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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その20)

2023/09/12

(前回の続き)

請求人は、原処分庁が売上計上漏れに係る確たる根拠(証拠)の開示を求めても示さない中にあってさえも、自らが収集した原処分庁の当該売上計上漏れに係る誤処理の額及びその根拠たる帳簿、資料等の証拠書類等を提出して説明しているにも拘らず、原処分庁は、「増額計上した金額の内訳に本件売上認定額が含まれていることが確認できない」との保身的で非合理な主張を繰り返したり自ら積み上げた真実性に疑問のある金額の総合を示すのみで、いずれも信憑性に疑問のある不公正な説明、不合理な主張をするばかりでした。ここで、再度確認したいのは、本件売上認定額の一次的な立証責任ないし説明責任は租税行政庁側にあって、納税者(請求人)側にないと言うことです。そして、本件審査請求事案で審判所が審理、判断すべきは大要、以下の2つについてであり、租税行政庁に有利な判断(裁決)を示すべく、徒に審理の焦点となるべく争点を拡散、不明瞭にしてずらすべきではありません。

 

すなわち、請求人(代理人)は、ここまで累度にわたって述べてきたとおり、原処分庁が行った上記に係る当初更正処分において、課税標準等の認定の誤り及び税額過大等の計算の誤りがあまりにも多数存在していたところから、原処分庁(税務署長)宛に職権による更正をするよう求めていました。これに対して原処分庁は、国税局マターなので当署には資料等が存在しないとの理由で、請求人から更正の請求をするよう強く求められ、結局、これに応じざるを得ず、その更正の請求をしたところ、売上の一部である約5,300万円については誤りを認め、これに係る税額約2,400万円(地方税を含む)を納税者に還付したものの、その他については更正をすべきと認められない旨の通知(処分)を行いました。その時の原処分庁による、いわゆる「理由なし通知処分」の理由として、原処分庁は大要、次の2つを挙げているのです。なお、当該更正をすべきと認められない旨の通知処分に対してその処分の取り消しを求めているのが、本件審査請求事案です。

 

上記2つの理由のうちの1つとして、原処分庁は、当該更正の請求は通則法23条1項1号に規定している更正の請求を行うことができる期限(法定申告期限から5年)を経過しており、当該更正の請求の一部を除き、その他については、更正をすべき理由があるとは認められないこと。また、その2つとして、同条第2項1号にも該当しないことから、「本件給与手当の過大計上額」である35,435,232円についても、その更正をすべき理由があるとは認められないとするものです。これらのうちの1についての、法定申告期限から5年の経過の意味、内容についての反論は、本税務コラムその15において詳述しており、また、その2としての本件給与手当の過大計上額については、審判所として、租税行政庁の「不都合な事実」をできるだけ不明瞭にして不公正性ないし違法性としての請求人(納税者=国民)に与える衝撃を弱めようと企図したのか、それまで「本件給与手当の過大計上額」としていたものを「本件先行裁決後過大計上額」と、一見して何を審理しているか理解不能な表現に敢えて変更しています。ここでも審判所は租税行政庁にとって有利な判断を示す意図をもって、恣意的に本来の論点をずらし、ないしはすり替える試みを顕在化させているように思われます。ともあれ、「本件給与手当の過大計上額」の驚くべき真実(実態)については、本税務コラム「国税不服審判所の役割とその存在意義 その20」(2021/10/15掲載)以降において詳述しているところです。

 

重複して恐縮ながら、そもそも、本件については、原処分庁が職権で事実認定の誤りや税額を訂正すべきところ、原処分庁の都合で請求人をして更正の請求を行わしめたもので、その際には、通則法23条1項1号の理由では5年の時効を経過しているので難しい(受理できない)と原処分庁の審理専門官は請求人(代理人)に言い伝えていたものです。このことから、請求人は、その助言の趣旨に従って、主位的には通則法23条2項1号としつつも、予備的に同条1項1号に該当する旨を記載しており、既にこれについては検討しているとおり、通則法23条2項1号に該当することはもとより、仮に、これに該当しないと判断される場合であっても、曩に述べた、「法律上の障害」により、同条1項1号に該当するものと考えられます(2023/06/29掲載当税務コラムその15参照)。

 

序ながら、審判所がした当初更正処分の給与手当の過大計上額についての「僅かな額」の取り消しも、審判所が、当該給与手当の過大計上額の計算誤りを発見して取り消したのではなく、本件当初更正処分に先立つ税務調査後の行政指導の一環として原処分庁を含む当局と請求人の関与税理士との打ち合わせを通して決定されていた金額を原処分庁が転記ミスをした部分を訂正したに過ぎません。また、審判所を含む租税行政庁が、請求人による給与手当の過大計上額と主張しているものには、既に触れて検証しているように、租税行政庁側に重大な認定誤りが存在しているところ、それを請求人の非違事項という形に矮小化しようと企図しており、租税正義に反するばかりか、関係法令に違反するものであり、国家の一機関としてのなすべき行為ではありません。

 

と言うのも、本件は、原処分庁によって、事実に基づくことなく、根拠も明確にしないまま、売上先に渡す「裏金」から「架空給与」へとその主張をコロコロと変えた挙句に、「給与手当の過大計上額」と認定したものを、最終的には交際費に振り替えられています。こうすることで、課税庁(原処分庁)と納税者(請求人)間の「裏金」、「工作資金」、「架空給与」をめぐる根拠不明の不毛な争いを一旦、終息させるとともに、交際費等の損金不算入規定(措置法61条の4第2項2号)により、当該交際費(給与手当の過大計上額)は損金不算入となってしまいます。原処分庁にとっては、将に一石二鳥の効果として評価されることにはなりますが、請求人にとっては、この争いの本質が、何ら解決したことにはなりません。また、交際費とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のための支出を指すことから、本件支出はこれに該当せず、原処分庁の交際費認定には疑問があります。

 

審判所は、これを更に、「本件先行裁決後過大計上額」と不明瞭な表示に敢えて変更し、一見して審理対象が何であるかが理解不能な表示にしました。然してその金員の実態は、既に論説しているとおり、個人としてのA氏(若しくはA氏夫妻)が出捐した「販促費の性格を有する売上先の現場責任者への貸付金」であり、貸付の段階では、請求人(法人)の収支には関係しないものです。一方で、当該貸付金の回収段階は、売上先から請求人の売上に上乗せして口座振り込みをする形式で返済され、その分を請求人からは二次下請である関係法人のS社への外注費に上乗せして振り込みされており、S社はその上乗せ分の源泉徴収をした上で職長等の現場責任者の給与に上乗せして支給した後、当該上乗せ分はA氏に手渡しする形で返済されており、このスキームを提案した当時の関与税理士のI氏がそれについての処理を誤ったものです。

 

これについては、平成2711月札幌国税局査察第3部門総括主査YM氏及び主査TK氏らの行政指導にも大きな問題(誤り)があったと考えられます。すなわち、本来、当該上乗せ分は、請求人及び関係法人の売上とは関係なくA氏個人が受取るべき金員であるにも拘らず、受け取り段階で、関係法人の現場責任者の給与の上乗せ分(源泉徴収分を納付した上で)を個人(A氏)が回収する形式が採られていて、それを上記国税局査察第3部門の総括主査YM氏及び主査TK氏が、行政指導の一環として認識、承知していたからです。

 

すなわち、原処分庁は、当該金員を請求人の「裏金の支出」、「架空給与の支給」、「給与手当の過大計上額」などと、強引に法人(請求人)に関係付けし、一旦、決着させたA氏個人由来の「貸付金」を、再度、強引に法人(請求人)の偽りその他不正の行為に結び付けて、法人の悪質性を作出、捏造することによって、当時の代表取締役であったA氏に無用の誤解と強迫観念を与えました。結局、A氏は言われるままに個人の金員3,100万円を平成271214日から平成28年1月20日までの期間で、関係法人であるS社宛に強制的に振込入金、残額はA氏のS社に対する貸付金を減額することで清算させられ、決着が図られていたものです。

 

然るに、原処分庁は、令和1年10月7日付でS社とは法人格の異なる請求人に対する当初更正処分に先立って、請求人としての給与手当の過大計上問題(請求人とS社との法人格の相違、出捐された金員の所有者は請求人か個人か、回収段階での売上ではない返済金の入金の処理、課税問題等々)を有耶無耶にしたまま、強制的に振込入金させて決着を図っていた当該「販促費の性格を有する売上先の現場責任者への貸付金」と同額を、再度、「給与手当の過大計上額」から交際費に振り替えて請求人に課税したのです(これは原処分庁による詐欺行為とも評価されます)。そして、この「不都合な事実」を隠蔽すべく、審判所も「本件先行裁決後過大計上額」と更に極めて不明瞭な用語に置き換えて、事実上、当該隠蔽工作ないし詐欺行為に加担しているのです。

 

しかも、原処分庁は、その業務を継続し、現在も法人自体が存続している、原処分庁が関係法人と呼称しているS社の進行事業年度の業績を、一方的に、何らの合理的理由、証拠及び具体的な法的根拠等を明示することなく、請求人の決算期(3月)に合わせて、期中で区切り(S社の決算期1月)、そのうちの収益部分のみを、同法人には実体がないとの将に課税をするためだけの論理で請求人の計算と看做し、費用・損失部分はS社にそのまま残した上で、調査終了時の不利益処分に係る何らの説明(通則法74条の11第2項)もしないまま当初更正処分を令和110月7日付で請求人宛に行っているのです。こうした行為は、単純な誤りとしては見過ごすことのできない、重大な違法行為であり、確信的意思を伴う、許されざる公権力の誤用、濫用であり、憲法の規定及びそこから導かれる租税法領域の二大重要原則である租税法律主義及び租税平等主義の理念とも相容れぬ、国家の機関による犯罪行為とも評価されます。(つづく)

 文責(G.K

 

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