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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その21)

2023/09/29

(前回の続き)

この情況下にあって、猶も「合理的な理由は認められ」ないとする原処分庁の主張及びそれを追認する審判所の判断は、極めて不合理であり、当該裁決には疑問があると言えます。本件当初更正処分に先立つ請求人の税務調査において、法的根拠を明らかにすることなく、原処分庁は、自らが関係法人と呼称するS社の一定期間(2ヶ月間)の取引を請求人の取引に引き直した上で、当時の請求人の代表取締役であったA氏に対する過大な給与との認定の下に同氏個人の金員を強制的にS社に戻し入れさせています。そうすることで、原処分庁は、当該給与手当の過大計上額の問題についての決着を図り、幕引きをしていたのです。それにも拘らず、原処分庁は、その給与手当の過大計上相当額と認定していた約3,550万円を再度当初更正処分の対象として請求人の法人所得の金額に加算、二重課税ないし二度課税をしていたのです。

 

これに対し、審判所は、「本件過大計上額は、令和元年10月7日付の更正処分によって、本件過大計上額と同額が接待交際費の計上漏れとして損金の額に算入され、さらに交際費等の損金不算入の計算により同額が損金の額に算入されないとして、本件先行裁決によって、本件先行裁決後過大計上額として確定している」としており、ここでも審判所は、租税行政庁ぐるみで虚偽主張を展開することで、敢えて争いの本質からは、ずれた論点(争点)についての判断を示しているのです。この問題の本質は、上記にも触れた、札幌国税局査察部査察第3部門総括主査YM氏及び主査AK氏らが主導して、一旦A氏に対する過大な給与として同氏の金員を強制的にS社に戻し入れさせることで、一方的かつ恣意的な幕引きを図っていた給与手当の過大計上額の問題(本コラムその13参照)を、再度、当初更正処分に係る課税対象として俎上に上げ、請求人の法人所得の金額に加算したことにあるのです(事実の詳細は、税務コラム「国税不服審判所の役割とその存在意義 その19212021/10/0525掲載を参照)。

 

この事実の証拠として、S社の預金通帳のコピーを提出して、A氏に戻入させることで決着が図られていた上記の給与手当の過大計上の問題の実態を具体的かつ詳細に説明しているにも拘らず、「本件先行裁決後過大計上額を請求人の平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算すべき理由となる事実は確認できない」などとしている審判所の主張は、審判所を含めた租税行政庁が租税の分野に警察権、検察権及び裁判権という3つの権力があるとすれば、それらの全てを掌握して、濫用しているように見えます。いかなる法的根拠の欠落、欠如を納税者(国民)が指摘しようとも、どんな証拠を提示しようとも、一顧だにすることもなく、極めて恣意的な判断としての「請求人の主張には理由がない」を繰り返すばかりです。権力を1つの機関に集中すれば、濫用される虞があるため、3つの権力が互いに抑制し、牽制し合って均衡を保つことによって権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由(財産)を保障しようとする考え方を三権分立と言い、最高法規としての日本国憲法もこの考え方を採用しています。 

 

審判所は、曩に「裁決は判決と同一の効力を有さず、当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当しない」と強弁したばかりですが、ここでは、「本件先行裁決によって、本件先行裁決後過大計上額として確定している」とするなど、その主張は首尾一貫せず、変遷するばかりです。また、本件法人税額等及び消費税等の当初更正処分に係る審査請求の裁決において、「原処分庁の事実認定には誤りがなく、請求人が提出した証拠資料等によっても、それを不相当とする理由は認められない」との当初更正処分に係る審査請求の裁決をしていましたが、実際には、多くの事実認定の誤りや計算誤りがあったのは事実です。そこで請求人は、札幌国税不服審判所管理課長S氏に確認を取ると共に、その指示の下、原処分庁に還付のための、職権による更正の手続を行うよう申立てを行っています。

 

結局、この職権による更正の手続については、これまでにも累度に渡って述べてきたとおり、原処分庁は、札幌国税局査察部による調査に係る資料等が存在しないことを理由に、強制的指示によって請求人による更正の請求を行わしめ、それを経て審査請求をしている事実が、その誤りの事実を雄弁に物語っています。そして、請求人による更正の請求のうちの一部については、(単なる計算誤りでは済まされない額、約5,300万円の誤りを認めて)原処分庁は、平成28年3月期の請求人の所得金額からその額相当分を減算、それに対応する約2,400万円(地方税を含む)の還付処理をしているところです。しかしながら、それ以外の大半の更正の請求については、審判所は「審査請求を棄却する」との裁決をしており、本件更正の請求につき、適正、適法な審理をしていたかが極めて疑問に思われるところです。

 

また、裁決書は、「請求人の売上げについて、…当該借方計上額より多い金額を貸方に計上していることが認められる。」としていますが、請求人が、更正の請求をする理由の基礎となる事実を証明する書類等を添付して提出しているからこそ、そのことが認識されるのであり、審判所の「当該増額計上した金額の内訳に本件売上認定額が含まれていることが確認できる帳簿書類等は存在せず、当審判所に提出された証拠資料等によっても…確認できない」との主張は、そもそも論理矛盾であり、虚偽主張(判断)です。仮に、請求人が提出した証拠資料等によって「請求人の売上げについて、…当該借方計上額より多い金額を貸方に計上していることが認められ」、請求人が提出した帳簿書類等の証拠によって、「本件売上認定額が請求人の平成28年3月期の総勘定元帳の売上科目に計上され、益金の額に算入されている事実は確認できない」と言うのであれば、それは、審判所の審理、調査スキルの未熟さを示すものに他ならず、請求人(納税者)に対する詭弁というよりむしろ、詐術を平然と用いようとするものとしか受け止めることができず、審判所の存在意義が大きく問われる事態と言えます。

 

再三に渡って触れますが、納税者(請求人)の立証責任に関して、前国税不服審判所長の東亜由美氏は、昭和45年当時の吉國二郎国税庁長官の国会での発言を引用して「納税者の不服を中心に審理」し、「行政のあり方を迅速に見直」し、「当時この証拠でこの課税をしてよかったかということを見ていく」とする国税不服審判所の使命と事務運営方針を明らかにしています(「国税不服申立制度について」『税研』2021年1月Vol.36-No.5)。このことからも、自らは法を無視し、その主張、判断に詭弁を弄する札幌国税不服審判所の裁決は、その本部の運営方針ないし考え方とは明らかに乖離があり、二元的運営をしている疑いを強く抱かせるものです。

 

次に裁決書の20頁から21頁中段にかけて、「ロ請求人の主張について」として、「請求人は、I税理士が採用していた会計処理によれば、売掛金残高が存在する限り、売上計上漏れは論理上及び会計上もあり得ないため、本件売上認定額は平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算すべきであり、また、請求人は原処分庁に対し、本件売上認定額について、令和3年6月9日、同月15日、同月18日、同月30日、同年7月5日及び同月9日にわたり説明資料を持参し、詳細な説明を行ったが、原処分庁の担当者が説明を理解しなかった旨主張する。しかしながら、請求人の主張する売上げを増額計上した金額の内訳に本件売上認定額が含まれていることを確認できる帳簿書類等が存在せず、また、上記説明資料について、当審判所が調査したところによっても、本件売上認定額が請求人の平成28年3月期の益金の額に算入されていることを証明する書類とは認められない。したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。」との記載が見られます。

 

しかしながら、上記主張に係る事実は、請求人は元帳の売上勘定の頁を複写して提出し、このうちから平成26年8月分の売上げを例示して、「8月31日付で6,200,424円と140,447,075円を計上し、同年9月1日付で140,447,075円を減額し、同日付で146,640,272円を計上していること及び更に831日付で一旦計上した6,200,424円についても、9月1日付で同額を減額した上で同額を再計上しており、結果として、8月分の売上は、140,447,075円と146,640,272円との差額の6,193,197円を実質的に増額させており、I税理士は、このような変則的期中現金主義による会計方式を採用することで、売掛金の入金及び相殺により総勘定元帳の売掛金残高が不足すると、売上を計上することで売掛金残高を整合させており、このような会計処理を常態化させていた」こと等を含め元帳全体にわたって詳細な説明をしていたものです。

 

なお、I税理士によるこの会計処理方式は、原処分庁の請求人に対するそれまで数度に渡る税務調査によっても把握されていたのであり、当該会計処理方式を使用することに問題があると言うのであれば、その時点で、原処分庁として指摘するとともに是正を求める行政指導をすべきであり、それを怠っていた原処分庁に、当然、責任の一端はあると考えられます。因みに、原処分庁が外注費の過大計上として認定している外注費と売上(売掛金)の相殺分(4,131,327円)は、前々回も触れたHK査察官もその供述で認めているように、上記の実質的に増額された6,193,197円の中に含まれていることになります。

 

この他、例えば、平成27年9月25日の総勘定元帳の売掛金には、E社以下N社まで13件の相殺が二度計上されていますが、その相手方勘定である外注費も二度計上されています。つまり、売掛金を相殺するには、相手勘定としての売上の存在を必然とし、必然的に売上も二度計上されている(売掛金が不足すれば、売掛金/売上を計上して調整している)ことを意味し、損益及び消費税には影響しません。よって、原処分庁主張の外注費の過大計上額及び外注費の二重計上として、それらを請求人の所得額に加算している原処分庁の処理を追認している審判所の判断は誤りと言えます。(つづく)

文責(G.K

 

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