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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その22)

2023/10/14

(前回の続き)

また、審判所の「ロ請求人の主張について」に係る前段の主張は、例にたがわず「初めに結論ありき」のその「結論」に結び付けるべく、請求人の主張のニュアンスを、敢えて微妙にすり替えています。すなわち、「売掛金残高が存在する限り、売上計上漏れは論理上及び会計上もあり得ない」のは、何もI税理士が採用していた「変則的期中現金主義」による会計処理方式のためだけではなく、(簿記)会計の分野はもとより、広く一般常識としても認知されている論理、すなわち「公理」とも言えるもので何もこの会計処理方式に特異な概念ではないのです。それ故に、原処分庁は、本件事案の直前までの請求人に対する数度の税務調査においても、その会計処理方式をも含めた調査結果全体を是認してきていたもので、その主張は全く筋が通らないものです。

 

後段の表記については、請求人が、そのことを原処分庁担当者及び審査請求の段階に移ってからは審理担当者らに理解しやすいような資料を示して累度にわたって説明してきているのは、これまでにも述べているとおりです。しかしながら、審判所を含む租税行政庁自らは、真っ当で筋が通りかつ根拠に基づいた挙証責任ないし説明責任を果たさない一方で、請求人に対しては、「本件売上認定額が含まれていることを確認できる帳簿書類等が存在せず、また、上記説明資料について、当審判所が調査したところによっても、本件売上認定額が請求人の平成28年3月期の益金の額に算入されていることを証明する書類とは認められない」などと詭弁を弄し、その責任を請求人に転嫁しておよそ反論にもならない論拠のない主張をしているのです。これこそが、「納税者の不服を中心に審理し、行政のあり方を迅速に見直し、当時この証拠でこの課税をしてよかったかということを見ていく」とする国税不服審判所(本部)の使命並びに事務運営方針とは遠くかけ離れた、札幌国税不服審判所による二元的運営の実態と言うべきものです。

 

続いて裁決書は、21(6)争点4(本件先行裁決後過大計上額は、平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算できるか否か。)についてのイ検討として、「本件過大計上額は、請求人の平成27年3月期の法人税の所得の金額の計算において、令和元年10月7日付の更正処分によって、本件過大計上額と同額が接待交際費の計上漏れとして損金の額に算入され、さらに交際費等の損金不算入の計算により同額が損金の額に算入されないとし、本件先行裁決によってその一部が取り消された上で、本件先行裁決後過大計上額として確定している。すなわち、本件先行裁決後過大計上額は、請求人が主張するような『販促費の性格を有する売上先の現場責任者への貸付金』ではなく、請求人が支出した接待交際費に該当するものであり、交際費等の損金不算入として請求人の法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入されない旨確定したものであるから、平成271214日から平成28年1月20日までの期間にS社名義とされる普通預金口座宛に合計3,100万円の入金があった事実が認められるとしても、そのことが請求人の平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算する合理的な理由とはならない。その他、当審判所に提出された証拠資料等によっても、本件先行裁決後過大計上額を請求人の平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算すべき理由となる事実は確認できない。したがって、本件先行裁決後過大計上額を請求人の平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算することはできない。」と記載しています。

 

しかしながら、これまでにも触れたように、原処分庁は、「本件過大計上額」を売上先に渡す「裏金」、「工作資金」、「架空給与」、「受注工作資金を捻出するための支給事実のない架空の賃金」から「接待交際費」とその主張を転々と変遷させてきたものを、審判所は裁決をするに当たって、原処分庁の当該判断に係るそれらの主張の「瑕疵」を被覆して更に当該事案の本質を隠蔽、判り難くさせる意図をもって「本件先行裁決後過大計上額」とした理由(事実)について、審判所として何らの説明をしていないのは何故なのでしょうか?請求人が示した証拠に反証を提示することもなく「現場責任者への貸付金」ではないと判断するその根拠(証拠)は何なのでしょうか?審判所は、原処分庁の一方的な主張なり処理を、唯々諾々と受け容れ、追認して「お墨付き」を与えるだけの機関なのでしょうか?仮にそうだとすると、「本件売上先の現場責任者への貸付金」が原処分庁による「本件過大給与手当」と虚偽認定され、更に上記の変遷を経た末、最終的には、審判所によって、請求人(納税者)が一見して理解不能な、「本件先行裁決後過大計上額」との文言を駆使して示されている本裁決も、根拠を明らかにできない原処分庁の判断と同一線上にあると思われるところです。

 

そうでないなら、審判所は、札幌国税局査察第3部門の役職職員の行政指導により、A氏個人の金員をS社名義の普通預金口座に振り込みさせた事実(理由)をどう認識し、何と説明するのでしょうか?当局の厳格、かつ強制的な指示、指導なくして、また、当時のS社には残高不足等の事実(要因)もないにも拘らず、A氏が勝手に3,100万円という大金を歳末の個人の現金需要期に請求人とは法人格の異なる二次下請法人に振り込んだと言うのでしょうか?その辺りの説明は、一体、どうしたのでしょうか?審判所は、そんな非論理かつ不合理な判断を示すに当たって、「3,100万円の入金があった事実が認められるとしても、そのことが請求人の平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算する合理的な理由とはならない」として、論点を逸らし、すり替えて、請求人(代理人を含めて)を見下した如くの、審判所として非常識、不適切極まる裁決をしているのです。

 

何と言っても、審判所による最大の論点(争点)のすり替えは、ここまでに触れてきているとおり、明らかに租税行政庁に幾重にも及ぶ計算誤り、租税手続法他、関連法令違反等の事実から視点を他に向けさせ、自らに都合のいい裁決を示すべく徒に議論を拡散し、論点を逸らし、本来審理すべき争点を暈していることです。原処分庁が「本件更正をすべきと認められない旨の通知処分」において主張したのは、「当該更正の請求は通則法23条2項1号に該当せず、また、更正の請求を行うことができる期限(法定申告期限から5年)を経過しており、当該更正の請求の一部を除くその他については、更正をすべき理由があるとは認められない」としているのです(詳細は、税務コラム「更正をすべきと認められない旨の通知処分に対する審査請求について その1」2022/04/22掲載を参照のこと)。

 

このことから、審判所としての本件審査請求の審理対象は、本来、①当該更正の請求は、通則法23条2項1号に該当するか否か、②当該更正の請求は、更正の請求を行うことができる期限(法定申告期限から5年)を経過しているか否かの2点なのです。したがって、審判所としては、これら2点についての判断を示せば足り、徒に議論の焦点(争点)を拡散し、租税行政庁による重大な租税関連法令違反の事実を請求人の責任に転嫁し、矮小化することがあってはなりません。審判所を含む租税行政庁が、請求人による「本件給与手当の過大計上額」と主張しているものの実態は、租税行政庁側の重大な認定誤りであり、これを請求人の非違行為に転換し、その責任を転嫁しようとする行為は、租税正義に反するばかりか、法令に違反するものです。そのような審判所を含む租税行政庁の判断(行為)を納税者(国民)の誰が納得し、支持すると言うのでしょうか?

 

「本件売上先の現場責任者への貸付金」に係る認識及び違法性について再論すれば、原処分庁は、当該金員を請求人の「裏金の支出」、「架空給与の支給」、「給与手当の過大計上額」などと、強引に法人(請求人)に関係付けし、一旦、決着させたA氏個人由来の「貸付金」を、再度、強引に法人(請求人)の偽りその他不正の行為に結び付けて、法人の悪質性を作出、捏造することによって、当時の請求人の代表取締役であったA氏に誤解と強迫観念を与えました。結局、A氏が、言われるままに3,100万円を平成271214日から平成28120日までの期間に関係法人とされているS社宛に強制的に振込入金、清算させられることで、決着が図られました。然るに、原処分庁は、令和1107日付で法人格の異なる請求人に対する当初更正処分に先立って、請求人としての給与手当の過大計上問題を強制的に振込入金させて決着を図っていた当該「販促費の性格を有する売上先の現場責任者への貸付金」と同額を、再度、「給与手当の過大計上額」から交際費に振り替えて請求人の所得として課税しています(これは原処分庁による詐欺行為とも評価されます)。そして、 審判所は、当該金員を「本件先行裁決後過大計上額」と、意図的に、判り難く暈した用語に変更した上で、原処分庁の当該詐欺行為を認容するとともに擁護する裁決をしていると思われます。

 

加えて、原処分庁は、法人の業務を現在も継続している関係法人とされるS社の進行事業年度を、何らの合理的理由、証拠ないし法的根拠を明示することもなく、一方的に、期中の2ヵ月分を区切り、そのうちの収益部分のみを、S法人には実体がないとして請求人の計算に引き直し、損失部分はS社にそのまま残すという、正に課税をするためだけの論理・理由で当初更正処分を令和1107日付で請求人に行っているのです。こうした租税行政庁の行為及びそれを追認している審判所の判断は、単純な誤りとしては見過ごすことのできない、重大な違法行為であり、確信的意思を伴う、許されざる公権力の誤用、濫用であり、憲法の規定及びそこから導かれる租税法領域の二大重要原則である租税法律主義及び租税平等主義の理念とも相容れぬ、国家の一機関による犯罪行為とも評価される行為です。国家の機関としてのなすべき行為ではないことを改めて触れて、審判所を含む租税行政庁に対する諫言としたいと思います。(つづく)

 文責(G.K

 

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