Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その23)

いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その23)

2023/10/30

(前回の続き)

関連を述べれば、当初更正処分の給与手当については、原処分庁が主張する更正通知書の別表3「総勘定元帳に計上している金額」と答弁書の表3-3「①給料手当勘定」とは使用されている用語、文言に相違がある上に、金額にも違いがあるにも拘らず、原処分庁、審判所の双方とも両者は「差額が等しく」問題はない旨を主張していました。しかしながら、それは処分をした租税行政庁側の言い分、言い逃れであって、本件のような不利益処分に係る租税争訟事案において、原処分庁が作成した更正通知書別表の金額と答弁書の別表に記載された金額及び用語が異なっていれば、両者の比較可能性は著しく阻害され、若しくは不可能となり、比較対照が困難、若しくは不能となることは明白、関係法令(行政手続法8条、14条1項及びこれを受けた国税通則法の運用)に抵触する虞すら考慮され、審判所を含む租税行政庁は、欺瞞的主張を単に強弁しているに過ぎないものでした。

 

それと言うのも、原処分庁は、更正通知書の別表3の計算誤り他を請求人から指摘され、その誤りを答弁書において密かに補正、修正したことを、請求人等に気付かれないよう、敢えて用語を変更、金額を修正してその事実が判り難いようにしたものと強く推定されたからです。すなわち、「総勘定元帳に計上している金額」を「給料手当勘定」とし、また、「給与明細一覧表の支給額」を「給与明細集計額」とし、そこに更正通知書別表3の「差額」に符合するそれぞれの金額に変更、修正して記載していたのです。この点で、原処分庁がする請求人による「架空給与」計上は、そもそも虚偽主張ないし虚偽記載であり、その正当性の証明はおろか疎明にもなり得ず、その立論の前提となる論理は破綻しており、審判所を含む租税行政庁に対する信頼性を大きく損ねるものだったからです。

 

審判所は、上記事案を含め、原処分庁がした法人税に関する計算の確認を怠って(誤って)いたこともさることながら、判断の前提となる認定事実を丸ごと原処分庁の作文に依拠し、その誤認定の文脈上で本件当初更正処分等の当否を判断していた点で、その裁決は論理必然的に誤りが存在するものでした。実際に5千万円を超える法人所得額の事実認定、計算に誤りがあったことから、既述しているとおり、原処分庁は、審判所の当時の管理課長S氏の承認、指示を得て、請求人に対し、強制的な要請をして更正の請求を行わしめた後、当該請求額の一部についてこれを自認し、結果として、地方税を含めて約2,400万円にも上る額を還付したのです。

 

しかしながら、上記還付分を除く、当該更正の請求のそれ以外の部分については、当該更正の請求と同一趣旨で、同一文脈上にある一連の法人所得額に係る事実の誤認定を基因とする法令解釈の誤り及び計算誤りに係る請求にも拘らず、原処分庁は、一部還付したものとそれ以外のものとの違いも明らかにすることができないまま、「更正すべき理由がない旨の通知」において、「①当該更正の請求は通則法23条2項1号に該当せず、また、②更正の請求を行うことができる期限(法定申告期限から5年)を経過しており、更正をすべき理由があるとは認められない」との理由による処分に出たところから、請求人は、審判所に対し当該処分に係る上記2点の取り消しを求めて本件審査請求をしたのは、ここまで累度に渡り述べているとおりです。

 

ところで、審判所は、本件裁決書の争点2の検討において、「判決と同一の効力を有するものには該当しない」と主張していました。しかしながら、この争点4の前段においては、「本件先行裁決によってその一部が取り消された(この表現は不正確であり、正しくは、原処分庁が合計額を間違って取り消し線を引いていた部分を削除しただけのもの)上で、本件先行裁決後過大計上額として確定している。」としており、そのことは、先行裁決が示されたことにより、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当し、通則法23条2項1号の規定によって更正の請求をすることができることを意味していると考えられます。因みに、通則法23条2項1号は、「判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき その確定した日の翌日から起算して二月以内であれば更正の請求をすることができる。」と規定しています。したがって、審判所の判断には、その立論過程における状況認識ないし認定事実及び法令解釈等に論理矛盾が存在し、その裁決は誤りと言う他ありません。

 

次に、本裁決書は、「令和元年10月7日付の更正処分によって、本件過大計上額と同額が接待交際費の計上漏れとして損金の額に算入され、さらに交際費等の損金不算入の計算により同額が損金の額に算入されないとし、本件先行裁決によってその一部が取り消された上で、本件先行裁決後過大計上額として確定している。」と記載しています。しかしながら、この表現、表記も審判所の当該判断(裁決)を示すに当たって、論点をすり替え、詭弁(詐術)を弄しているものと思われます。何故なら、「本件先行裁決後過大計上額」とされるものの本質については、このコラムで累度にわたって述べてきたとおり、当初、原処分庁(及び審判所)が「本件架空給与」であり、売上先に渡す「裏金」として認定していたものであり、その実態は、請求人の売上先の現場責任者からの要請に基づく「A氏又はA氏、C氏夫妻の個人的出捐による貸付金」であるとの証拠資料等を添付した主張に対して、原処分庁は、何らの具体的根拠(直接証拠)を示さないばかりか、答弁書等においても一切の反論をしていないにも拘わらず、審判所は、原処分庁に有利になると思われるような本裁決をしているからです。

 

因みに、令和元年10月7日付の原処分庁による更正通知書の減算項目の更正の理由によれば、「加算項目5の給与手当の過大計上額35,536,282円は、C氏がA氏から元請先に用立てるための資金を捻出するよう金額の指定を含めて指示を受け、当該金員をA氏に手渡した旨申述しており、A氏もC氏から当該金員を手渡しで受け取った後、取引先へ渡していた旨申述している事実から、受注工作費として元請先に支出した金額であると認められます。」との記載があります。他方、請求人(代理人)からの度重なる質問に対して、原処分庁は、過大計上額とされた35,536,282円の算定根拠及びそれが法人の資産か又は個人の資産かについての説明及び具体的根拠(直接証拠)を一切示すことができずにいたのです。

 

なお、給与手当の過大計上額とされた35,536,282円については、後に、代理人がA氏及びC氏から事実確認のための詳細な聞き取りをしたところによれば、「そのような申述はしていないし、また、金額についても、丸く区切りよい額で、35,536,282円などと端数の出る金額ではなく、調査対象期間である3年間を通して個人の金員を約2,000万円貸し付けた」旨を回答しており、原処分庁作成の質問てん末書にもその旨の記載が見られ、算定額との間には大きな開差があり、原処分庁の主張は非合理です。ともあれ、当該貸付金は、AC氏夫妻の固有資産を出捐した貸付であり、法人としての請求人の資産を流用しているものではないことから、法人税の更正処分の対象となるものではありません。原処分庁が指摘する当該金員の額が曖昧な上、その算定根拠及び帰属に係る直接証拠も一切示していないにも拘らず、審判所は、当該更正処分を是とする判断を示しており、法(憲法30条、84条、その他の関係法令等)と証拠に照らして当該裁決の正当性を疑うには十分な根拠があると言えます。

 

続く裁決書22頁「ロ 請求人の主張について」においては、「請求人は、本件過大請求額の実態は、A氏(又はA氏、C氏夫妻)個人が出捐した『販促費の性格を有する売上先の現場責任者への貸付金』であり、平成271214日から平成28年1月20日までの期間でS社宛に強制的に振込入金させられ、既に決着が図られていたのだから、もとより存在しないにもかかわらず、原処分庁は課税をしているのであり、原処分庁における法令無視、違反が明らかである当該違法課税は直ちに取り消されなければならず、本件先行裁決後過大計上額を平成28年3月期の法人税の所得の金額の計算上、減算すべきである旨主張する。しかしながら、本件過大計上額は、売上先の現場責任者への貸付金ではなく、接待交際費の計上漏れであることが確定していることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。」との記載が見られます。

 

この記載については、前回からここまでの争点4のイ検討で述べてきたとおり、審判所を含めた租税行政庁は、直接証拠を何ら示していないばかりか、その主張自体も矛盾しています。因みに、審判所は、法令により裁量権を行使できる行政行為について、その制度趣旨、目的及び判例等からみて、不合理な裁量権の行使であるか否かについて判断が可能な機関とされており、原処分庁の判断に引き摺られることなく、「税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて、納税者の正当な権利利益の 救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資することを使命とし、税務署長等と審査請求人との間に立つ公正な立場で審査請求事件を調査・審理して裁決独立した立場」で裁決を行うべきと考えられます。(つづく)

文責(G.K

 

金山会計事務所 ページの先頭へ