、請求人は、原処分庁が更正の請求手続を説明したこと自体に違法性があると言っているのではなく、通則法56条1項の適用を受けるべき納税者がそれを求めたのに対し、租税行政庁の都合(札幌国税局が告発した別件の租税法違反被告事件の札幌地裁判決の維持目的か?)(2023/04/01税務コラム)による強制的行政指導として、しかも、後に5年の期間制限の経過を理由に認められないと自らが主張することが予定されていながら、請求人に更正の請求手続を行わしめたことが信義則に違反していると主張しているのです。審判所は、租税行政庁の当該主張及び以下の認定の前提となる事実を誤って認識して判断をしており(故意性が強く疑われる)、落ち度があるのは租税行政庁の方であり、請求人に幾分なりとも責があって原処分庁に赴いたものではありません。

原処分庁が、悪意による外注費の否認(2022/11/01税務コラム)、虚偽主張に基づく売上除外(2023/07/13税務コラム)及び悪意による相殺の二重計上(2022/11/01税務コラム)等を認定しているようなケースで、売上に係る法人税額及び消費税額として予納額から充当しているような場合、前回にも触れているとおり、当該充当額は「誤納金である公法上の金銭請求権が既に存在する場合」に該当すると考えられることから、通則法56条1項の規定に則って、当該充当額を金銭で還付する義務を履行するよう原処分庁に求めていたのが実態です。請求人によるこの履行の求めに対し、原処分庁審理担当者が、「本件は査察案件であり、当署に資料等が存在しないので、請求人から『更正の請求』を行うように」との趣旨の強制的指示(誤導)をしていた事実については、これまでにも詳述しているので触れるに止めます。

そうすると、上に見るような審判所を含む租税行政庁の「…税額の還付を請求するための手続は、通則法第23条第2項に規定する更正の請求によるほかないことから、原処分庁の面接担当者が請求人に対し更正の請求手続を説明することは一般的なことであ」るとの弁解ないし釈明は、租税行政庁としての責任を回避せんがため論点をすり替える全くの詭弁に過ぎないことが明らかです。したがって、原処分庁審理担当者が、請求人の請求が認められず、また、棄却裁決が出されることが想定されることを予め認識していながら、悪意で、通則法23条2項1号に該当することを理由とする更正の請求を行うよう強制的誤導を行い、後日の当該請求に対する「更正の請求ができる期間を経過している」とする主張は、明白な信義則違反となることは言うまでもないことであり、これまでにも繰り返し述べているとおりです。

続いて、裁決書の19頁(4)争点2(至平成27年3月各更正請求は、通則法第23条第2項第1号括弧書に規定する『判決と同一の効力を有する和解その他の行為』により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当するか否か。)について見てみたいと思います。審判所は、イ「検討」として、「…通則法第23条第2項第1号括弧書に規定する判決と同一の効力を有する和解その他の行為の『その他の行為』とは、調書に記載することにより判決と同一の効力を有するものを意味すると解されるところ、本件先行裁決は、国税不服審判所長がいずれも行政処分たる本件青色取消処分及び本件各更正処分等の違法の有無に関して判断を示したものであり、判決と同一の効力を有するものには該当しない。」「したがって、至平成27年3月各更正の請求は、通則法第23条第2項第1号括弧書に規定する『判決と同一の効力を有する和解その他の行為』により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当しない。」との判断をしています。

これについても、前々回に詳述しており、その不足部分を若干敷衍するとすれば、この判断は、先行裁決を引き合いに出し、恰も審判所の判断には誤りがないであろうとばかりの言い回しをしています。しかしながら、原処分庁の判断には、数多くの誤謬や瑕疵があり、とりわけ青色取消処分において、請求人が、司法判断としての裁判例(大阪地裁昭和50年5月9日判決)を示して繰り返しその違法性を指摘し、それらの是正を求めていましたが、原処分庁は一切の反論をせず放置していたことから、原処分庁は、それらの誤りを認めていたものと推定されます。審判所はと言えば、「本件青色取消処分」と「本件各更正処分等」とを一括りにして、その中に「その他の行為」についての解釈をも含め、「国税不服審判所長がいずれも行政処分たる本件青色取消処分及び本件各更正処分等の違法の有無に関して判断を示した」ものとし、その判断に違法性はないとしていますが、判断に至る前提に誤りがあることから、導出された判断は当然ながら違法性が存在することになります。

一方、裁判司法は、審判所が示している「調書に記載することにより判決と同一の効力を有するものとの」文言を補って通則法23条2項1号括弧書の規定を解釈することにつき、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな」いとの判断を示しています(最高裁平成22年3月2日ホステス報酬事件判決)。また、この他にも原処分庁の判断には数多くの誤謬や瑕疵があったにも拘らず、審判所は、それらを吟味、検討することなく自らの認定事実としていたことから、結果的に、原処分庁が請求人に対して国税・地方税を合わせ約2,300万円もの額の還付を行うことを認めざるを得なかった事実は、前々回に触れたとおりであり、審判所の判断には大なる疑問符が付くものとなっているのです。

再論ながら、審判所は、本審査請求の本質が、原処分庁が不正な更正処分を行って、徴収した不法な税額の請求人への還付及び還付手続として更正の請求を指示(誤導)したことの当否並びに誤導した更正の請求手続の期間制限として通則法が規定する5年間が確保されていたか否かこそを本来の争点となすべきであり、それらについて判断すべきであることを認識しなければなりません。審判所は、争点を、単なる主観で、「初めに結論ありき」に沿って租税行政庁にとって有利な判断を示す意図をもって敢えて争点をずらし、すり替えて、自らにとって都合のよい「争点」とし、これについての判断を示していることは、再三、当税務コラムで指摘しているところです。これでは、「自分で作った問題に自分で解答する」ないしは「解答(裁決)に合わせて問題(争点)を作る」のと同様であり、公正性及び客観性は全く担保されず、「判決と同一の効力を有する和解その他の行為か否か」の判断をするまでもなく、審判所の判断(裁決)は、その前提としての信頼性、真実性を欠くものであり、納税者(国民)に受け容れられるものではありません。

仮に、この考え方を採らないとしても、裁決は、審査請求人及び参加人を拘束する効力を有するだけでなく、広く関係行政庁をも拘束する租税法領域における行政庁の覊束行為であること及び同様に租税行政庁の紛争裁断行為である点で、通則法23条2項1号括弧書に規定する「判決と同一の効力を有する和解その他の行為」と類似の効力を有する行為と考えられます。したがって、これらの点を「更正の請求」についてみれば、通則法23条1項の規定によりその請求ができることは勿論のこと、先行裁決が示されたことにより、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当し、同条2項1号の規定によってもその請求をすることができると当然に判断されるところです。(つづく)
文責(G.K)

 

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