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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その24)

2023/11/15

(前回の続き)

次に裁決書22()「請求人のその他の主張について」は、「請求人は、本件各審査請求において、原処分の根本には本件青色取消処分及び本件各更正処分等があり、その理由付記、調査手続、調査手法、事実認定、計算等のほとんどの過程に瑕疵、誤り及び法令無視が見られ、それをなぞるように受け入れた本件先行裁決も随所に誤りがある旨主張する。しかしながら、本件においては、本件先行裁決により当審判所の判断が示されており、請求人は、本件青色取消処分及び本件各更正処分等の取消訴訟を提起しなかったのであるから、当審判所において当該判断内容を取り消したり、変更したりすることはできないため、請求人の上記主張は採用できない。」と表記しています。

 

しかしながら、請求人の本件青色取消処分及び本件各更正処分等に係る上記主張こそが、原処分庁と納税義務者間の争いの重要な論点の1つであり、その核心が、本来、審判所が判断を示さなければならない「争点」であったのです。ところが、審判所は、恣意的な争点を設定することで、審理過程において敢えてその論点をすり替え、原処分庁がした処分及びその後の請求人からの質問並びに善処の求めを一切無視してきたことの当否についての判断を、事実上、回避したのです。そして、今ここで、そのことすらも請求人に責任転嫁すべく、本件先行裁決に、原処分庁の本件青色取消処分及び本件各更正処分等に関して、「その理由付記、調査手続、調査手法、事実認定、計算等のほとんどの過程に瑕疵、誤り及び法令無視があり、それをそのまま受け入れて判断した本件先行裁決に誤りがあ」ったとしても、請求人が、それらについての「取消訴訟を提起しなかった」ので、「その主張は採用できない」としているのです。その裁決文自体に誤りがある訳ではありませんが、それ以前に、事ここに至るまで数年間もの租税行政庁側の不作為の事実につき、精査・検討し、そのような判断をしたのでしょうか?審査請求事案に取り組む審判所の態度・姿勢に根源的な問題があると言えるのではないでしょうか。

 

本件青色取消処分に関しては、本件先行裁決が出される以前、すなわち原処分庁から請求人宛に更正の通知書が届いた直後から、その手続的違法性や処分自体の違法性等に関しての説明を求めていましたが、悉く無視されたことから、再調査の請求を経て、審判所に審査請求をしていたのです。前回も述べたとおり、審判所は、「裁量権を行使できる行政行為について、その制度趣旨、目的及び判例等からみて、不合理な裁量権の行使であるか否かについて判断が可能な機関とされて」います。そうだとすれば、再三触れていることながら、審判所は、国税不服審判所の設立趣旨に立ち返り、原処分庁を含む租税行政庁の事情に引き摺られることなく、「税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて、納税者の正当な権利利益の 救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資することを使命とし、税務署長等と審査請求人との間に立つ公正な立場で審査請求事件を調査・審理して独立した立場」で裁決を行うべきと考えられるところです。

 

この税務コラムでこれまでに繰り返し述べてきており、大半が重複しますが、ここで、本件先行裁決の青色取消処分に係る経緯について、今一度、確認してみたいと思います。これまで請求人が主張してきている事実を総合して考慮すれば、請求人に、原処分庁が主張するような法人税法127 条1項3号に規定する青色申告の承認の取消事由及びその証拠は存在していません。原処分庁は、請求人からの不服申立て(再調査の請求)を受けた挙句に本件当初青色取消処分を取り消し、処分理由を追完してなした本件青色取消処分において、最高裁判例に違背していることを認めた上で、売上等の資料を差し替え再更正処分を行っています。これにつき、理由付記の不備をその不備のない再更正でやり直すことが可能か否かについて、学説、判例ともに理由付記の追完は認められないとすることに異論はなく、最高裁もそのことを繰り返し判示するところです。

 

本件青色取消処分において、原処分庁は法治国家の中枢機能を構成する租税行政庁にあって、最高裁判決ないし判例法理を遵守すべき立場にあることは言うまでもありません。そして、最高裁判決は単なる訓示規定に止まるものではなく、更正の理由付記に不備があればそれだけで更正処分は取消されるべきであることを確定させるものでもあります。それと言うのも、不利益処分(更正処分)の理由付記が不備である場合に、その追完が認められるとすれば、租税行政庁は更正処分では抽象的な理由を付記するに止め、納税者が再調査の請求等の不服申立や取消訴訟を提起した後に追完すればよいとの安易な態度に出ることが考えられ、また、処分時に完全な理由が示されないことにより、納税者に無用な負担を強いることにもなり、行政手続法14条1項の趣旨を没却することになるからです。

 

ともあれ、上記のように、原処分庁が主張する法人税法127 条1項3号に規定する青色申告の承認の取消事由及びその証拠が存在しなかったことから不服申立を行ったところ、原処分庁は、一旦当初処分を取り消した後、処分理由を差し替えて同日、再処分を行ったものです。ところが、当該再処分についても処分理由が判然とせず、請求人の問い合わせにも一切の回答がない(不作為であった)ことから、請求人の主張を認めたものと思われ、審判所に対しその確認を求めて(当初)審査請求を行っていたものです。その審査請求に対して審判所は、またしも、本来の審理すべき事項(争点)から離れ、請求人(代理人)からの意見書による指摘や求めにも拘らず、租税行政庁に有利な判断を導くべく恣意的な争点を設定し、それについての判断をしたのです。すなわち、審判所は、「解答(裁決)に合わせて問題(争点)を作成して」いたのです。先行裁決からの一連の法人税等及び消費税法等の審査請求事件における、納税者に有無を言わせぬ強引な、いわゆる「国策審理」が強く疑われるところです。

 

因みに、本件青色申告承認取消処分の通知書には、取り消しの基因となった事実を請求人が具体的に知り得る程度に特定して摘示しなければならないとされ、また、更正処分の通知書には、所得税法150条2項又は法人税法127条2項の規定の趣旨に鑑みて、その規定に違反した取消処分の瑕疵は、後日、再調査決定又は審査決定において処分の具体的根拠が示されたとしても、それにより治癒されるものではないと判断されています(最高裁昭和49年4月25日判決、税資75283頁)。

 

裁決書22頁から23頁の()「本件各通知処分の適法性について」において、審判所は、「至平成27年3月各更正請求は、通則法第23条第1項及び同条第2項に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。」としました。また、「本件売上認定額及び本件先行裁決後過大計上額は、平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算することができないから、平成28年3月期各更正請求は、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。」「そして、当審判所において、平成28年3月期の法人税の額、平成28年3月課税事業年度の地方法人税の額及び平成28年3月課税期間の消費税等の額を計算すると、本件各減額更正処分の額と同額となる。」「なお、本件各通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。」「したがって、本件各通知処分はいずれも適法である。」とし、()「結論」として本件「審査請求には理由がないから」いずれも棄却するとの裁決を示しています。

 

しかしながら、再三触れてきているとおり、一連の法人税等及び消費税法等の審査請求事件における先行裁決には、審判所の判断に明白な誤謬が存在していました。このことから、請求人の指摘を受けて令和3年3月17日、当時の札幌国税不服審判所管理課長S氏の了解(指示)の下、原処分庁である当時の札幌南税務署審理専門官のM氏と打ち合わせを行っています。すなわち審判所は、同氏をして、「当署には原処分に関する資料等が不存在であり、職権による還付手続き(更正)が困難であるとの理由で、請求人の側から更正の請求をして頂けませんか」との強制的要請を請求人(代理人)宛に行わしめているのです。これにより、原処分庁は、当該誤謬の一部の約5,400万円にも上る売上認定額についてこれを認め、これに係る税額約2,400万円(地方税を含む)を請求人に還付しているのです。

 

その一方で、その他の「本件各通知処分に係る本件各更正請求は、通則法第23条第1項及び同条第2項に規定する更正の請求ができる場合に該当せず、また本件売上認定額及び本件先行裁決後過大計上額は、平成28年3月期の法人税の所得の金額から減算することができないから更正の請求ができる場合に該当しない」としていますが、審判所は、本件先行裁決前売上認定額及び本件先行裁決前過大計上額と本件先行裁決後売上認定額及び本件先行裁決後過大計上額との間の取扱いに係る彼我の差異については、一切その理由、根拠等を明らかにしていません。当然ながら、本件先行裁決前と先行裁決後売上認定額及び本件先行裁決前と先行裁決後過大計上額にも租税行政庁側の計算に巨額の誤りが存在していることから、「当審判所において、平成28年3月期の法人税の額、平成28年3月課税事業年度の地方法人税の額及び平成28年3月課税期間の消費税等の額を計算すると、本件各減額更正処分の額と同額となる」との判断(裁決)は、(売上認定額及び先行裁決後過大計上額が変動すれば、消費税額も変動することから)欺瞞、虚偽主張に当たり、したがって、その違法性は明らかであり、失当と言わざるを得ません。

 

また、審判所が関与して原処分庁が請求人に行わしめた更正の請求を、後に、「至平成27年3月各更正請求は、通則法第23条第1項及び同条第2項に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。」と自己の前言における判断を覆すのは、明らかな自己矛盾であり、わが民法が規定する信義則(禁反言)の原則に抵触することになります。そもそも、本件各通知処分のその他の部分についての審査請求は、一連の法人税等及び消費税法等の審査請求事件における先行裁決の延長上ないし文脈上にあるのです。審判所は直接の争点化を回避していますが、本来の「争点」となるべきは、原処分庁と納税義務者間の争いの重要な論点の核心であり、本来、これについての判断を示さなければならないものであり、本裁決においては、①当該更正の請求は、通則法23条1項1号若しくは2項1号に該当するか否か、②当該更正の請求は、更正の請求を行うことができる期限(法定申告期限から5年)を経過しているか否かの2点の筈です。そして、これまでに見てきたとおり、①については、いずれも該当し、②については、「法律上の障害」により、法定申告期限から5年を経過してはいないと考えられるところです。(つづく)

文責(G.K

 

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